第46話 地下街
地下街でM-2PIKが売られているという情報ことあるものの、具体的な詳細については未だ分かっていない。
捜査部門が手を出すにも地下街は広く、独自のコミュニティがある。
伝手もあまりない状況で、彼らが動くと言うのは難しく、特別四課が引き受けた。
捜査にはミカが当たったが、結果は芳しくない。
「なんも見つかんねー」
事務所の椅子に座って天井を見上げながら呟く。
ウォルターとミリアは別の仕事。
ミカは一人、地下街の探索から帰って来たところだ。
地下街の探索を続けて今日で一週間。
進展はない。
というより。
確固たる証拠を掴めずにいる。
「余所の者だな、ったく」
地下街のコミュニティは狭く、広く、強い。
ゲルグと同じような場所だ。
ミカがもしM-2PIKについて露店の店主に問いかけようものなら、数時間後には地下街の規則を乱す者として知れ渡っている。
地下街全体でM-2PIKに触れないことが常識であるかのような、あるいは部外者には情報を伝達させないかのような、そのような動きがみられた。誰かが支配者として統制を図っているのか、地下街コミュニティの総意なのかは分からない。
少なくとも、現状はあまり芳しくない。
ミカはすでに地下街で部外者だと見抜かれている。
それどころか警察関係者だと見抜かれている節すらある。
もしそうであれば捜査は難航するだろう。
(まあ……ここからか)
だが、ここまでは予想通り。
ゲルグで部外者はどのように扱われるか身を持って経験しているのだ。
部外者に対してどのような対応をするのか、分かっている。
だからこそ、手は打ってある。
ミカが完全に怪しまれる前に通路に監視カメラの設置、地下街の地図の把握、義体、電脳販売者の特定。考え得る限りで必要なことはこの一週間にすべてを行った。あとは撒いておいた罠に対象がかかるのを待つだけ。
(地下街……外路エリアか)
ウィンドウを表示させ、地下街のマップを映し出す。
すでにウィンドウの機能は拡張され、単なる分解・構成・強化だけに留まらない。
ミカが歩いた場所や記録した建物などを保存し、自動でマッピングし地図を作る機能もある。
その結果として得られたのが目の前の地図。
地下街は度重なる拡張工事と違法工事で正確な地図が無い状態。
警察のデータベースに保管してある資料を読み込もうにも数年前から更新が無い。
それでは敵の尻尾は掴めない。
(地下二階部分、地上とも繋がってはいるか)
ウィンドウの一部を摘まんで、地図の一部分を拡大表示する。
そこは地下街の外路エリアと呼ばれる場所。
地下街でも中心街からは離れた場所、しかし完全に外側でもないという微妙なエリア。
ミカはこの場所を探索することができなかった。
原因は通行止めだ。
拡張工事のためだとか、崩落の危険だとか、まあ何か理由を並べ立てていたがこれだけの規模すべてが立ち入り禁止というはずはない。だからといって無理に立ち入ろうとしても怪しまれるだけ。
どうせいつかはボロが出て怪しまれるが、まだ下準備も終わっていなかった。
故に無理な行動ができず、地図は黒塗りになっている。
警察のデータベースに保管されていた記録を見るに、外路エリアは昔の拡張工事のせいで地下三階分の規模がある。
これでも二年前の記録。
今はどうか分からない。
もうすぐでミカの撒いた作戦が起動するはず。
そしたら本格的に行動開始だ。
「……きたか」
運よく、ひときしり休んだところで通信端末が震えた。
テーブルの上に置いてある通信端末を手に取って、メッセージを見る。
相手は特別四課のメンバーの一人、クロだ。
彼女には映像の解析を頼んでいた。
『解析終わったんだよ。データ多すぎて疲れたんだよ。別の捜査を掛け持ちしてるんだから、次は仕事を増やさないようにしてほしいんだよ。それと捜索とはいえやってることがストーカー気質で怖いんだぁよ』
そんな文言と共にファイルが添付されていた。
この一週間、ミカがしたことは単純だ。
地下街にいる身体拡張者をひたすらに追尾した。
隠しカメラを仕掛け、身体拡張者を調べ上げ、行動範囲を調べ出した。
地下街のあらゆる場所にカメラを仕掛け、映像を記録し、データを割り出す。
すると必然的に身体拡張者が集まるエリア、ひいては特定の通路を見つけられるはず。
すでに監視カメラには気づかれてほとんどが壊された。
あとはこのファイルの映像次第、ということだ。
◆
地下街に入るための幾つかの入り口、その前にミカが立っていた。
下へと続く階段を見つめながら、腕に付けたリングを起動する。
するとホログラムがミカを覆い、別人に成り代わった。
見た目はスキンヘッドでどこか中性的な見た目の義体だ。
すでにミカ自身が怪しまれているということもあって、変装は必要だった。どうせ今日で地下街の探索も終わる。リングはその場しのぎ、最後の策として丁度良かった。
このリングは課長に頼んで用意してもらった装備だ。ミカだけでなく、他の三名の分も特注で用意してある。こないだの任務でかなり潤っていたようだし、快諾してくれた。
まさかすぐに機会が訪れるとは思っていなかったが、実力を試すいい機会だ
ミカは成り代わった自分におかしなところが無いかを入念に確認してから、地下街へと入っていった。
◆
ミカが各地に仕掛けた監視カメラから得られた映像を統合し、その後に処理を行った。
特定の人物が歩いた通路を割り出し、地図に記録していく。
それを身体拡張者に絞って行った。
地図上には彼らの軌跡が赤い線となって現れ、地下街に張り巡らされる。
ほとんどはばらけていて統一性が無い。
だがあくまでも今回は外路エリアへと続く軌跡に絞ってみていけばいい。
すると赤い軌跡が重なって濃く見える部分が出てくる。
(いや……まさかだな)
ミカの予測では外路エリアへと繋がる道のどれかに軌跡が集中していると思っていた。
しかしクロから送られてきた解析の結果、考察が間違っていることが示された。
(ここか)
立ち止まったミカの目の前にはコンクリートの壁があった。
警察のデータベースに保存されていた地図でもここは行き止まりで続きは無い。
しかし、身体拡張者たちはこの先へと向かって歩みだし消えて行った。
付近には監視カメラの設置はおろか、ミカ自身も足を踏み入れたことが無い。
ここが行き止まりだからだ。
しかしクロが解析した軌跡を見ると、足跡はここへと向かっているように見えるし、不自然にこの場所だけ足取りがつかめない。
しかし目の前には壁があり、行き止まりだ。
つまり。
「拡張現実か」
ミカが壁に向かって歩み寄って手を触れる。
指先が壁に触れると僅かにノイズが走って崩れて行く。
指から手、腕へと壁にノイズを発生させながらミカは通り過ぎていく。
(二年前の記録では壁だったが、違法工事か)
二年前までは確かに壁だった。行き止まりでその先は無かった。
しかし、今は先がある。
しかもわざわざホログラムを用いた現実の加工という手法を用いて、隠蔽までしている。
その用意周到さ。
最初から違法な目的で作られた空間だ。
工事にはどこの企業が手伝い、誰が取り仕切ったのか。
歪なダストシティの構造と関係。
この先の空間はそれを如実に表している。
ミカは内心で軽く息を吐いて、しかし表面上では当然のことかのように壁を通り過ぎた。




