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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第68話 提案と交渉

 ケルンに案内された先の部屋ではやけにがっちりとした筋肉質の男がいた。この男がカイマンだ。粗暴な面持ちと緊張感のある雰囲気、鍛え抜かれた肢体。彼が現場上がりの人間であることは一目で見抜けた。

 対するダンテもまた、細身ながら確かに引き締まった体をしている。

 現場上がりで所属している隊員のことを一番に考えるカイマンからしてみれば、ダンテのように戦いの経験がある奴の方が、顔色の悪い研究者より好印象だ。カイマンはダンテを見てから少し後ろに控えるミカを見て、ケルンに目配せをする。

 第一の関門は突破か。


「どうぞ掛けてください。コンペティションの件で、先に話しておいたほうがいいことがある」

 

 カイマンはその相貌には似つかわしくない丁寧な言葉でダンテを歓迎する。交渉に当たってカイマンの人柄については調べていたが、予想以上に巧い人物に見える。ミカたちにとっては粗暴でいてくれた方が、いくらか話は回し安かったかもしれない。

 現場上がりながら評価部の部長に成り上がっただけある。


「お招きいただき、誠にありがとうございます」

「こちらこそ」


 では、とカイマンは続ける。

 カイマンのような男は場を温めるための会話はしないだろうし、なくてもいいと思っているタイプだ。

 大きな回り道はしないで、本題から切り出してくる。


「今回のコンペティション。審査に出された銃器はどれも、誤差はあれど最高のものばかり。中でもあなた方、ネクストセル・コーポレーションのN-KO3は素晴らしい出来だった」


 前置きはこの程度。


「そちらもある程度のことは理解していると思うが、N-KO3を採用したいと思っている。今日は事前の連絡と確認をするためにお呼びした」


 コンペティションの終了日程まではまだ少しある。その後に正式な発表となるが、その前に採用企業とは色々と話をつけておかなくてはならない。ミカたちはそのために呼び出された。


「採用に当たり、こちらから幾つか確認した事項がある。いいかな」

「構いません」

 

 カイマンはダンテとミカの目を一度見てからテーブルの上に置いてある書類の一つに目を通す。


「実地試験を経て出た測定数値はどれも最高水準。N-KO3を実際に使用した隊員からの評判もいい。実際、私も使ってみたが素晴らしい出来だった」

「ありがとうございます」

「ただ幾つか懸念点がある」


 書類をテーブルの上で一度弾ませてからカイマンはダンテを見る。


「まずそちらの生産体制に関して。独自で調べさせてもらったが、設備は古く、施設は老朽化している。とても大量に生産できるラインを整えられているとは思えない。採用の後、すぐに全隊員分に用意する手筈だが、果たして間に合うだろうか」


 ミカたちはダンが所有していた工場を再利用してどうにかN-KO3を作っている。ダンの工場はもともと武器を製造するための設備が整えられていたこともあり、再利用は容易だった。

 しかしそもそもとして設備がN-KO3を作るための規格ではなく、どうしても粗が出る。

 整った生産ラインが整えられているとは到底思えない。

 これからバトルシステムズの全隊員に武器を支給し、これからも購入することを考えれば、重大な懸念事項となる。


「加えて社員は少人数。工場の自動化が済んでいない状況で、大量発注に耐えられるだけの耐久性があるのかも疑わしい。懸念事項は幾つもあるが、まずこのことについて話がある」


 カイマンはダンテが言うはずの弁明・反論をすべて予想できていたため、聞かずに自らの話——本題を通す。


 ネクストセル・コーポレーションは資金力や設備こそ足りない部分が多いものの、武器を作る腕は確かだ。隊員からの評判もいい。であるのならば。


「買収したい」


 そう告げた。バトルシステムズほどの大企業はそろそろ自分の中で武器を製造する部門があってもいいと思っていた。ネクストセル・コーポレーションの規模に対して異常なまでに高い技術力ならば、新しい部門を作るのにも適任。

 問題である工場の設備体制や人員もバトルシステムズが買収することで整わせられる。


「どうだろうか。期限は明後日まで。それまでに考えてもらいたい。もし何か確認したい事項があれば後ろの……ケルンに聞いてもらってくれ。彼女ならば何であろうと答えてくれる」


