第40話 各々の形
武装組織が占拠しているのはビルの三階から最上階である五階にかけてだ。
一階と二階は商業区画となっており立ち入る手段が、非常階段やエレベーターの他にも歩道橋などが繋がっていることもあり、侵入経路すべての封鎖が難しいということで、三階から五階にかけて人員を集合させた。
侵入経路は基本的に非常階段とエレベーターの二つしかなく、エレベーターに関してはすでに電源を落としているため稼働することはない。
長時間立てこもることはできるだろう。
ただ、そもそもとして武装組織はビルに立てこもるという選択を取らざるを得なくなった事実そのものが不測の事態だ。
立てこもれるだけでは何も前に進まない。
本来ならば攫った人質を一度隠れ家に集めてから、解体して売るか、身代金で使えそうならば使うかを決める、というのが当初の予定。しかし予想以上に早く勘付かれたことでこのビルに閉じ込められてしまった。
どこかの誰かが派遣した傭兵のせいで面倒な事態になった。
そのせいで無関係かもしれない人質の数人がストレス発散のために殺されてしまったが、今更関係ない。籠城もそこまで持たず、人質の価値はすり減っていく。
今の状況は立ちこもっているのではない。閉じ込められたのだ。
建物の四階。
その中心の大部屋に人質が詰め込まれている。周囲を警戒している人員は多く20を下らない。五階と四階で見回りを行っている人も含めれば組織の構成員は50人程度。
これだけの規模があればもっと別のことに人員を費やすことができたというのに、安い誘拐などで組織存亡の危機だ。
全くみっともない。
そんな、いつ終わるのかも分からない立てこもりの最中、突然事件は起きる。
「は?! おいなんでエレベーター動いてんだよ!?」
突如、エレベーターが動き始める。
階層を示す数字が赤く灯り、確かに上昇してきているのが見て取れた。
「おい! 何か起きてる! 人質だ! あと人員を集中させろ!」
すぐさま無線でその異常が知らされる。
彼らの行動は早いが、エレベーターの動きの方が遥かに早い。
「こっちも動き始めた!」
全部で四つあるエレベーターがほぼ同時に上昇を始める。
一階、二階、三階、エレベーターは上昇を続け、やがて四階へと来る。
チンッ、という独特の機械音と共にエレベーターが上昇を止めて四階で止まった。
その扉の前で構成員が銃を構えて待ち構える。
「あ、何もねぇぞ?」
開かれたエレベーターの扉の先には何も無かった。
「こっちは何もねえな」
同時に開いた二つ目のエレベーターを見ても、そこには誰もいなかった。
「何が起きてんだ」
困惑しながらも構成員の一人がエレベーターに近寄って、警戒しながら中に足を踏み入れる。
左、右、何もない。
下、何もない。
上、《《穴が空いている》》。
「なん――」
エレベーターの天井に円形状の穴が空いていた。
男がそれを発見した瞬間、穴から銃口が突き出る。
「ま――」
発砲音と共に男の脳天から鮮血が散る。
同時に、手榴弾が穴から落とされた。
「手榴弾だ!」
構成員が手榴弾を見て離れると同時に手榴弾——に見せかけた発煙手榴弾が爆破する。
白い煙幕が一気にエレベーターの中から溢れ出し、周囲を覆う。
同時に熱映像装置を取り付けたミカが穴から飛び降りると、すぐさまエレベーターから飛び出る。
異変に気がつき煙幕で視界が確保できない中、構成員がエレベーターの内部をがむしゃらに撃ち始めた時にはすでに、ミカはその横へと移動していた。
煙幕の中で構成員を狙う発火炎が灯る。
「何がおき――」
彼らは状況の把握もままならないまま殺されていく。
熱映像装置を持たぬ彼らにとって、ミカの存在は捕捉できず、ミカだと思った者は味方で同士討ちすら行う始末。
ミカはその中でただ冷静に任務を遂行するだけ。
◆
一方、同様に別の場所で上昇を続けていた二台のエレベーターが止まる。
一台の中には誰もいない。
もう一台には重装備で武装したミリアの姿があった。
強化装甲を電磁膜で覆った耐爆スーツ。
ほぼすべての爆発物と銃弾に対して確固たる防御性能を誇り、EMPに対しても高い耐性がある。
特別四課の中で最も性能のある装備であり、最も高価な武装だ。
それだけの重装備に身を包んだミリアの手にはチャージ系の散弾銃が握られている。
名前をグラード。
破壊力の高い武器ばかりを製造するとち狂った火力信仰が基盤のポンペイウス社が製造した、電力チャージ式の散弾銃である。
使い方は簡単。
引き金を引き続けて電力をチャージ、そして最大まで溜めたら一気にぶっ放す。
別に最大まで溜めなくても撃てるが、最大まで溜めた方が気持ちがいい。
隠密なんて文字はハナから無く、エレベーターで上昇している時からミリアは引き金を絞ってチャージ、そして扉が開くと同時に最大火力をぶっ放す。
扉の前で待機していた構成員は何が来てもいいように盾やテーブルなどで障害物を立てていた。しかし最大まで溜めたグラードの火力がすべてを破壊する。
扉の前で待機していた構成員は障害物と共に肉片となってぶっ飛び、少し離れた場所にいた構成員でも、もはや凶器となった速度で飛んでくる障害物に命中し、負傷を負う。
そして衝撃と痛みによって意識から僅かに手を離した構成員をグラードの銃口が狙っていた。
◆
ビルの屋上部分には四名の構成員が待機していた。
輸送機で敵が降りてくるのに備えるため、そして壁を伝って屋上にまで来た敵の存在をいち早く感知するためだ。
「――っったくなんだよ!」
彼らが警備する屋上を課長の操縦するドローンが急にやってくる。
ドローンに武装は取り付けられておらず、彼らを攻撃することはない。
かといって高速で動くドローンを相手に弾丸を当てることはできない。
「下層の奴らに報告しておく、それまで何もな――」
一人が通信端末を取り出したところで、突如となりのビルからウォルターが降って来る。
「おま――」
通信端末を持つ構成員以外の三人が瞬時に反応してその不審人物に銃口を向けようと動く。
だがよりも早く、ウォルターは両手に握り締めた二挺の拳銃で四人を一気に撃ち抜いた。
「行きますか」
腰を伸ばしながら軽く呟く。
「ドローンに武装取り付けててくれてればすぐに終わったんだけどね……ま、ただそれじゃ規律違反になっちゃうか」
五階へと繋がる階段を下る前にウォルターが空中で停止したドローンを見た。
そして軽く手を振って課長に感謝を述べてから、ウォルターは階段を下り始めた。




