第66話 作戦を進める
バトルシステムズの敷地内に足を踏み入れたミカたちはまず、受付へと進んだ。広大なダストシティの外縁の一部を切り取って囲われた空間に立ち並ぶ、幾つもの建物。
それら一つ一つが研究棟や訓練棟などに分かれている。
入り口から入ったミカたちはすぐに指定された道に従って、指定された建物に向かうよう指示される。目的の建物は入り口から遠くはなく、一分ほどで辿り着いた。灰色の外壁で覆われた四角形の建物だ。
窓は辛うじてあるが、それ以外は何もない。
良く言えば武骨なデザインだ。
やけに広い自動ドアを潜り抜けて中に入る。
受付は入ってすぐだった。
「お待ちしておりました」
入ってすぐミカたちに声をかけたのは受付に立つ女性だ。その女性をミカたちは見覚えがあった。
どこか可愛げがあるのに凛とした雰囲気を漂わせる、眼鏡をかけた女性。
ダンテと共にエルドファミリーを興したケルンがそこにはいた。
ミカたちは彼女がバトルシステムズで働いていることをすでに把握しているので、ここで出会おうとも驚きはない。そして一つや二つ、会話を交わしたいところだが、設定上、ミカたちとケルンは互いに知らない。
コンペティションに参加する企業と社員に個人的な関係があれば評価が疑わしくなってしまう。それを避けるためにここでの会話は必要最低限に抑えられる
「ダンテさんですね、そちらは護衛の傭兵と。分かりました。先へお進みください」
ダンテが会員証をかざすと、読み取られた情報をケルンが確認する。
その際に二人はケルンと一度だけ会話を交わしたが、それのみ。ミカとダンテが遠ざかっていく後ろ姿をケルンは受付から、横目で見る。
(さて……予定通りに進めばいいですが)
◆
コンペティションとは言っても行われるのは単なる確認に過ぎない。事前の書類審査ですでに、重さ、射程、耐久性、故障率、メンテナンス性、価格、弾薬の互換性、過酷環境での動作具合などについては数値としてまとめて提出している。
その上で書類選考を突破した銃の実物を提出し、実地試験が行われるという予定。
その実地試験がコンペティションであり、今日行われることだ。
ミカとダンテはある部屋から試験が行われる場所をガラス越しに見下ろしていた。
実地試験に不正が行われないよう、銃を提供した側の人間が試験を見ることができる。
(俺らがすることはもう何もないから、見てることしかできないけどな)
ダンテの横で試験が行われている様をミカが見下ろしていた。
実地試験で行われることは単純だ。
数千から数万発撃って故障率を測る耐久試験。
砂漠、湿地、寒冷地などでの動作確認。
射撃精度の比較。
泥に落とす、凍らせる、熱するなどと言った耐久と信頼性の試験。また泥が入った際や水にぬれた際の整備性試験
最後に兵士による評価。
つまりはバトルシステムズに所属する戦闘隊員の評価になる。
今行われているのは単純な実地試験だ。
弾を撃って、的を狙って、水や泥まみれにしたり、冷やしたり熱したり、一つずつ確認していって点数を付けていく。
今回ミカがコンペティションに選んだのは一挺の小銃だ。
見た目はコンパクトに取り回しのしやすさを優先し、重量は軽く、精度も完璧、耐久性については文句ひとつ付けるところが無い。冷やしても熱しても、水中に沈めても泥を入れても、よっぽど整備状態が悪く無ければ使える。
飛び出た特徴は何一つとしてないが、どこまでも堅実な武器。
バトルシステムズの業務内容は企業の傭兵として様々な護衛任務や警備任務にあたる。加えて企業間の抗争に駆り出されることもある。様々な状況に対応できる武器が求められているはずだ。
当然、一点突破の局所的な場面に対応するための武器が欲しいという狙いもあるだろうが、もし欲しいのならば企業に要望を言って専用に作ってもらうはず。
ミカたちが用意した小銃はバトルシステムズの要望にもっとも沿った形の製品だ。
「大丈夫そうですね」
実地試験の様子を眺めながらダンテが安堵のため息を零す。
まずは第一関門突破だ。
「あとはバトルシステムズ次第ですが……」
本当に大丈夫ですか、という視線をダンテはミカに向ける。
ミカはあくまでも彼の傭兵として振る舞いながら答えた。
「あんたも知っての通り、今回コンペティションが開かれたのは装備の新調のためだ。現在バトルシステムズが導入している装備を見るに、採用した年度が古く、尚且つ性能が物足りなくなっているのは小銃……と小型銃だ。ただ後者に関してはもうほとんど使われておらず、採用企業からの追加購入は無く在庫から支給していっている状態。無くなったらもう多分採用はしないだろ。つまり、今回のコンペティションは主に新しい小銃を探す目的もある」
バトルシステムズが採用している装備の中でも小銃は数年間新調されておらず、スペックにどこか型落ち感が否めない状態だった。他にバトルシステムズが採用している装備の中で特段型落ち感のある武器・武装は無く、今回のコンペティションは小銃を新調するために開催されたとみてもいい。
事実、バトルシステムズから出された応募条件を見るに、明らかに性能のいい小銃を欲していた。
つまりミカたちが用意すべきなのは小銃。
厳密には数年前に採用されたコーテン社製M-MI2の上位互換となるような武器が求められていた。
ミカが今回作り上げたN-KO3はあらゆる面においてコーテン社製M-MI2を上回る性能をしている。一部の点に目を瞑れば、だが。
(問題は値段か……)
ミカたちは満足に武器を製造するための工場を持たない。
なんとかダンが使っていた工場を再利用して、『それっぽい』ものは作ったが、他の企業と比べると大量生産はできない。材料の入手経路が確立されているわけでもない。
必然的に値段は高くなる。
大手民間警備会社であるバトルシステムズの懐は温かいだろうが、決して安くはない武器を数百挺という数購入できるだけの胆力があるか。
(少なくとも……)
バトルシステムズに所属している隊員の評判がいいのはミカたちが作ったN-KO3だ。
従来採用されていたコーテン製M-MI2と外観、取り回し共にほぼ同じにしたおかげか。
しかしこれだけしても勝てるとは限らない。
当然、勝算はあるが。
どこか緊張感の漂う室内で訓練場を見下ろす二人。そろそろ次の実地試験が行われようとしていた。




