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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第39話 特別四課

 作戦開始までは5分ほど。

 それまでにミカたちは準備を済ませて出ていく。 

 すでにウォルターとミリアは準備を済ませ外に出ている。

 というより、ウォルターはほとんど準備をしていないし、ミリアは別の場所にロッカーがある。

 必然的に武器を取りに行く必要があったミカはロッカーに一人ということ。


「……」


 いつものジャケットを羽織り、ロッカーにしまってある少し改造を加えたコーテン製P-34ラグナイト拳銃をホルダーにしまう。

 そして一人で使うにしては大きいロッカーの中を見ると、二挺の銃器が入っていた。

 一つはヴォルトハイブ。 

 もう一つはマグボルト。

 どちらもスラムにいた時に使っていた銃だ。

 今はロッカーの中で置物になっている。


 使う機会は、今のところない。


 ミカはその二つを一瞥するとロッカーを閉じて振り返る。

 そして一度事務所の共有スペースに出てもう一度装備を整える。

 扉を開けて入った先は左右両脇にずらりと銃器が並んだ空間だった。

 巡査部門や捜査部門は扱える銃器に限りがあるが、特別部門はそうではない。今回のような事例に対処するために使える武器に大幅な制限がない。部屋にずらりと並んだ武器はすべて自由に使える。

 巡査中などの通常業務の時は基本的な武装しか使えないが。


「……」


 狙撃銃や散弾銃、電磁デバイス、EMPグレネードに至るまで様々と用意されている。

 ミカはその中から迷わずニックアームズ社製の小銃——NA-11 プレシジョンライフルを手に取る。


 重心、重さ、安全性や整備性も含めてミカが扱ってきた小銃の中で最もスタンダードで扱いやすい。

 無駄にトリッキーな銃を使う必要はなく、安定性を求めればいい。

 散弾銃でもいいが、人質のことや部隊員が三人と少ないことも考慮して様々な状況に対応できるNA-11が最適。


「いくか……」


 準備を終えたミカは部屋を後にする。

 シミの残る階段を下り、すぐに扉が出迎えた。

 扉横のモニターを操作してパスワードを打ち込むと扉が開く。


 そして広がるのが企業ビルに囲まれ、目の前が道路のダストシティ恒例の景色。

 扉にロックがかかったのを確認してから歩道を横切って車道脇に止めてある装甲車両に近づいた。

 そして後ろに回り込んでバックドアを開くと、中の開けた空間が見える。

 両脇に長椅子が置かれ、壁には電磁デバイスや銃器などが格納されていた。

 先に車両に乗り込んでいたウォルターとミリアがミカを見るとそれぞれ反応を示した。


「遅かったですね、私が一番の乗りです!」

「はよ終わらせて帰ろうぜ」


 ミカは「ああ、そうだな」とだけ返事を返して車両に乗り込む。すると運転席に座っていた課長が座席から顔を出して後ろにいるミカたちに声をかけた。


「準備はオッケー?」


 その呼びかけに対して三人はそれぞれ返答を返す。 

 そして課長は「うんうん」と頷きながらハンドルを握り締めた。


「さあ行くよ諸君! 仕事の時間だ!」

 

 何回それを言うのかと、若干ミカが疑問に思いつつ、車両は動き始めた。


 ◆


「確認しておけ、これが今回の最重要優先人物だ」


 走る装甲車両の中でミカたちが情報のすり合わせを行う。

 車両後部のミカたちが座る空間の中心に、設置された機械からホログラムが表示される。映っているのは今回の任務で最も重要な人物である重役の娘。年は7歳程度。金髪で長髪。

 一発で上流階級の出自だと分かる。


「幸いなことに今のところこのが重役の娘ってことは犯人側に伝わっていない」


 育ちの良さは透けて見えているが、さすがに重役の娘だとは認識していないはず。それに今回、誘拐された子供や大人の中には写真を見る限りで育ちが良さそうな奴は数人いた。

 傭兵を差し向けられたとしても、誰が原因かまでは特定できないはず。

 内部でどのようなことが行われているのかは分からないが、現状はまだ重役の娘であるとは露呈していない。


「前に説明した通り、人質が囚われているのがこの部屋だ」


 ビルが分解され、一つの部屋が赤く染まる。


「敵は傭兵崩れでもかなり用心深い。重役が差し向けた傭兵を返り討ちにしたことや警察が突撃できていないことを考慮すると、それなりにやる奴らだ」


 人質を捉えているのはビルの中心部分。

 もし外壁に面した部屋であれば、壁に穴を開けて救出できた。上か下かに空間があれば同様に穴をあけて救出できた。

 しかしそう簡単には行かない。

 人質のいる部屋までの道のりは遠い。


「武装組織は身代金とホバー型航空機を要求してはいるが、まあどうなるかは分からない」


 身代金目当ての立てこもりが成功したケースは少ない。ほとんどが人質に少数の犠牲を出しながら、最後は犯人が殺されている。これだけの事件になれば、もはや逃げ切ることは難しく、彼らもそれが分かっているはず。

