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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第37話 ミカの仕事

 暗く狭い部屋でミカが椅子に座っていた。視線の先には机の上に置かれた幾つかの機械の部品がある。

 壊れたICチップと破壊されたカメラの部品だ。

 これは二日前に起きた殺人事件の証拠品。

 裏路地で頭を撃ち抜かれていて死んでいた人物の物。


「グレム・マルコイ。31歳。職業は……」


 男について書かれた幾つかの資料に目を通していく。書いてあることはおおかた予想できたものだった。


「フリーのジャーナリストか。恨みを買って殺されたか……」


 ミカが机の上に置かれたカメラを見る。

 ジャーナリストは恨みを買う職業。どこかで買った恨みのせいで誰に憎まれているのかも知らないまま、突然殺されるだなんてことはよくある。ただ、今回は違うだろう。

 フリーのジャーナリストであるという情報。困窮していたという男の状況。そして現場に残されたカメラと衣服の中から発見されたICチップ。

 見てはいけないものを映像に収めてしまったか。 

 どちらもありうる。


「死因は頭に一発。犯人は未だ不明と」


 検視の結果、被害者の男は抵抗の末に撃ち殺されたという話。偶々《たまたま》巡回中だったミリアがその場に遭遇したことで犯人は逃げた。今のところ分かっているのはミリアのボディカメラが捉えた後ろ姿、そして逃げ足の速さから犯人は身体拡張者だと分かるぐらい。


「企業は情報開示に否定的……判断しづらいか」


 公共の場所に設置されているカメラは警察が自由に見ることができる。しかし企業の統治内にあるカメラや企業ビルに設置されているカメラは承認が無ければ見れない。

 企業よりも立場が弱い上に、基本的に企業は情報の開示に否定的だ。

 たとえこの事件に関わっていても、いなくても、弱みになる可能性がある情報を警察に開示するのが嫌なのだろう。


 犯人の逃走経路を考えると企業ビルの監視カメラに写っていそうなものだが、その映像は見れない。


「……」


 証拠品はミカの目の前にあるICチップとカメラの残骸だけ。本来ならば殺して奪う予定だったのだろうが、ミリアのせいでそうも行かなくなり、急遽破壊したということだろう。

 破壊のされかたを見るに修復は不可能に近い。

 できたとしても中の映像を見れるかどうか。


「さて……」


 軽く息を吐いて、ミカが作業に取り掛かる。

 ICチップからウィンドウを表示させて内部の情報を漁っていく。

 たとえICチップが壊れていようともウィンドウを表示させることで内部の情報を盗み見ることができる。昔はできなかったが、ここ一年でできるようになった。どうやらウィンドウが少しだけ便利になったらしい。


「……これか」


 ICチップから浮かび上がるウィンドウを漁って、幾つもの文字や数字を掻き分けた先に一つの映像を発見した。

 暗い部屋の中、ミカは首を回してから映像を再生する。


「…………」


 映像は断片的にしか見れず、ワンカットずつ5秒から10秒の映像が場面ごとに切り替わって流れていた。

 確認できたのは何かの手術映像。

 頭蓋を切り開かれ、脳を取り出される。おそらく電脳化の手術映像だろうか。

 次に義体化手術の映像。

 追っ手から逃げるグレムの映像。

 

 どれも断片的で情報としては不十分。


(少しずつ進めるか)


 男が情報を売っていた新聞会社、報道機関などの伝手を調べ、グレムという男の周辺を明らかにしていかなければならない。

 少しずつ残った痕跡から真実にたどり着く。

 ウィンドウを見る限り、どうやらICチップからもカメラからも情報が抜き取れそうな雰囲気がある。


 そこまで差し迫った案件でもない。

 少しずつ進めていけばいい。


「寝るか……」


 机を照らして明かりを消した。

 今日は昼の巡回中に面倒ごとにあったせいで残業を強いられた。

 明日も仕事がある。

 かなりの重労働、疲れを取る必要があった。


 ミカは一度背伸びをして明日の準備を軽くすることにした。


 ◆


「今日も頑張っていきましょう!」


 ミカが所属する特別四課の事務所のような場所で、警察服をきちんと着たミリアが元気よく挨拶をする。

 部屋の中は積み重ねられた未分類の書類と資料。そして地面に積まれた本。どこか陰気な雰囲気が漂っていた。しかしミリアは気にせずに事務所の中を歩き回って、まずカーテンを開けて日の光を入れると、てきぱきと本や書類を片付けていく。

