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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第64話 まず初めに

「そんな報・連・相がなってないことあるんですかね?」


 特別四課の事務所で暇を持て余して机に突っ伏している課長に、ミリアが声をかける。

 内容は偽レオンの捜査に関してのことだ。

 話を聞いて調べた限りでまず思うのは警察《PCD》が組織としてあまりにも杜撰だということ。はっきり言って偽レオンの報告が警察上層部にまで届くのにかなりの時間を要しているし、たとえアストラ製薬の関係者だとしても素性を少しぐらいは調べる。

 あるいはそれとなく確認するはずだ。

 しかしそれらをせずに二か月という月日を無駄にした。

 組織として杜撰というほかない。

 そのミリアの意見に課長は同意しつつわけを説明する。


「そこが不思議なんだよな」


 警察組織は一枚岩というわけでも風通しのよい職場というわけでもない。しかしそうであっても事件に関しての報告は必ず上にあげる。二か月もかからない。


「まあこれは明らかにおかしいことなので、偽レオンに妨害されていた、という推測が立つ。まあ実際、妨害の痕跡が残っていたわけだが」


 報告が上にまで行き届かないよう妨害されていた。妨害した犯人は不明だが、状況を鑑みるに偽レオン以外ほかない。

 そしていくら警察《PCD》と言えどそれなりのセキュリティが施してあるので、誰にも気づかれず情報を捜査した偽レオンはニューロダイバーとしてもそれなりの腕がある。

 相手がサイバー空間を知っている以上、ネットに証拠はそう多く残さない。

 残っていたとしてもデマであったりわざと残しているパターンがほとんどだ。

 捜査を始めて一週間、ミリアたちは一切進展していなかった。


「あんまり……というか全然進みませんし」


 机に突っ伏している課長と共にミリアもまたどこか気だるげな雰囲気を纏わせる。その時、突然扉が開いてダボダボのパーカーを来た幼女が現れる。課長とミリアは幼女の姿を見て目を見開いて声を出す。


「あれ、《《クロ》》さん。久しぶりですね」

「あっれー。どうしたの、出てくるなんて」


 幼女は特別四課のセキュリティをネットに関しての捜査のほぼすべてを網羅するニューロダイバーであるクロだった。

 クロは後頭部に手を当てて気怠そうに返事をした。


「少し用事があって出て来たんだよ。大したことじゃないんだよ」


 クロはそう言いながら部屋の隅に置かれたソファに身を預ける。


「来たついでに説明しておくと、この偽レオンってのは、痕跡の残り方からして相手はかなりの手練れなんだよ」


 クロもまたミリアたちと同じく偽レオンの捜査に当たっていた。この一週間すべてのタスクを偽レオンの捜査に割り振って調べてみても成果はゼロ。かなり手強い相手だ。


「それも私と同レベか、上か」


 ため息を零すクロ。

 信頼していたクロでも手強いと言ってしまうほどの偽レオンにミリアはどこか自信を無くしている。


「え、そんなにすごい奴なんですか、その偽レオンは……」」


 果たして自分の力でどうこうすることができる相手なのか、ミカも失った今は人一番頑張らなければならないのに、とミリアはもやもやとした気持ちをかかえる。ただそんなミリアをクロはフォローするように説明する。


「偽レオンは事前情報の通り、義体化そして電脳化を行っているんだよ。サイバー空間に潜る時、体の機械化の比重が高いほど親和性が高くなるんだよ。生身でニューロダイバーしてる私からすると、結構きつい相手なんだよ」


 サイバー空間へと意識を投下する際、身体の機械化の割合が高いほどその親和性が高くなる。より深く潜ることができる。その分、サイバー空間から帰ってこれなくなる可能性も上がるが、同時により深い場所で情報の捜索が可能となるメリットもある。

 生身であるクロには全身を機械化した手練れのニューロダイバーはきつい相手だ。

 それでも、いつもはどうにかして情報を抜き取り、掴みとり、相手を出し抜いてきたが今回の相手は違う。偽レオンは素の実力がクロと同じか少し上か。能力で並ばれたのならば、機械との親和性の高い方が勝つ。


