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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第45話 事件の概要

「っと。これが死亡した警察官のボディカメラに記録されていた映像ね」


 テーブルの上に置かれたホロ端末から表示されたホログラムの映像を流し終えて、課長が軽く手を叩いて意識を切り替える。


「後の解剖……というか言動からして分かると思うけどグリッチャーだと判断されたわ」


 今回、警官二名を殺害、一名に重症を負わせた電脳家メカニストの一人は死ぬ前の様子や解剖の結果得られた要素などから等級『Ⅱ』のグリッチャーだと判断された。


「それが何で私たちの任務に?」


 ミリアが当然の疑問を抱く。

 電脳化と義体化をしている時点でグリッチャーになる可能性は高い。確かに警官が殺されたことは問題だが、もうすでに終わったこと。それにグリッチャー自体すごく珍しいというわけでもない。

 電脳家メカニストへの聞き込み調査なども行わなければならないだろうが、それは特別部門の仕事ではない。

 捜査部門の仕事だ。


 そのミリアの当然の質問に、課長はホログラムの表示を変えてから答える。


「それがね。死体から薬物の反応があったのよ」


 そこでミリアがピンと来たのか表情を変えた。


「それってあれですか、最近有名な」

「そうそう。仮称M-2PIK。電脳系の薬物ね」


 最近、主に貧困層が住んでいる地域で急速な拡大を見せている電脳系の薬物。

 M-2PIK。

 もともと電脳系の薬物を使うことで義体や電脳に負荷をかけ、結果としてそれがグリッチャーを発症させる。ただこのM-2PIKは他の電脳系の薬物とは違い、使用することで高い確率でグリッチャーの症状を引き起こす。

 

 電脳化と義体化の二つをしていればまず発症するものと考えていいほど。


「この……まあグリッチャーを発症させるためだけに作られたような薬物だけど、さすがに取り締まることになったわ」


 薬物の中でもグリッチャーの発症を誘発させるような類いのものはたちが悪い。

 薬物使ってただ体がおかしくなってくれるのならばまだしも、グリッチャーになると幻影を追っかけて民間人に被害を出す。

 被害が増えたことで警察も本腰をあげて対処しなくてはならなくなった、というわけだ。


「もう分かってると思うけど、特別四課わたしたちの仕事はM-2PIKの流通経路を明らかにすること。ただまあ今回は規模が大きいから、特別三課も補助業務として回されている予定。それと警察組織全体としても取り締まりをしていく予定よ」


 警察組織全体で取り締まるのならばまだしも、そこに特別部門の課を二つも導入する。

 一体どれほどの被害が出ているのか。

 ミカたちもグリッチャーを処理することが多くなってきて経験として理解しているが、具体的な数字は見ていない。

 この判断を上が下したことを見るに、数値上でも厳しい問題として映っていたに違いない。

 

 現場の意見は無碍にできても数字は無碍にできない。

 企業に睨まれている以上、警察組織は数字にだけは正直だ。

 確固たる証拠として残っている以上、警察組織の面目を保つためにも全力で。 

 その結果が特別四課と特別三課ということだ。


「ということで私からは以上。何か質問は」


 課長の問いかけにミカが口を開く。


「その捜査は基本的に俺たち三人だけで行うのか」


 特別三課も手伝うのだから操作はミカたちだけ行わないことは分かり切っている。

 今更、ミカがそのような質問をするわけもなく、これには別の意図があった。

 課長も当然その意図は理解している。


「いや、今回はクロも参加する予定よ」


 ミカたち三人を除いた特別四課四人目の隊員。

 一応、彼女のコードネームは『クロ』となっている。


「分かった。俺は以上だ」


 今回は薬物の入手経路を辿ることが仕事になる。

 であるのならば、別の任務に当たっていた彼女の力も借りなければならなくなるだろう。


「私からは無いです!」

「おなじく」


 ミリアとウォルターもそれぞれ返事をすると、課長がホロ端末を消す。

 そして軽く息を吐いて三人の顔を見た。


「じゃ、必要なことは伝え終わったし、ぼちぼち初めていきますか」


 ◆


 警察《PCD》がM-2PIKの本格的な捜査に移れなかったのには幾つか理由がある。

 急速に広まるM-2PIKに対して上の判断と情報伝達が遅かったために対処が遅れたという組織体制での理由。そして警察上層部がM-2PIKを製造している者たちから賄賂を貰っていた、あるいは弱みを握られていたというのも原因として挙げられる。

 

 今回はさすがにM-2PIKの被害が深刻ということもあり、賄賂を貰っていた警官や弱みを握られていた警官は聞き込み(尋問)の末に懲戒処分。これは警察組織上層部も同じ扱いを受けた。

 その結果としてM-2PIKの本格的な捜査に踏み切ることができたが、未だ、製造元には繋がれていない。

 脳を取り出して調べたりなども行ったそうだが、手掛かりはほぼ無かった。


 ただ、路駐にいる売人やM-2PIKを所持する市民などを拘束し、調べることである程度のことが分かって来た。

 そのほとんどがギャングとの繋がりだ。


 ここまでが捜査部門の活動によって得られた情報だ。

 これらすべての情報はミカたちのいる特別四課や共に事件の捜査に当たる特別三課にも届けられ、それぞれ動き出す。

 ミカたちもまた独自の路線から幾つかの情報を入手していた。 

 加えて捜査部門が集めた情報を加味して、動き出す。


(入り組んでんな)


 ミカが地下街を歩いていた。

 ダストシティの南地区の地下全体に広がる蟻の巣のような地下街だ。

 天井は低く薄汚れていて、屋台が焼き物などをしているせいで空気は薄い。

 露店で売られているのは義体のパーツや掘り出し物の部品。

 見た目こそミカの住んでいたスラムやゲルグと似ているが、売られている商品の質はどれも高い。

 情報によればここでM-2PIKが売られていた、ということ。


 今回の捜索に当たってミカ一人で地下街を探索することになった。

 ミリアはどうしても警察官の雰囲気が残っているし、ウォルターもどこか組織側の人間であることを滲ませている。対してスラムで育って来たミカに関しては薄汚い場所が良く似合う。

 うまく溶け込んで怪しまれないだろうから、とミカが地下街の探索に選ばれた。


(どうしたもんか……)


 この広い地下街で情報を頼りに捜索を進める。

 ミカとしては本格的な捜査をした警官はあまりない。

 どうにかして進めていくしかないだろう。

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