第6話 相棒の真価
商業組合の拠点がある場所は分かっている。あとは、幹部たちが臆病にも逃げるよう腰抜けではないことを願うばかり。
ミカは頭や左手から血を流し、屋根に押しつぶされた衝撃で体中が痛いのだ。それでも傭兵を相手に殺しに向かって行ってやっている。是非その気持ちに応えてもらいたいところ。
(ったくよぉ……思ったよりもいるな)
商業組合の拠点はスラムから離れた荒野の、岩石地帯に存在している。岩石に囲まれ、周りを地平線で囲まれたその拠点は、まるで襲撃されることを極端に恐れているかのような場所だ。周りには障害物も無く、敵意を持って寄れば狙撃銃に撃ち抜かれる。
エルドファミリーが迂闊に近寄れないのはそのため。
別に潰すこと自体は可能だが、如何せん場所が場所。その堅牢な防御を崩すためには相応の武器と犠牲が必要になる。だから放っておいた。その拠点に今度は、ミカが単身で乗り込もうとしている。
(ま、乗り込もうとするのも大変なんだけどな……)
それにミカの乗り込む前から傭兵に襲われる。地平線の無い荒野を移動して拠点に近づくだけでも至難であるのに、傷ついた体でスラムの住民に擬態した傭兵を殺さなくてはいけない。
「ただよぉ」
人通りの多い場所を歩いているところで、ミカがすれ違ったスラムの住民の首を掻っ切る。
なまじ訓練を受けた人間の動きというのは分かりやすい。
歩き方や姿勢、視線の動き。ある程度は誰が傭兵で、誰が傭兵ではないのか区別がつく。案外、住民に擬態してくれている方が、先手を打ちやすくてやりやすい。問題なのは人混みの中にいるというのに一切気にせずにぶっ放してくる奴だ。
「馬鹿が―――」
人混みの中に発砲音が響く。それはミカを屋台の上から狙っていた一人の傭兵によるものだった。幸い、ミカはその存在を認識して事前に回避していたから良かったものの、ミカのすぐ隣にいた人物は脇腹を撃ち抜かれた。
医療施設の無いスラムでは、あの怪我はまず治せない。
さすがにこれ以上の死傷者を出すわけにはいかない。赤の他人と言えど、命の軽いスラムと言えど、自分のせいで関係のない赤の他人が殺されるのは目覚めが悪くなる。
ミカが人混みを抜けて、走り逃げた先はスラムの南地区だ。
ジャンクヤードと居住地域が混ざり合ったかのような空間で、バラック小屋がゴミ山に重なるようにして存在している。元々はスクラップ漁りをできるように、とジャンクヤードに居を構えたのが始まりで、昔はそれなりに人が住んでいた。
しかし住んでいる人が多くなると付近の良いスクラップは大体拾われ、残ったのはゴミ山と一体化した家だけ。
臭くて、うるさくて、偶に空からゴミが降って来る。最近では居住地域を移す人も多く、その結果人が住まなくなった地域。今でも他所の人は住んでいるが少数だ。
人が住んでいた関係上、ガスが充満している場所は無く火器の使用も可能。
ここならば思う存分戦える。
(そうドンパチはできないか)
ヴォルトハイヴとマグボルトに使われている部品はすべてが純正品というわけでもなく、使われている弾丸も完璧に合っているわけではない。使用する度に内部機構が損傷し、僅かながらにずれる。
酷使すればメンテナンスは必須であり、必要な時にしか使えない。これから拠点に攻め入る必要も残されている中で、ヴォルトハイヴとマグボルトの二挺が使えなくなる、だなんてことは許されない。
「まあ何とかなるか」
ヴォルトハイブを背中に背負い、ミカは拳銃を構えた。
そして背にしていたゴミ山から体を出すと傭兵に向けて放つ。遠距離、動きながらということもあり頭を撃ち抜くことは叶わなかった。しかし胸に穴を空けた。戦闘の続行は不可。じきに死ぬ。
ミカはすぐにゴミ山の中へと姿を消して傭兵たちから反撃の機会を奪う。
南地区と重なり合って存在するジャンクヤードは他の場所よりも特殊で、元々人が住んでいたこともあり道を作ろうとした跡が残っている。そのため一部では汚染された土の地面が見えている部分もあるし、逆にスクラップが不自然に重ねられて山になっている場所もある。
