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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第53話 その男は

『下水道は一本道だから右に進むだけなんだよ』

『分かってる』


 クロからの通信を受けながらミカが下水道を走っていた。

 下水道と言っても今は使われなくなった配管で下水が通っていることはない。僅かに異臭が残っているぐらいで、暗いことを除けば進むのは楽だ。


『見つけた』

『了解、あれね』


 下水道はそこまで入り組んだ作りをしておらず、幾つかの曲線を抜けた後に一直線の道が待っている。 

 ミカが長い一直線の道に飛び出した時、遠くに光源が見えた。

 それはライトを持つダックスフリードらしき影。


 その背中を見つけた時にミカはさらに速度を上げて距離を詰める。

 だが、そう上手くも事は進まない。


(それりゃ護衛ぐらいいるか)


 ライトを持つ男の隣に強化服を着た男がいる。 

 

『合流したんだーよ』

『了解』


 だが、護衛一人がいたところでどうにかなるような状況ではない。

 すでにミリアとウォルターは下水道内に入り込み、ミカと同じく光源を見つけていた。

 挟み撃ちになっているところ護衛が前か後ろか、どちらを攻撃すればいいかを逡巡する。

 同時に悩む暇を与えずミカが弾丸が飛び交う中を走り回り、ウォルターたちもまた強化服の装甲に全幅の信頼を置いて直線的に飛び出した。もともと先に光源を視認していたのがミカということもあって人影にいち早く近づく。

 一瞬で距離を詰めたミカに対して護衛はすぐに意識を切り替えて攻撃を行う。

 同時に、ミカもまた懐から取り出したマグボルトを向けていた。

 昔のようにスラムのスクラップを組み合わせて作ったようなマグボルトではない。

 ダストシティ内で手に入る品質の良い部品や正規品を使い、すべてのパーツを仕上げた代物になる。

 当然、威力はスラムにいた時の比にならない。

 少なくとも護衛が身に着けている防護服と皮下装甲ではとても防げるものではなかった。

 下水道内を青い光が照らす。

 直後、稲妻が下水道内を走り護衛の頭部を撃ち抜いた。

 護衛の死亡を確認したミカが隣にいた人影を蹴り飛ばし、そのまま馬乗りになる。

 

 背負ったヴォルトハイブをその眼前に向け、引き金に指をかける。


「……」


 そこで、ミカは違和感を覚えた。

 仕立ての良いスーツに皴の入った顔。

 銃を突きつけられてその者の表情は歪んでいた。

 果たして、裏社会の大物であるダックスフリードがこのような痴態を晒すだろうか。


『クロ。認証できるか』

『もうやったんだよ』


 クロからの答えを聞かずとも、答えを理解してしまっていたのかミカはすでに引き金から指を離していた。


『クローバー製薬の取り締まり役、グレイ・エドモンドなんだよ』

『ちなみに聞いておくが、グレイ・エドモンドがダックスフリードと同一人物である可能性は』

『ダックスフリードが複数人で活動しているならありえるけど、個人で活動してるならまずありえないんだよ』

『そうか』

『だけど落ち込むことないんだーよ。これは大手柄』

『……?』

『ミカがそいつを追い詰めてる間に色々と捜査が進展したんだよ。取りあえず、そいつの身柄を確保して欲しいんだーよ』

『……了解した』


 ヴォルトハイブから手を離し、クロに返答を返しながら、ミカは下水道の向こうから来るミリアとウォルターに手をあげて無事な事を示した。


 ◆


「それで、何があったんだ」


 警察車両の中で先ほどグレイ・エドモンドの引き渡しを終えたばかりのミカたち三人が、急遽来た所長に問いかけた。


「まあ、色々とあって、一つずつ説明するよ」


 いつものように車両の中心にホログラムを表示させて、様々な映像や資料を流しながら課長は説明していく。


「今回の話を説明していく上で、まず前提を話しておくけど、もともと私たちがダックスフリードを捕まえようとしたのは上層部がイワクラとの交渉をすぐにはまとめられないから、その間に別の視点から証拠を集めようってことだったじゃん?」


 地下街の外路エリアの工事を担当したイワクラ――旧ミナカタ建設は大企業の企業部隊としての側面を併せ持っていた。そのことも相まって上層部は強気に出られず交渉が長引くかと思われ、その間にミカたちが動くことになった。

 というのが、今回の話に繋がる。


「だけどね、君たちが任務をしている途中になんと上層部がイワクラと話しをつけたのよ……いやまあ、厳密にはイワクラと提携してる大企業と話しつけたんだけど、そんなことはどうでもよくて……」


 つまり、と課長は指を立てる。


「イワクラを直接取り調べられるようになった結果、すぐに特別三課や捜査部門の人員を導入してイワクラを捜索。イワクラ側もまさかこんな早く事が進むと思っていなかったのか証拠の処理が間に合わずに出てくる出てくる」


 ホログラムの表示を切り替え、ある企業のロゴを映し出す。


「で、M-2PIKの製造に関して出てきたのがクローバー製薬。海外に拠点を置く企業ね。製造がここかは知らないけど、少なくとも流通はこいつら。で、今本社に問い合わせてわけを聞こうと思ってたんだけど……」


 そこで、《《なぜか》》ダックスフリードの賭けボクシング会場にいた取締役兼社長のグレイをミカたちが捕まえた。


「お前ら、これはかなりの大金星だ」


 今度は相手が海外に拠点を置く企業とあって交渉が長引きそうだったところ、ミカッチが捕まえたおかげで早めに進みそうだ。

 もうある程度は証拠も揃っている。


「ただ、最後の一押しが足らない」


 クローバー製薬が黒幕であると言い切るためには核心に迫る証拠が足りない。


「そこで、君たちにまた一つ働いてもらいたい。どうやらイワクラとクローバー製薬との通信記録の中に、M-2PIKを運び込む予定とその順路についての記載があったらしい。幸いにも警察わたしたちはまだイワクラに事態を説明していない。つまり、予定通りM-2PIKは運び込まれるというわけだ」


 証拠が欲しい警察側にとって、クローバー製薬が手配した車両に大量のM-2PIKがあれば、ということ。


「ここを抑えれば決定的な証拠になる。そして……」


 課長がホログラムを消した。


「確保を任されたのは私たちだ」


 にたにたと課長が笑う。


「予定ではM-2PIKを大量に積み込んだ車両が通るのがこのあとすぐ。何やら疲労が溜まっているように見えるが、諸君、できるか?」


 課長がミカたち三人を見る。

 結果は返答を返さずとも三人の表情を見れば分かるだろう。

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