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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第62話 拠点の集め方

 ゲルグを取り囲んでいたスクラップの山は、エルドファミリーが片付けたことによって一部取り払われていたものの、エルドの死によって組織が崩壊したことで、それも止まった。

 今はゲルグに元々住んでいた人々が自治組織として立ち上がり、外部からの侵入を拒んでいる状態。ただ、エルドファミリーが作ったゲルグからパウペルゾーンまでの道は塞がれず、今も使われている。

 ミカはその道を歩いていた。

 周りに積まれたスクラップの山は変わらず、鉄臭くて、機械油が垂れていて、どこか親しみを覚える。

 そしてゲルグに辿り着いてみれば見覚えのある景色と感じたことのある閉塞感。安心感がある。

 ただ、エルドファミリーが改修したおかげで天井の一部は取り払われて解放感があり、唯一の入り口だった片開きの扉も無くなって開けた入り口になっている。僅かに変わってしまった光景。

 見た目だけでなく、中身もミカが知る当時のものとは異なっているだろう。

 ゲルグの入り口に辿り着いたミカを出迎えたのはゴードンだった。


「よぉ、何しに戻ってきた」

「少しクレイトンの基地に用事があってな」

 

 ゴードンは苦笑しながらミカを迎え入れ、二人はともに並んで歩く。


「この二年間、何してたんだ」

「ダンテから聞いて無かったか?」

「お前経由で知り合いとは言え、別に親しい仲じゃなかったからな。別に訊かなかった」

「なんだ、そうだったのか」

「お前ならどこに行っても楽しくやれてる……とは言い切れねえが、まあ生きてるとは思ってたからな。心配はしてなかったよ」


 ミカもまた苦笑する。


「そりゃ買い被りだろ」

「俺の見立てが甘かったってことか?」


 ゴードンが隣を歩くミカを見る。


「その様子じゃ、行った先で失敗したらしいな」

「少しな。思いのほか大変だった」


 ダストシティで実力一本で成り上がれると勘違いしていた。しかし警察《PCD》に所属したことでその認識も変わった。癪ではあるが、ダストシティで企業と対等にやり合うためには、こちらもまた企業でなければならない。

 甘いのは自分だったと、思い知らされた。


「おおかた、ダストシティにでも行ってきたんだろ」

「さすがに予測ぐらいはついてたか」

「そりゃな。ケルンの嬢ちゃんも今ダストシティにいるんだろ」

「よく知ってんな」

「まあ少しは話したからな」


 二人はゲルグの中を進みながら話す。

 義体のパーツや人口肉、何かのペーストなどが置かれた露天商が両脇にずらりと並び、様々な人々が行き交っている。ダストシティでも地下街の探索のために、ゲルグと似た外路エリアを訪れたが、やはり本物は違う。

 ミカは周りの光景を懐かしみに、そしてゴードンを話す中でいつもの場所に辿り着いた。

 上層から下層を見渡すことのできる断崖の端だ。

 ゴードンは柵に背中を預け振り返ってミカを見る。


「それで、下層に行って何をするつもりだ」

「クレイトンの遺産を取りに行く」

「ってことはまたやり合うのか。懲りねぇな」

「力で解決できることなら力で解決した方が手っ取り早いからな」

「その言い方じゃ、ダストシティでは力だけじゃ通用しないってことが分かったらしいな」

「まあな」


 ダストシティの現実を知ったミカがどのような選択を取るのか。幾つか予想できるが、クレイトンの基地を取り返しに行く、この言葉だけである程度は予測できる。あまりにも馬鹿げた予想だが。


「勝機はあるのか」

「あるさ」


 ミカが柵から離れて下層へと至るための階段へと向かう。

 その後ろ姿にゴードンは言葉をかけた。


「もし成功したら、俺にも美味い汁すすらせてくれよ」

「ははっ。成功したらな」


 ◆


 特別四課の事務所に突如として現れた課長は、テーブルの上にホロ端末を置いて、いつものように任務の説明を始める。

 慣れたことなのでウォルターとミリアは特に動じず定位置について課長の話に耳を傾けている。


「まあ最初に言っておくと。この任務はうちらだけで担当することになる上に、事前の情報もあまりないから、たぶん長くなる」


 課長はそう前置きをして本題に入る。


「任務の内容は対象B——いや、まあ『《《偽レオン》》』ってところか。こいつを捕まえること」


 ホログラムに映し出されたのはミカが地下街の外路エリアで出会ったレオンの偽物。


「二人も知っての通り、こいつは地下街での探索でミカが出会った男だ。レオン殺害の犯人の可能性が高く、また建物内に残っていた証拠物を持ち去った可能性がある。今回の任務は、簡単に言ってしまえばこいつを捕獲することだ」


