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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第44話 新しい任務

 特別四課の事務所でミカとウォルターがテーブルに座って休んでいた。

 時刻は昼過ぎで、すでにほとんどの業務が終わっている。

 課長から飛び込みの任務でも与えられない限りはこうして暇だ。

 巡査部門や捜査部門はパトロールや犯人の手がかりを集めるのに日々苦労して、残業までしているようだが、特別部門はそうではない。基本的な仕事さえ終われば後は暇。

 事務所で惰眠を貪っていてもいいし、家に帰ってもいい。

 仕事をしてみてもいいし、食べ歩きに出かけてもいい。

 最高の職場だ。

 ただ組織がこんな職場だけでは成り立たなくなるのも事実なので、特別部門に配属されている人数は極端に少ない。

 文字通り、特別待遇というやつだ。


「こないだの大規模なサーバーエラーあったろ」

「ああ」


 二人がそれぞれ好きなことをしながら、軽く会話を交わしていた。


「あれシステム構築したのがAIだからって、AI解雇したらしいぜ」

「AIを解雇ってなんだよ。いくらでも責任取らせられんじゃねえか」

「うけるだろ」

「まあな」


 ミカは近くのパン屋で買ってきた巨大なピザの切れ端を摘まみ、ウォルターはミカに買ってもらったコーヒーをちょびちょびと飲みながら机に突っ伏している。

 二人はそれぞれの顔も見ずに、事務所の壁に埋め込まれたテレビに目を傾けながら、気だるげに会話をしていた。


「そういえば冷蔵庫の中に入ってたアイスが無くなってたんだがよぉ…。誰が食ったんだ?」

「今朝ミリアが食ってるのみたぞ」

「ったく、あい」

「いや、あれはミリアが買ってきてたやつだろ」

「……」

「なんか言え」

「というか、なんか冷蔵庫の物減ってきてない?」

「ナチュラルに話しかえるなよ」


 ウォルターは少しだけ姿勢を正して、真面目な表情を見せる。


「こないだの任務あったろ? あれで結構潤ってると思ったんだがなぁ」


 特別部門は基本的に課を取りまとめる上司に今期分の資金が一度に渡される。そこから任務に使う備蓄や設備に振り分けていく。ただそれだけでは足りないので任務を完了するこでさらに資金を受け取ることができるのだが、こないだのでかい仕事でかなりの金額を受け取ったはずなのに、事務所には何ら変化が見られない。