その結果、南地区に重なり合うようにして存在するジャンクヤードは幾つもの波が折り重なったような凸凹の地形をしていた。
加えて今は深夜。
ほぼ明かりの無いジャンクヤードでミカの姿を探すのは困難。
傭兵達はヘッドライトを着けて足元を照らし、どうにか歩けるようにしているがそれではミカにとって格好の的だ。
「いたぞ――!」
どこからか放たれた弾丸によって仲間の一人が撃ち抜かれ倒れる。他の傭兵は倒れた仲間を取り囲むようにして守りながら、銃声のした方向に向かって突撃銃を乱射する。
しかしそこにはスクラップの山があるのみでミカの姿は無い。
「ッチ。やられた」
「もう捨て置け。助からん」
負傷者を介抱しようとする男に向かって仲間が告げる。すでに首元を撃ち抜かれ存命の可能性はない。今この状況に置いてただ死を待つ者に使う時間はない。
「警戒しろ! もうこっちの場所は割れてる」
相手の場所は分かっていないのに対して、自分達の居場所は割れている。視認性が著しく悪い上に夜間ということも合わさって傭兵達が置かれた状況は最悪の一言に尽きる。
「さっさとか―――」
次の瞬間、男の脳天に穴が空く。
スクラップの隙間から見えた拳銃の発火炎。僅かに光ったその灯を辿るように残った傭兵達が突撃銃を連射する。しかし、その場所に当然ながらミカの姿は無い。
「きを――」
すでにミカは男達の懐まで入り込んでいた。
ヘッドライトで照らした時に見えた影を追う。そこには拳銃を構えたミカの姿がある。
視線はミカへと移り、次に拳銃の銃口へと移る。
脳が自らの置かれている状況を認識した――と同時に、銃口が赤く灯った。
撃ち出された弾丸は男の鼻を弾き飛ばしながら脳天を突き抜けて空へと飛んでいく。
ミカの存在に気がついた他の傭兵は一斉にヘッドライトの明かりを向けて突撃銃を取りまわす。
しかしすでに懐に入られている上に取り回しのしにくい突撃銃を持っている。
ミカの速度にはついてこれない。
加えて。
(訓練を受けてはいるが――プロじゃない)
ミカがあまりにも仲間の近くにいるから、彼らは誤射を恐れて撃てなかった。
もしこれが、ダストシティにいる企業部隊や徒党の精鋭であれば間違いなく撃てていた。
なまじ訓練を受けたせいで仲間と研鑽した過去ができてしまった。ゆえに切り離せない。情が出る。
その躊躇をミカは突く。
(弾切れ……)
残った数人を拳銃で撃ち殺したところでスライドが後退し、引き金が重くなる。しかしまだ傭兵は残っている。
ミカは、まだ辛うじて息のある者を蹴り飛ばした。その先にはまだ生きている傭兵がいる。少し考えれば死にかけで肉壁としても利用できそうにない、ただの肉塊だ。撃ち殺してしまって後ろにいるミカを攻撃するのが最適。
しかし彼らは躊躇する。
一瞬でも隙が生まれる。
仲間に向けたその銃口を降ろせず、かといって引き金が引けるわけでもない。
ヘッドライトで照らされた仲間と目が合った。
同時に、蹴り飛ばされた仲間の後ろからするりとミカが現れる。銃口をミカへと咄嗟に向けたその時、蹴り飛ばされた仲間が男に覆いかぶさって銃口を塞ぐ。
焦りと戸惑い。
咄嗟に引き金を絞り、覆いかぶさった仲間を撃つ。
しかし当然、その後ろにミカがいるわけがない。
ゆっくりと押し当てられるナイフの刃。
男が唾を飲んだ。
同時に刃が押し込まれる。
暴れ、一矢報いる猶予すら残さず、男は首を半分に割かれた。
「……はぁ……はぁ」
息を整えながら、拳銃の弾倉を入れ替える。
流れ出る血がスクラップの山へとしみ込んでいった。割れたヘッドライトが点滅しながらミカの足元を照らす。
「次……」
敵はまだ残っている。殺し尽くすまで終わらない。
「こんなもんか……」
死体から使えそうな物品を回収すると、ミカは残党を処理するために拳銃を手に持った。