 買収……つまりミカたちの会社がなくなるということ。

 バトルシステムズという大手の元で潤沢な資金を武器開発ができればさぞ楽しいことだろう。

 しかし、それでは違う。

 ダストシティの王冠クラウンは取れない。

 それにこの事態はすでに予想していた。

 故に、明後日まで待たずとも解答は用意できている。


「買収の件につきましては、承諾いたしかねます」


 ダンテは一切迷わずカイマンと視線を合わせながらきっぱりと言い放つ。


「代わり、と言ってはなんですが、こちらかも幾つか提案させてもらいたいことがあります」

 

 提案を断った上に要望を聞いて欲しいと願うその傲慢さ。大胆さ。普通ならば突っぱねてしまってもいいだろうが、カイマンのような男ならば乗るとダンテは踏んでいる。


「分かった。聞いてやろう」

「ありがとうございます」


 これから言うことは無理難題かもしれない。しかし通るはず。すでにネクストセル・コーポレーションはその結論に至るだけの技術力を見せている。


「我が社に設備投資をしてもらいたいと思っています」

「設備投資、か。私の案に乗れば良いだけだろう?」

「N-KO3の特許権を渡します。ライセンス料は貰いません。代わりに設備投資をしてくれませんか」

「……ふむ」


 別にネクストセル・コーポレーションを買収せずとも製造部門を作ることはできる。最適ではないが代替ができないわけではない。KH-22の件についても設計図と権利を渡してもらえるのならば承諾できる。

 

「既存の設備をすべて無償でお渡しします」


 つまり、製造部門を作り、ダンの工場を再利用して自分達で勝手にN-KO3を作れ、ということ。

 その代わりにネクストセル・コーポレーションに資金提供・設備投資をして貰いたい。

 ダンテの言い分はこんなところだ。


「もし承諾していただけるのでしたら、第一のお客様として、最優先で検討させていただきます」


 つまり、将来大企業に育つ可能性のあるネクストセル・コーポレーションに賭けろと言う話。

 特許もライセンス料もやる。その上で恩も売らせてやる。その代わりに設備導入の資金をくれ、ダンテはそう言っているのだ。


 提案したはずが、なぜか提案される側に回っている。

 この奇怪な状況にカイマンは不意を突かれつつも、内心でダンテという男の価値を一段階上に引き上げる。


(面白い)


 N-KO3の特許を渡すということはネクストセル・コーポレーションは武器を一つ失うということ。企業の規模を見ればN-KO3のために多くの資金と人員と時間を割いたはず。そのN-KO3を売り渡し、設備を強化した再出発。

 危ない賭けだ

 

(いや……)

 

 ダンテが策も無しに危険な賭けに乗るようには見えない。

 N-KO3を売り渡しても良いと思えるような策があるはずだ。

 別に稼ぐ手段があってもいいはずだ。

 そう、例えば。


 ……N-KO3とは別に開発している銃がある、とか。


(そうか……)


 N-KO3を売り渡しても良いと考えたのは、すでに別の武器の製造が進んでいるから。

 ネクストセル・コーポレーションの主力商品はN-KO3とは別の銃なのかもしれない。

 あるいは二本の柱か。


(面白い!)

 

 ネクストセル・コーポレーションの裏側にある意図に気がついたカイマンがダンテを見る。その目は確かに野心と自信に満ち溢れ、真意に気がついたカイマンに選択を迫る雰囲気を醸し出していた。

 

(俺が気がつくところまで計算済みってことか)


 これはいい商売相手になる。

 必ずネクストセル・コーポレーションは成長する。

 賭ける価値しかない。

 

(ただ、俺の一存で決めれないことだけが、残念だがな)


 大企業故、この場でカイマンの独山先行で頷けないことだけが残念だ。


「分かった。上に話をあげよう。返事は……少し待て」

「ありがとうございます」


 二人が会話を交わす。

 その後ろで交渉を見守っていたミカは一切表には出さず、安堵の息を吐いた。

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