 あるとしたらキッチンの調理器具が増えたぐらい。

 任務と直接関係のないところだ。


「冷蔵庫の中とかよ特にだ。苦労してる隊員がいるってのに、中は空っぽじゃあ、ねぇ?」

「ねぇ? じゃねえよ。あんたが事務所で月の半分を過ごしてるせいで、勝手に三食分減ってくんだよ」

「昼と夜の二食だぞ」

「関係ねぇ……」


 ミカは飽きれながら苦笑する。

 その様子を見ながらウォルターはコーヒーを一口飲んだ。


「そういえば、個別で追ってるっていうあの件はどうなった」

「あの件?……ああ、あれか」


 フリージャーナリスト、グレム・マルコイが殺された事件の捜索だ。


「まあそれなりには、だな。まだしばらくかかりそうだ」


 ギャングとの関係が分かった以上、警察と言えど容易に踏み込むことはできない。徒党とは訳が違うのだ。

 ギャングは警察や企業と関りがある以上、下手に動けば外部からの圧力や内部からの反発がある。

 上手くやらなければならない。


「もし大変そうなら、課全体で引き受けるか?」

「もう少し状況を見てからだな」


 別に一人だけでクリアしようとは思わない。

 助けが必要ならば、助けてもらうだけだ。


「俺が思うに、あの事件は結構でかそうな気がするんだよねぇ」

「同意見だ」


 二人が苦笑する。

 そしてウォルターが何かを思い出したのか少し目を開く。


「そういえば……お前まだ他の課の事務所行った事ないだろ」

「まあ……そうだな」


 前に特別四課以外の三つの課が集まる機会があったのだが、ミカは諸事情があっていけなかった。


「他の特別部門の事務所はやばいぜ?」

「そんなにか?」

「ホログラムを用いた地下訓練場があるぐらいだ」


 特別部門の課には均一に資金が渡されているはず。もしウォルターの話が正しければ、課長はどこに金を使っているのか、非常に気になるところだ。

 ちょうどその時、事務所の扉を開けてミリアが帰って来る。

 パスワードが開かれた音でミリアが帰って来ていることは知っていたので、二人は特に驚かない。


「ババン! ヘルプから帰って来た私です!」


 何やら上機嫌なミリアを二人が出迎えると、その後ろに課長の姿が見えた。

 ミカは横を通り過ぎようとしたミリアに声をかける。


「なんだ、一緒に帰って来たのか」

「偶然道でばったり会ってしまいまして」

「そうか……」

「なんだか暗いですね、何かありました?」

「これから『何か』があるんだよ」

「……?」


 課長は基本的に事務所に顔を出さない。

 出す時は祝い事か任務の説明だけ。

 今回は後者だろう。


「さて諸君! 私が来たということはー!」


 課長が元気よく部屋の中に入るとテーブルの上にホロ端末を置く。


「上から仕事を依頼された! 準備はいいかな!」


 ミカとウォルターはどこかやる気のない返事で答え、ミリアは元気よく返事を返す。

 その反応に『うんうん』と頷きながら、課長がホロ端末を触る。


「いつも通り、取り合えず映像を流すから、まずはこれを見てからだ。それはでは注目」


 課長がホロ端末の画面をタップすると、ホログラムが出力されると同時に映像が流れ始めた。


 ◆


 深夜。

 ダストシティでデモが起きていた。

 車をせき止めながら大通りを大人数で歩いているのは電脳家メカニストと呼ばれる者達。

 彼らの信仰は機械——特に電脳と義体に重きを置いている。

 それもあってか、デモで行進している電脳家メカニストたちは皆が機械を露出させている。義体の上に人口皮膚を付けるわけでもなく、鋼むき出しの状態で雨に打たれながら歩いていた。


 彼らの謳う文句は交通を遮断してまで伝える価値が無いが無碍にすることもできない。

 彼らはあくまでも声高らかに叫んでいるだけだ。

 もしここが企業統括の地区であれば、企業部隊が武力を行使することで迅速に鎮圧できた。しかし生憎、彼らがデモを行っているのは企業管轄の地区ではない。公的機関が管轄する場所だ。

 つまり、彼らの対処には警察《PCD》が出動することになる。

 ただ、警察《PCD》の抱える権力は企業部隊ほど強くない。

 現状、武器を引き抜いていない電脳家メカニストに対して武力を行使することができなかった。


 デモをする彼らの前で盾を構えて止まり、取り囲み、どうにか進行を妨害することしかできない。

 

「こっち至急お願いします!」


 規模の大きなデモとあって非番の警察官まで駆り出される。

 

「だから! 人手が足りないって言ってるでしょうが! 予算の問題とか知りませんよ!」


 デモから少し離れた道の脇で警察官が通信端末を耳に当てて吠えていた。

 無理もない。

 公的機関で、街の治安を守るはずの警察《PCD》にはそう多くの予算を与えられていない。

 支給される装備の質と数。

 人員の質と数。

 圧倒的に、何もかもが足りていない。


「こっちはもう精一杯なん…………」


 彼が通史端末越しに上司と話していると、電脳家メカニストの一人がデモから一人道を逸れて脇に飛び出した。

 スキンヘッドの女性型義体だ。

 あの感じでは電脳化もしているだろう。 

 

「ちょっとそっちは入っちゃ駄目ですって!」


 通信端末を手に持ったまま道の脇に止められた警察車両の列へと近づいていく。

 ここでは本部と連絡を取り合ったり、もしもの時に備えて武器が置かれていたりと一時的に立ち入りが禁止になっている場所。


「だから! ここで止まってください」


 男の制止も聞かずに拙い足取りで歩く女性を男が止める。

 肩に手を触れて、強引に引っ張った。

 彼女は力なく振り向いて後ろにいた男の方を見た。

 

「ここは現在立ち入りきん」


 男が話している際中に、突如女性が口を開けたかと思うと咥内から銃口が飛び出した。

 銃口の先から発火炎が灯り、撃ち出された弾丸は男の頭部を貫く。

 それまで怒号が飛び交っていた周囲が発砲音で静まり返る。

 そして叫び声ど怒号が同時に響いた。


「発砲を許可する!」


 直後、男を撃ち抜いた電脳家メカニストの一人と警察とが互いに殺し合う。

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