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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第70話 寂れた工場

 ウォルターとミリアが寂れた工場の跡地を歩いていた。場所はダストシティの外にあるスラムだ。元々は工業地帯として再開発が進められていたが、いつの間にか頓挫していた地域。

 今はスラムとなって、しかし浮浪者が滞在しているというわけでもない。

 錆びだらけな巨大な廃工場が無人の空間にただあるのみである。

 遠近感が狂いそうになる光景に圧倒されながらミリアが脳内の地図と現在地を照らし合わせる。


「情報によると、ここら辺らしいですけどね」

 

 クロが探し出した偽レオンの居場所。現在この場所にいる可能性は低く、過去にいたかもしれない、という漠然とした座標だ。何か成果が得られる可能性が低い上に、罠が仕掛けられている可能性すらある。

 危険な賭けだ。

 だが偽レオンの情報が少なく進展が無い今、低い可能性に賭けるほかなかった。


「これですか?」


 ミリアが立ち止まって見た視線の先には一つの小屋があった。トタンを貼り付けただけの小屋で、錆びだらけ。元は簡易的な休憩場所として使われていたであろうこの場所を、座標は確かに示していた。

 ミリアが持つ通信端末に映し出された周辺の地図と打ってある座標の点も、確かにこの小屋で一致している。

 

 ウォルターもまたその事実を確認すると武器の動作確認を軽く行った。


「まず見てみないことには分からない。俺が先に入る」

「分かりました」

 

 ウォルターが足を踏み出そうとしたところで、装着したイヤホンからクロの声がした。


『気を付けるんだよ。そこら辺は電波が異常に悪い。きっと進んだらこっちから連絡することはできなくなるんだよ』

『『了解』』


 ミリアとウォルターが視線を合わせる。

 小屋は窓一つなく完全に閉め切られていた。ウォルターがゆっくりと扉に手を掛けてひねる。爆弾の類が設置されているのならば解除し――


「――離れろ!」


 一切の予兆なく扉が爆発した。

 着ている強化服のおかげでウォルターとミリアに負傷は無いが、もし生身であれば四肢のどれかが吹き飛んでいた。


(一時期偽レオンが滞在してたってことらしいからな、普通は防衛設備ぐらいよういしておくか)


 ウォルターが息を整えて一旦クロに通話をかけようとイヤホンを触る。しかし応答が無い。


「ミリア。通信できない。そっちはできるか」

「できません」

 

 となると、爆発がトリガーとなって電波障害が生じたか。


「一度、クロに生存の連絡だけしておきたい、頼めるか」

「はい」


 急ぐ必要はない。着実に進めて行けばいい。

 自分が倉庫を見て、ミリアが連絡をする。

 何も難しいことはでない――と勘違いしていたところ、ウォルターとミリアは甲高い機械音を耳にする。


「ドローンだ!」


 小屋の中からだけでなく工場中からドローンが飛び出し、機体下部に取り付けられた小銃を二人に向けていた。


 ◆


「通信が完全に遮断されてるんだよ……まずいんだよ」


 モニターとホログラムに囲まれた小部屋の中心でクロが椅子に体育座りになって状況を挽回しようとしていた。

 ウォルターとミリアが小屋に近づいた瞬間に通信が完全に遮断され、双方間での連絡が一切できなくなった。しかしできなくなったのは通信のみで、ミリアから最後に届けられたメールの類は届いている。

 そして通信端末に搭載された音波探知と熱源探知の結果はクロにも届いていた。


「ドローンが七機。いや十一機。危険なんだよ」


 普通のドローンであれば障害物などを利用して、二人は破壊しきることが可能だ。しかし、普通のドローンで無かった場合はどうなるか分からない。そもそもとしてあの小屋は偽レオンが昔拠点に使っていた場所であり、一部設備が復旧し敵に備えた体制が整えられている可能性があった。

 もともと危険を承知で行った賭けだ。このような結果になってもおかしくはない。

 だが――


「接続え……乗っ取られた?!」


 クロの使っていたデバイスの一つが急に操作不能になった。それだけではなく勝手に操作され、通信用に取り付けていたマイクにアクセスされる。

 同時に偽レオンと思わしき声が聞こえてきた。


『クロさん、で合っているかな』


 クロは一度目を見開いた後、ため息を吐いた答えた。


「まさかこっちがハッキングされるとは……完全に私の失態なんだよ」

『いや、仕方ないことだ。君と僕とじゃあそもそもの基礎が違いすぎる。生身のままでそこまでやれているだけで異次元……と、話はこの辺にして彼らのことが気が気じゃない様子だ。それじゃあ話し合いも困難ということで、一応、彼らは無事だということを伝えておくよ』

「証拠は」

『今すぐには用意できないね。でもドローンはただの時間稼ぎ用。君と話す時間が欲しくてね。そもそも、私には君たちと敵対する道理が無いわけだし』

「何が目的」

『ただ、私たち……いや私は君たちが賢明に追いかけてくるから、少しばかり情報を提供してあげたくなってね。どう使うかは君たち次第だけれど、是非うまく使って欲しいと思っているよ』

「なんでなんだよ」

『大した理由じゃない。わけはさっき話したばかりだろう? というより、これは君たちがどのように動くのか、少しだけの実験だ。果たして僕が望む方向に動いてくれるのか、それともそうでないのか。はたまた予想外を行くのか。少なくとも『きっかけ』はそこにある。君たちの度の行く末、私達はどこからか祈っているよ』

「ちょっとま……」


 マイクの電源がオフになる。


「切れた……というより抜けたのかな。まったく、面倒な奴なんだよ」


 同時にウォルターたちとの通信が再開される。


『クロさん! 聞こえてますか』

「聞こえてるんだよ、ミリア。そっちは大丈夫かなんだよ」

『大丈夫です! ドローン他に敵はいませんでした。ただ戦闘中に小屋の外壁が吹き飛んでしまって、中が露出した状態です』

「小屋の中はどうなってたんだよ」

『いや、なんか、それが』

「どうしたんだよ?」

「えっと……」


 ◆


 外壁が吹き飛んで内部が露出した小屋。ミリアは通信端末を片手にそれを見ていた。

 中には人体模型や電脳の一部、あるいは破壊された義体が転がっている。テーブルの上には脳や神経が薄切りの標本に加工されたガラス板が置かれてあった。


『小屋の中、研究施設みたいになってます。義体のパーツや……脳の標本まであります』


 ミリアがウォルターと目を合わせる。

 床には細かい金属片と、焼け焦げた回路基板が散らばっている。壁際には大型の冷却装置が倒れ、内部の配線が露出していた。


「恐らく義体の組み換えの作業場、あるいはニューロダイバーとして活動するための拠点……なんじゃないかと思います」


 冷却装置に目をやりながら、ミリアは続ける。


『それっぽい資料は残ってないですけど、たぶん』


 ミリアの話を聞きながらクロが先ほどの会話を思い返す。

 偽レオンの話を聞く限り小屋の中に残したものは意図的に選んでいる。ミリアたちに見せたかったもの。それが義体のパーツや神経の標本だとしたら、色々と考えられる。

 クロは思考を詰めながらマイクに口を近づけた。


『義体のパーツなら情報を抜き出せるんだよ。それと神経情報からある程度のことは分かるはず。証拠品として持ち帰って来るんだよ』

『分かりました』

『罠には気を付けるんだよ』

『はい』


 さてどうなることやら、ミリアたちが帰って来てクロが調べるまでは分からない。

 偽レオンが何をしようとしているのか、その一端でも知れればそれでいい。

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