第56話 停滞と進展
M-2PIKの事件が終わってから特に大きな事件が起きることもなく一か月ほどが経過した。
ミカたちはその間、前と同じようにパトロールをしたり課長から言い渡される任務をこなしたりなど、それなりに充実した日々を送った。そして気がつかば時が過ぎて一か月が経過。
今日もパトロールから帰って来たミカが事務所で一休みでもしようとしたところ、クロから通信が入った。
『頼まれてたやつ見つけたんだよ』
クロにそう言われミカは事務所から出る。
クロがいる場所までは歩いて10分ほど、途中で食べ物や飲み物などを買ってミカは向かった。
辿り着くとすぐに扉が自動で開き、すぐ下へと続く階段が見える。
壁の中に埋め込まれた間接照明のおかげで足元も頭上も暗くはなく、すぐに階段の下までたどり着くことができた。
そしてまた階段を下ったところに扉が一つあり、それはクロが内側から開ける。
扉が開くとクロの声が聞こえた。
「直接会うのは久しぶりなんだよ」
ホログラムやパネルが何枚も表示・設置されたそこまで広くはない空間で、一人の少女が椅子に体育座りをしていた。
手入れのされていない長い髪と不健康に見える白すぎる肌。
体は小さく幼女にしか見えないが、これでもミカより年齢は上だ。
かといって手術をして今の姿を保っているわけでもない。
これは生まれつきだ。
「お、いつもの買ってきてくれたんだよ」
ミカが手に持っている食べ物と飲み物の入った袋を見てクロがにんまりを笑顔を浮かべる。
「テーブルの上に置いておいてほしいんだよ」
「ああ」
慣れたように入り口近くにあるテーブルに置くとミカがクロに近づいた。
「それで、見つけた、しか言われてないんだが具体的にはなんだ」
クロからの通信は『頼まれていたものを見つけた』というものだけ。ミカは幾つかクロに頼んでいることがあり、その中のどれかだとは思うが、具体的には把握していなかった。
「幾つかあるんだよ」
クロはそう言ってパネルの一つを遠隔操作で動かして近くに持ってくる。
「まず一つ。これはアストラ製薬に関してのことなんだよ」
課長からアストラ製薬に関しての捜査はやめるよう言われていたが、ミカは独自で続けていた。
ただむやみやたらに動くと特別四課事態を危機に貶める可能性がある以上、派手に動くことはできない。それに原因が究明できたところでアストラ製薬を弾劾できるかどうかは怪しく、調べただけ徒労で終わるかもしれない。
別にそれでもいい。
ミカとしては暇つぶしで調べているつもりだ。
個人的に気になっているグレム・マルコイの事件とM-2PIKの事件が繋がっているのか確かめたい。
それと偽レオンに関してのことも。
ダストシティでは分からないことはそのまま有耶無耶にしておいた方が幾らか効率がいいが、だからといって欲求を邪魔する要因にはなり得ない。新しい任務が入ったら当然、この操作は辞める予定だし、クロが面倒だと言えばミカが一人で調べるだけだ。
「一応、アストラ製薬を去年に辞めた研究員と連絡が取れたんだよ。そっちの方から調べていくしかないんだよ」
アストラ製薬の事件に踏み込む上で外部からではどうしても調べられない。
やはり内部の協力者が必要だ。
ということで、ミカたちは去年アストラ製薬を辞めた研究員と連絡を取った。
これが吉と出るか凶と出るか。
実際に話してみないことには分からない。
「それと、偽レオンの件なんだけど全く情報が掴めないんだよ」
「だろうな」
「持ち去った資料とやらも分からないし……まあ……おおかたアストラ製薬に関係ある人なんだよ」
偽レオンの捜査についても頼んでいたが、未だ分からず仕舞い。
彼が外路エリアで持ち去った資料についても未だ不明。しかし状況から察するにアストラ製薬が不利な情報を確保するために送り込んだ手の者であったほうが妥当だ。
偽レオンに関しては未だ消息がつかめておらず、そしてクロが分からないのならば、ミカではどうすることもできないだろう。
「さて、次が本題なんだよ」
クロはそう言ってもう一つのパネルを引っ張って来る。
「頼まれてた《《エネルギーパック》》について少し分かったんだよ」
ウィンドウで武器の改造を行う際、必ず『エネルギーパック』の文字が入ってきた。
スラムにいた時、ダストシティに来てからもエネルギーパックの情報は一つも見つかっていなかった。そこでミカはクロの仕事を手伝う代わりの交換条件としてエネルギーパックの捜索を頼んでいた。
すでに捜索を頼んでから一年が経った今、ミカですら頼んでいたことを忘れかけていた時に、クロは手がかりを発見する。
「名称が同じだからって安直な理由だけど、まあそれなりに合ってるとは思うんだよ」
パネルを拡大しクロが説明を始める。
「エネルギーパックに関しての記述が見つかったのは第二次企業抗争時代のマンティス社の削除データからなんだよ。具体的には第二次企業抗争時代にマンティス社が開発していた流体状、あるいは液体状のエネルギーのことをエネルギーパックというらしいんだよ」
第二次企業抗争時代にマンティス社は新時代のエネルギーとして流体状・液体状のエネルギーを開発していた。具体的には電気の液体化、磁気や重力の液体化の研究だ。
これによりエネルギーの保管効率を運用効率が飛躍的に向上する――予定だった。
「まあ分かり切ってはいるけど、研究は失敗。データごと削除されちゃったんだよ」
マンティス社の力をもってしても研究は失敗に終わった。どの程度の資金と人員が投入されたのか分からない以上、エネルギーパックの実現がどの程度難しいものだったのかは分からない。
しかし時代が第二次企業抗争時代ということも踏まえると、かなりの資金を投入したに違いない。
「もう少し潜れば調べることができるんだーよ。どうするんだーよ」
クロはなぜセトが調べているのか分からない。
こんな情報があったところで実現できないのだから意味が無い。
調べたところでどうするのか、という問題がある。
しかし、ミカは別の視点からエネルギーパックを見ていた。
「よし、現実的になったな」
「……何がなんだよ?」
「まあ色々とな」
ミカは何かを思案した表情のまま笑う。
「なあ、少し話がある。聞いてくれるか」
「なんだよ、怖いんだよ。告白なんだよ?」
「どう考えても違うだろ」
ミカが苦笑して、そして話し始める。
なぜエネルギーパックを必要としていたかを。