 人質がいるから時間稼ぎができてるだけで、逆転の一手が打てるわけではない。


 時間は彼らの敵。 

 焦っているはずだ。

 その結果、どのような蛮行に及ぶことになったとしてもおかしくはない。


「身代金要求のタイムリミットまでは10分。着いたら即行動だ。オッケー?」


 三人がそれぞれ返答をして、それから課長が話を続ける。


「作戦行動には巡査部門の狙撃兵スナイパーチームが加わる。彼らは私が合図をしたらいつでも撃てるよう待機してもらっている。ただ、内部の情報はお前らしか知れないだろうから、誰かが私に合図を送ってくれ。そしたら指示を出す」


 課長は間髪入れずに口を開く。


「次は一番大事な作戦についてだ」


 ホログラムが切り替わる。


「ビルの侵入経路は外の非常階段か、内部の四つのエレベーターか、隣のビルから飛び乗るかの三択だ。いつもは作戦なんて考えなくてもどうにかなってるが、今回ばかりはちと状況が複雑だ。どうする」


 どうする、などと訊かれてもミカたちが取る選択は分かり切っている。

 相手に人質がいようといなかろうと関係ない。

 いつも通り事を成すだけだ。


 ◆


『オッケー。じゃあこっちで確認取れたら各自好きなように』


 ビルの一階部分を一人で歩くミカに課長からの全体通信が入る。

 現在、ミカたち三人は武装組織が占拠しているビルの各地に散らばっていた。

 作戦は無い。

 いつものように各々が好き勝手に行動して目標を達成するだけ。

 状況に応じて各々が最適解を取り、対処していく。

 それがいつものやり方。

 普通の組織、部隊ならばありえぬ選択だ。


 現場で幅広い裁量権が認められている上に、状況に応じて最適解を導き出せる力があるミカたちにしかできぬ選択。

 他の特別部門のどの課を見てみても、これほどまでに自由に作戦行動を行う部隊というのはまず無い。


 これには、所属しているのがミカやウォルターといった実力こそあるものの組織内での作戦行動より、単独での活動の方が得意な部隊員が半数を占めていることや、その上司である課長が基本的に自由人という事実が関係している。

 ミリアは部隊内での活動は得意ではあるが、四課に入ってからはミカとウォルターのせいで、一人での戦闘が多い。


 そのおかげで苦労もしてもいるが、状況判断能力が培われているのも事実。

 代わりに組織内での行動が苦手になっているような気もするが。


『課長が現場に来るのは久しぶりですね!』


 全体通信の中にミリアの声が響く。

 緊張なんて感じさせない声色と声量だ。


『ほんとだよまったく。お前ら作戦通りに動かねえからこっちは苦労してんの。いつもだったら勝手にやれって感じだけど、今回は別。手助けぐらいはしてやる』


 もともとは他の課と同じように規律を持った部隊にしようとしていたが、いつの間にかこんな状態になってしまった。

 別にそれでも任務を完遂してしまうので放置していたが、四課の存続がかかっているこの任務では失敗できない。

 かと言って。

 逆にガチガチに作戦を固めて行動した方が馴れてないせいでミスが出る可能性すらある。

 

 だから今回は課長自らが援助についている。


『まだか?』


 今度はミカが全体通信で課長に呼びかける。

 続いてウォルターとミカも声をあげた。


『もう配置には着いてるよーん』

『私もです。早くしてください!』


 フンス、フンス、でも鼻息を立てていそうなミリアの通信が響く。何を興奮しているのか、彼女は四課に入ってから少しずつおかしくなってきてしまっている。

 そして急かされ、煽られた課長もまた声を荒立てる。


『っうっせーな。こっちだって久しぶりなの! デスクワークばっかやってた奴にニューロダイバーやらせんなっての!』


 課長は今、小型の蜘蛛型機械を操作してビル内部の情報を収集しているところ。収集が終わった後、情報はミカたちに届けられる。

 そしてそこから作戦行動開始。


『よーし! システムのハックも終わり! 合図に応じて動かすぞ!』


 ミカが小銃の動作確認を軽く行う。

 そして軽く体を動かした。


『ハック完了。始めるよ』


 ミカが目の前のエレベーターを見る。

 選んだ侵入方法は一番危険な奴だ。


『さて、特別部門第四課わたしたちの力を見せようか』


 課長の合図と共に特別四課は動き始める。

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