 それが終わるとテーブルで突っ伏していた同僚の無精ひげを携えた中年警官——ウォルター・ブリッグスに声を掛ける。


「またお酒飲んでたんですか? それにここは宿泊場所じゃありませんよ」

 

 テーブルの上に置いてあった酒を片付けて寝ていたウォルターを起こす。


「おぉ……すまんすまん。寝ちまった」

「じゃあ30分後に集合があるので、それまでに準備お願いしますよ」

「おーけー」


 親指を立てて意思を示す。しかしウォルターは親指を立てたまま自然な形でまた突っ伏した。

 ミリアはそれに気がつきながらもどうせいつもどうせ時刻通りに集合するので、声はかけない。

 

「……あ」


 そしてミリアが片付けに戻ろうとしたところで、扉を開けてミカが現れる。


「ミカさん! おはようございます!」

「ああ。おはよう」


 ミカは最初こそミリアの大声での挨拶にびっくりもしていたが、今は慣れて普通に返事する。

 そしてミカが来訪するとウォルターもむくりと顔をあげた。そんなウォルターにミカは近くの店で買ってきたカップコーヒーを渡す。


「いつものだ」

「くぅーー助かるぜぇ」


 カップコーヒーを渡した後、ミカは部屋の隅の方にあるハンガーラックに近づいて、着ていたボロボロのジャケットをかける。

 そんなミカを見てミリアが声をあげる。

 

「あ、ミカさんまたいつもの。ちゃんと着てください」


 ミカは警察官に支給される制服を着ておらず、ラフな格好だった。普通ならば許されない。しかしここではそれが許される。


「特別部門に制服の着用義務はなかったろ?」


 警察《PCD》では主に巡査部門と捜査部門、そして例外的に認められている特別部門の三つの体制がある。

 基本的に特別部門では他の部門で扱えなかった事件の捜査を独自で行えることが強み。それ故に幅広い裁量権が与えられている。私服か制服かも、他の部門と違って決められておらず、どちらでもいい。


 そして。

 ミカたちが所属しているのか特別部門第四課。通称、特別四課。

 在籍している人数は他の課と比べても少ない四人だけ。

 ミカとミリア、そしてウォルターとあと一人だ。


「いえいえ、形から入ることが大事なのですよ」


 四人しかいない部隊員の一人であるミリアが、自説を説く。

 警察組織に属してる以上、市民の味方であり正義。信頼と安心を得るためにはまず形から。そのためにきっちりと制服を着る。

 

 立派な信念だ。

 少なくとも、ダストシティの警察——PCDで無ければただただ素晴らしい考えであっただろう。


「あんま堅苦しくならないほうがいいぜ。ミカぐらいだらしない方が長続きするからな」


 コーヒーを飲みながらウォルターが横やりを入れる。

 すると今度はミカが口を挟んだ。


「お前はだらしなさすぎだ」

「それはそうだな。はは」


 草臥れたように笑うウォルターとマイペースなミカを見て、ミリアが「まったくもう」と小さく呟いた。

 これが特別四課の日常。

 特別部門の中でも特に実力と――色々な意味で――危険性が高いと言われる部隊の朝だ。


 そうして、いつも通りの朝が進んでいると誰かが大きな足音を立てて階段を上がって来る音が聞こえた。

 階段を上る足音の間隔で三人は誰が来たのかをだいたい察する。

 足音は階段を上り終えると、ものすごい勢いで扉の前まで迫る。そしてノックも無しに勢いよく扉が開かれた。


「おっっはよー諸君!」


 現れたのは警察官に支給される制服とは違い、しわの目立つスーツを着た一人の女性だった。黒髪で長い髪を後ろで編んでいる。パンツスタイルで背は170㎝を越えている。

 可愛いというよりもかっこいいに分類される女性だった。


「おはようございます! 課長!」


 ミリアが背筋を伸ばして挨拶を返す。


「うむ。……他の二人は……まあいい」


 ミカは普通よりも少し小さな声量で、ウォルターは聞こえるか聞こえないか、という声量で返答をしていた。普通ならば注意するところだが、二人はこれが平常運転なので気にしない。


「諸君、今日はとびっきりの案件だ! 通常業務などしなくてもいいぞ!」


 課長はそう言うとホロ端末をテーブルの上に置いた。


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