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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第61話 またスラムで

「えぇ?! そんなことあったんですか?!」


 特別四課の事務所の中でミリアの声が響く。伝えていたウォルターはミリアを落ち着かせる目的も込めて、もう一度丁寧に説明する。


「つまりだ。ミカは特別四課を辞めた。いや厳密には、急すぎるから色々とあいつにもして貰うことは残ってるが、まあ基本的には辞めたってことだ。もし緊急の任務があって人手が足りないようなら来てくれる」

「い、いやいやっ?! 私が聞きたいのはそこじゃなくてですね?!」


 ウォルターがミリアに伝えたもう一つのこと、それは起業に関してのことだ。


「まあそれは俺もよく知らん」

 

 ウォルターがミカから聞かされているのはあくまでも概要だけ。詳しく内容を聞いたわけではない。

 ただ概要だけでも『起業』という文字には凄まじいインパクトがある。ミリアの反応も当然のものだった。そしてウォルターから起業に関して知らないと言うのであればミリアはもうそれ以上聞くことができない。

 仕方なく少し話題をずらした。


「それじゃ……ミカさんは、い、いまどこにいるんですか?」

「分からないね。ただ実家に戻ってるみたいなことは言ってたな」

「実家?」

「比喩だ比喩。まあ元いた場所に戻ったってことじゃねえか?」

「元いた場所って……」


 ミカには特別四課に入る前の経歴が一切存在していない。ミカ自身が自分から話すことはまず無かったし、ミリアたちが聞くことも無かった。所長もミカの経歴については知らないと言っているし、誰一人としてその過去を知る者はいないだろう。

 それでも、ミカの立ち振る舞いや言動を見ていればある程度のことが見えてくる。

 ミリアとウォルター、そして課長も含めて同じ結論に達していた。

 その結論を始めて口に出したのはミリアだった。


「す、スラムってことですか?」

「まあ……だろうな」


 あれだけの経験があるというのに傭兵として活動した経歴が無く、日常会話の中で稀にかみ合わないことがあった。少し常識からずれていたり、知らなかったり、明らかに不自然。

 その違和感はスラムの出身という情報を加味すればうまく無くなる。


「えぇ……じゃあどうするんですか」

「どうもこうもしないだろ。どうせ特別四課おれらに振られる業務は大してないんだから、面倒な任務意外ならどうにかなるだろ」

「まあ……そうですね」


 二人の会話が一段落したところで課長が事務所の中に入って来る音が聞こえた。

 音はすぐに扉の前まで来て、ノックの無しに開けられる。


「さあ諸君! 面倒な任務の時間だ!」


 ◆


 起業する、とは言ったもののその道は果てしなく長い。

 大前提としてエネルギーパックを実用可能な段階まで仕上げなければ製品として販売することができない。こちらは、ウィンドウを見ることで製造方法は分かっている。

 電脳に使われる液体電池などを参考にしながら、理論を元に肉付けしていけばいい。

 難しいだろうが、暗闇の中を手探りでエネルギーパックを作るわけではない。

 

 ただ、作れたとしても問題はつきまとう。

 エネルギーパックは確かに従来の電源のユニットを凌ぐ効率を誇る次世代のエネルギーになり得るが、使える製品が無ければ意味が無い。現時点でエネルギーパックの供給は無く、当然、エネルギーパックが使われる製品は無い。

 つまり、ただエネルギーパックを作っただけでは一切売れない。あるいは、大企業にその有用性に目を付けられ、技術を奪われる。

 

 最高の効率を目指すのならばエネルギーパックが使える規格の製品を普及させるか、エネルギーパックを現代に流行している製品に使えるようにするか。そしてエネルギーパックの有用性に気がつかれる前に、大企業が動き出す前に、市場で圧倒的な権力を持つ必要がある。

 すべての下地を整えるのは難しい。

 まだ現実的な未来は見えない。

 だからまずはできることを一つずつこなしていくしかない。

 第一に重要なのはエネルギーパックを製造する体勢を整えること。

 用意はある。

 スラムにはミカが知る限りで幾つかの拠点を使えばいい。

 ダンが残した工場、あるいはゲルグにあるクレイトンの研究基地。

 エルドファミリーとギルバーンが力を失った今、それらの管理は別の組織が行っている。


 つまり、今行わなければならないのはエネルギーパックを製造するための工場を奪い返すこと。

 エルドファミリーとギルバーンがいなくなり様々な組織が乱立するスラムを整地すること。


「行くか」


 何の因果かスラムに舞い戻ったミカは、拳銃一丁のみを携え、敵対勢力の排除へと動く。

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