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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第59話 刺激的な日々

「さっさと帰ろうぜ……」


 事件が終息し、巡査部門が店から証拠品を持ち出している横でウォルターが壁に寄りかかって煙草を吸っていた。

 その表情はいつにもなく疲れている様子だ。

 普段はこれよりも難しい任務をこなしても疲れ一つ見せずのうのうとしているものだが、今日ばかりは疲れを滲ませている。

 早く帰りたい、と呟いているのはいつものことだが。


「なんだ、いつにもましてダルそうにしてんな」

「身体拡張者じゃないんだ。もう老体で全身ガタガタよ」

「若い頃、むちゃな事ばっかしてたからだろ」


 ミカの言葉にウォルターが固まる。

 

「誰かから聞いたのか」

「いや、別にそうじゃねえが……データ漁れば何となくな」


 特別四課に配属される前に、ミカは自分が所属する部隊がどのような場所でどのような人がいるのかを確認するため、ある程度のことは調べていた。

 ミリアはほぼミカと同時期に配属され、ウォルターはそれよりも前にいた。

 いつから所属しているのかは分からないが、少なくともかなり歴が長い。

 それに、所属してから特別四課がどの装備を買っているかなどの履歴も見れるようになったことで、さらに分かることがあった。


「身体拡張者でもないのに強化薬と鎮痛剤の複数使用……それで体にガタが来たんだろ」

「よく知ってるねぇ」


 ウォルターが肩をすくませて苦笑交じりに首を振る。

 

「若気の至りってやつだ。反拡張主義を掲げてた馬鹿な頃の話だ」

「それで無理くり凌いだ結果がそれか?」

「仕方ねえんだな。もう取り返しはつかねえんだ」


 ウォルターの体は一見何も無いように見える。

 しかし最先端の医療で誤魔化しているだけであり強化薬による反動を鎮痛剤で無理矢理打ち消したきた結果、脳にもダメージが残っている。次使えば生身であるのに『グリッチャー』と同じ状態になってしまう程度には。


「それも特別四課に入ってからってわけでもないんだろ?」

「まあな」


 ウォルターが強化薬と鎮痛剤を服用し始めたのは特別四課に配属される前から。


「第二次企業抗争の時からだ。俺はあの時、傭兵だったからな」

 

 ウォルターの体がここまで破壊されているのは特別四課に入ってから、というよりも傭兵時代に積み重ねた負の遺産が重しになっている。

 荒れ続けるダストシティの荒波に呑まれて様々な事件に介入する特別部門での活動もそれなりに大変なものではあるが、規模は第二次企業抗争の時の方が遥かに大きい。

 腐ってもダストシティで起こる争いはギャングや傭兵が主で、少し大きくてもコーディネーター同士の争いがほとんど。


 企業同士が兵器を導入して地球規模の戦争を行っていた時とはまるで規模が違う。

 当然傭兵として求められるレベルは今よりも遥かに高く、その無茶な要求に答えるためにウォルターは強化薬を服用し、鎮痛剤で副作用を抑えなければならなかった。


「で、課長はその頃からの付き合いだ」


 ウォルターはもう一度煙草をふかして呟く。

 ミカも壁に寄りかかりながら苦笑交じりに返答を返した。


「それで特別部門も一緒に配属されたと」

「よく知ってるな」


 課長はもともとウォルターの同期だ。

 ミカが入る直前に特別四課の取りまとめ役へ昇進し、その空いた穴にミカとミリアが入ってきた。


「その頃も今と同じ……クロを除いて……三人の部隊か」


 ニューロダイバーであるクロを除き、ウォルターと課長がいた頃も特別四課は三人で構成されていた。

 課長がいなくなったことでその枠が一枠空いてミリアが選ばれ、そしてもう一枠は。


 ミカがある程度のことについてはすべて知っている様子であったため、ウォルターは諦めて口を開く。


「まあデータ見れば分かるわな。課長と俺ともう一人。カイムって新人のできる奴がいた」


 記録やウォルターの話し方を見ればカイムがどのような結末を辿ったのかは分かり切っている。


「男で気の合う奴だった。性格は……まあミリアに似て直情的ってつうか、正義を信奉してる様な奴だった」


 空を見上げながらウォルターはため息を吐いた。


「ある企業がらみの案件に関わってカイムは死んだ。これ以上の捜索は上から禁じられてたっつうのに、あいつは無理に進めやがった。その結果は……まあ分かり切ってるわな」


 特別四課にウォルター一人のみが残り、カイムがいなくなった穴をミカが埋めた。

 やはり、特別部門といっても所詮は警察《PCD》が管轄している組織に過ぎない。警察組織自体が企業の圧力を受ける以上、特別部門はダストシティの奥深くに踏み込むことはできない。

 もし踏み込めばカイムと同じ運命を辿る。

 

「俺はもう年だ。知った奴が死ぬのは心に来る」


 なあミカ、とウォルターはミカを見た。


特別四課ここの刺激じゃ足りねえか?」

 

 つまり、これはミカへの警告だ

 ウォルターは課長と同じようにミカがアストラ製薬の案件を一人で進めていることを知っている。

 過去の経験から企業の闇を暴こうとするミカの行動がすべてにおいて悪く進むことは分かり切っている。

 だから、ここでおしまいにしたい。 

 これはウォルターからの切実な願いだ。


「……そうだな」


 ミカがゆっくり呟く。

 確かに、ウォルターの言うように特別四課の日々は退屈で刺激的で、ダストシティを知るうえでこの上なく必要な経験だった。

 しかし、所詮は警察の組織。

 ダストシティで上を目指すのならば警察では駄目だ。

 

「分かった。アストラ製薬のことに関しては《《今は》》追わない。約束する」

「言ったな?」

「ああ。約束ぐらいは守る」

「よし……じゃあ俺は先帰ってるわ」

 

 ミカから聞きたい返事を聞けたウォルターは手を振って去ろうとする、そこでミカが呼び止めた。

 

「いや、少し話しておきたいことがある」

「なんだ?」


 ウォルターが立ち止まって振り返る。

 ミカは続けた。


「もうクロには話したことなんだが」


 そう前置きを入れてミカは話し始めた。


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