 色々と試行錯誤しているが、クロでも面倒な相手なのは事実だった。

 だから今日は久々に地下の部屋から出て気分転換に事務所を訪れていた。


「どうにかしてやるしかないんだよ」


 クロ一人では難しいだろうが偽レオンが相手どっているのは警察機構そのもの。そして特別四課のミリアとウォルターも協力している。

 どうにかなると思いたい。

 そう楽観的に考えてクロはソファに深く沈み込んだ。


 ◆


「確かに、これはすごいわね」


 ゲルグにあるクレイトンの基地で、ミカはエマにエネルギーパックのことを説明した。

 一通り話を聞いて資料を確認した後、エマは言葉を漏らす。


「すごい、けどね」


 額面通りの性能が発揮できるのならばエネルギーパックは確かに革新的だ。しかし幾つもの欠陥を抱えている。


「確かに、この設計書さえあれば。理論上は可能に見える。けど機械と材料が分からない」


 ミカはエネルギーパックの製造図に関してウィンドウの情報を使ってどうにか形にした。

 しかし形にしただけでその理論を実践するための機械や材料が揃っているわけではない。どちらかというと、ウィンドウのおかげで結論と至るまでの仮定りろんが見えているため、問題はどうやって製造するかになる。

 

「それに作れたとしても大量生産のための工場を作るとしたら、かなりの手間になる」


 エネルギーパックは未知ではないが全く新しい機械の動力源になる。製造する機械は一つも無く、エネルギーパック製造のために専用の機械を作るか、既製品でどうにか合わせるしかない。


「もう一つ。作れたとしても売れるのか、という問題もあるわね」


 エネルギーパックはそれ単体でも凄まじい価値を誇るが、真価を発揮するためには使われなくてはならない。エネルギーパックは既存の動力源に対して互換性は当然に無く、使われる場所がない。つまり、エネルギーパックを使うためにはそれ専用の機械が必要になる。 

 その機械も製造する必要がある。

 そう考えるとエネルギーパックだけが問題じゃない。

 会社として事業を成立させるためには様々な問題がある。

 

 エマは誰でも気がつけるその問題に対しての解答をミカに求める。

 ミカは一つも焦らず笑って答える。


「後の話は今考えたって仕方ない。取りあえずエネルギーパックを作ろう」

「え、私の話聞いてた」


 後先考えずに進めるようなプロジェクトではない。

 そもそもミカが何も考えず起業という大胆な行動を行うとも思えない。何かしらの作戦があるはずなのだ。隠しているのか。あるいは本当に何もないのか。


「そんなんじゃ私は協力しな」

「協力してくれないんだったら、ここからは俺一人で進める」


 ミカは気にせず言い放つ。

 もともとエマがいなくても進めるはずのプロジェクト。

 今回はたまたまエマという良い人材がいたから引き入れようとしただけに過ぎない。

 いないのならば、それでいい。

 

「俺も無駄に時間を取らせたいとは思わない。どう考えたって失敗するプロジェクトだしな。だから今ここで帰ってくれて構わない」

「帰った先で私が情報をバラしたら?」

「バラさないって契約だろ」


 つまり、バラしたら契約違反。ミカのような実力のある個人に追われるということは、つまり、結末は容易に想像できる。


「それに、まだ隠してることもある。本格的に協力してくれるってなったら開示する」


 ミカはまだすべての情報を渡したわけではない。今のままではエネルギーパックは作れない。もしエマが理論を持ち帰ったところで今のままでは形にならない。というより、基礎となる部分で間違っているためまず作れない。もし協力してくれるのならば、今度は本当の理論を見せる。そういう取り引きだ。

 誰がみても明らかな泥舟。

 だから、エマはその泥船に乗ってみることにする。

 アストラ製薬に一泡吹かせるという彼の言葉を信用して、一人の科学者として一人の技術者としてエネルギーパックという未知の動力源の誕生に立ち会いたくなった者として。


「ま、いいわよ。暇だし」

「よし、じゃあ始めるか」

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