 課長の説明を聞いたミリアがいつも通り、素直に疑問を口にする。


「遅いですね?」


 偽レオンの存在が露呈してからすでに二カ月ほどが経とうとしている。特別三課の人員が殺されている以上、真っ先に動くべき事案。今になってから、というのは遅すぎる。


「ああ、それな」


 課長は額に手を当ててため息を吐いた。


「まあミリアも知っての通り、以前私達が追っていた電脳系麻薬——M-2PIKの捜査は上層部がアストラ製薬から圧力をかけられたことによって生じた」


 ミカもM-2PIKの捜査の際に警察組織《PCD》の背後に企業がいることは分かっていた。同様に、ミリアたちもM-2PIKに企業が関わっていることが分かっていたため、アストラ製薬の名が出た所で驚きはない。


「あの事件は製造・販売元の企業を突き止めることで終息したわけだが、ミカは止まらず……っとその話は別にいいか」


 深追いをした結果、現実に絶望したのか、あるいは現実を知ったのか、ミカはダストシティを去った。この件について触れると話が逸れるので本筋に戻す。


「えーと。つまりだ。ミリア」

「はいっ」

「お前はこの偽レオンをアストラ製薬の手の者だと思ってたよな?」

「はい……え? はい」


 外路エリアでミカが出会った偽レオンは資料を回収するとすぐにその場から姿を消した。


「順を立てて説明してやるからな」


 最終的な操作の結果分かったことだが、ミカたちが襲撃した販売拠点にはアストラ製薬に関しての情報は一切なかった。普通に考えて、M-2PIK製造のきっかけとなったアストラ製薬に関して企業名は無くとも匂わせる何かがあるはず。

 しかし何も無かった。

 

「つまり、偽レオンが持ち去った資料はアストラ製薬に関してのものというわけだ」


 アストラ製薬にとって何か不都合な情報が見つかる前に企業部隊の人員に回収させる。

 いくら警察組織《PCD》に圧力をかけられるとしても、弱みを握られればそう簡単に言う事を聞かせることはできない。ならば先に不都合な情報は回収してしまおうってことだ。


「このことから導き出せる答えは、偽レオンがアストラ製薬側の人間だったということだ」

「え、でも」

「まあ落ち着け。レオンが殺されたのはおおかた、先に真実に辿り着いてしまったから、ってところだろ」

「え、でも」

「順を立てて説明してやるから待ってなさい」


 疑問が止まらないミリアを抑えて、課長がホログラムを切り替える。


「まあ偽レオンがアストラ製薬側の人間であればたとえ特別部門の人員を殺したとしても捜査はできない。一人の人員のためだけに企業に睨まれたくはないからな。だから意図的に、偽レオンはいないこととして処理された。当然、ミカが捜査したあの現場には偽レオンはいなかったし、本物のレオンの死は別件で処理されている」


 ここが問題なんだよ、と課長が指を立てる。


「結論から言うと、偽レオンはアストラ製薬側の人間では無かった」


 課長は先ほどと同じように額に手をついて首を振りながらため息交じりに呟く。


「どこからか偽レオンの情報がアストラ製薬に漏れたらしくてな。それでアストラ製薬が『いや、そいつうちの企業部隊員じゃないし』って言って、分かった。アストラ製薬が嘘を吐いたところで警察は無いも出来ないからな、この発言はまんま感想だよ」


 で、と課長は続ける。


「なんで偽レオンの発見から捜査開始までに時間がかかってしまったのかというと、単純に当初は、偽レオンがアストラ製薬側の人間だと思っていたから、捜査することができないと思っていたからでした」


 パンパンと課長が手を叩く。


「単純に考えて偽レオンは外路エリアでアストラ製薬の資料を持ち去った他人ということになる。どのような資料を持ち去ったのかは分からないが、まあアストラ製薬からしてみれば怖いだろ。ということで、捜索することになりました。ぱちぱちー」


 理論はしっかりとしている気がするが、穴もあるように感じる説明だった。しかしどこか納得もできる。

 偽レオンを追えなかった理由、今更になって追うことになった理由、それだけは確実に理解できた。

 確かにこれは面倒な任務だ。

 偽レオンがどのような思想を持って行動しているのか分からない人物であり、レオンに擬態していたことを考慮すると身体拡張者。義体を使って体を乗り換えている。相手が電脳空間に潜んでいる可能性がある以上、捜査は難航する。

 

 捜査に至るまでのこと、捜査に関してのこと、すべてを理解した上でミリアは頭がパンクしそうになっていた。

 そしてどうにかこうにか絞り出した言葉は警察組織への苦言だった。


「なんでしょう、警察うちってそんな組織だったんでしょうか」

「はは、何当たり前のこと言ってるんだ」


 課長はいつものように快活に笑ってミリアの苦言を一蹴した。

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