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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第二章 ナイトウォッチ編

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第36話 ダストシティ

 ダストシティは輝き続ける。いくら年月が経とうとも、企業ビルが夜を照らし、ネオンとホログラム広告の明かりが路地を照らす。

 複雑で歪な権力構造と、入り組んだ組織間の関係。

 企業、コーディネーター、ギャング、傭兵、様々なものが絡み合ったこの都市は、ある者が見れば抗えぬ魅力を発しているように感じ、ある者が見れば忌避する。独特の雰囲気を纏ったダストシティ。

 

 荒くれ者だらけ、殺人だらけ、犯罪ばかり、基本的に取り締まる者はほとんどいない。

 ダストシティは区域ごとに企業が『企業部隊』を配置することで治安維持を行っているが、そこまで積極的というわけでもない。どちらかというと、ギャングよりも企業部隊の方が好き勝手やっているようなイメージだ。


 そうした行為の割を食うのはいつも警察——PCDだ。

 与えられる装備も権力も企業部隊に劣り、市民からの批判も多い。それでいてあまり給料は高くなく、殉職率は高い。今時、ダストシティの警察になろうって奴は相当高い志を持っているか、それとも警察になるしか選択肢が無かったような奴。

 汚職警官は当たり前、ギャングや企業とどこかで繋がってる。

 志が高い奴はほとんどが現実を知って辞めるか、仲間に裏切られて殺されるかの二択。


「平和ですねー」


 新人警官であるミリア・ケルトレンがパトロール中に緩く呟いた。

 昼間のダストシティは明るい。今歩いている場所はギャングの活動範囲内ではあるが、入り組んだ路地にさえ入らなければ治安はいい。警察がこうして巡回しているからだ。

 

 周りには企業ビルが立ち並び、道路を車両がぶっ飛ばす。

 道行くのは色とりどりで飽きの来ない特徴的な市民たち。

 トゲトゲの角のようなものが生えたスキンヘッドの男性。目が三つあるパンク風の男。単純な薬物中毒者。髪色も緑から黄色、虹色とこの世にあるすべての色をここを歩くだけで網羅できそうな勢いだ。 

 服装もパンク風からスーツ、時には裸まで様々。

 道路脇に座って人間観察をしてみても一日中飽きがこない。


 上を見上げてみれば空を飛ぶホバー型航空機と浮かび上がるホログラム広告。街並みの喧噪、車両の排気音、叫び声と言い争いの声、稀に銃声。


 警察《PCD》の仕事は異常が日常になったこの都市で仕事をすること。それはパトロールであったり、捜査であったり、様々だ。


 少なくとも平和ではないこの日々の業務中に「平和ですねー」と能天気にのたまうのがミリアという新人の女性警察官。普通ならばその言葉を聞いたら同僚の警察官は戸惑いの声をあげたり、訂正したり、悪態をいたりするのが普通のところ。

 だが、隣を歩くミカは淡泊な反応を見せた。


「そうだな」


 ミリアとミカの二人はパトロールの業務についていた。基本的にパトロールは二人一組で行うよう定められている。


「平和なことはいいことです! 今日は早めに終わりそうですね!」

「そういうこと言うと……」


 即席のカップ麺を作り始めたら、仮眠を取り始めたら、「暇だな」と呟いたら、何故か仕事が舞い込んでくる。

 都市伝説というか噂というか、もうほぼ怪異だ。


 足を止めた視線の先には片腕に格納したブレードを無意味に展開している男がいた。基本的に、体内にどのようなクロームギアを入れようとこの都市では罪に問われない。

 しかし街中で意味も無く使い始めたら、その時点で法に引っかかる。

 企業部隊やギャングならば見放してくれる抜け道だらけの緩い法ではあるが、さすがに警察《PCD》に見られればそうともいかない。企業の影響や私利私欲のために腐り切った警察組織ではあるが、行動の指針まで変わった訳ではない。

 

 できれば目を背けたいところだが、対処しなくては。


「午前11時21分。クロウリー地区24番街。タイガーズホテル前。記録開始」


 対象となる男は人質を取っているわけでもないので、特に急ぐことなく映像記録を開始してから二人は近づく。

 男はタイガーズホテルに入るための階段脇に積み重なったゴミ袋の山の近くで、ブレードを振り回している。近くに人はいないが、誰かに向けてブレードを振り回しているような動きだ。

 幻影でも見えていそうだ。

 

 クロームギアの入れすぎでおかしくなったのか、それとも。


「あれってマンティス社のスコーピオンブレードですよね。それも最新の……でも動作不良ですかね」

「質の悪いギアスミスに頼んだのか、それとも不良品だったのか。まああれは……」


 ブレードが完全に展開されておらず、ガクガクと展開時動作を繰り返している。単純な動作不良という点もありえるが、そうであれば使用者があそこまでおかしな行動をしない。

 スコーピオンブレードはあくまでも副次的な要因だ。

 

「おおかたタチの悪い電脳系の薬物だろうな」

「ですよね」


 男が使っているのは、薬物の中でもクロームギアやインプラントに影響を及ぼすタイプの電脳系の薬物だ。

 普通の薬物と違ってクロームギアが意思とは関係なく作動する危険性もある上に、幻覚症状など普通の薬物でも引き起こされる症状もある。

 治療も面倒だ。

 もし義体や強化腱などを仕込んでいれば意識を失わせても薬の作用によって勝手に動き出す可能性がある。そうなると警察はまだしも武装していない輸送側の人間が被害を被る。

 

「抑制剤用意しときますね」

「通常用と電脳用どっちも頼む」

「なんでですか」

「万が一の時のためにな」

「了解です」


 ミカが警察に一般支給される拳銃——コーテン製 P-34ラグナイトをホルダーから取り出す。


「こっちの声は聞こえるかー! 聞こえるならそのブレードを格納しろ!」


 ミカの呼びかけに男は応じない。

 網目状の柵に取り囲まれたゴミ置き場でスコーピオンブレードを振り回しているだけだ。


(だろうな)


 声掛けに応じないことは最初ハナから分かっていた。

 そうであっても声掛けをしなければならないのが警察という仕事。これが企業部隊であれば先制攻撃が許されていたところだが、生憎そこまでの権限は付与されていない。

 これも警察《PCD》の殉職率の高さの原因だ。


「抑制剤二種類用意できました」

「分かった」


 公共の場でのクロームギアの無許可使用。応答に対しての無視。民間人への危険性。

 すでに警察の規範の中で定められた抑制剤や鎮痛剤、麻酔の使用条件は満たしている。


「まずは電脳系の方から頼めるか」

「了解です!」


 ミリアが麻酔銃に鎮痛剤入りのダートを仕込み、男に向ける。

 男はブレードを振り回して暴れているが、柵の中だけ、ミリアの腕であれば十分当てられる。

 拳銃を両手で支え、足腰を地面に固定した綺麗な射撃体勢からミリアが引き金を引く。


「規定量の半分だったか?」

「はい」


 薬剤入りのダーツは確かに命中した。

 しかし僅かに動きを止めただけで、すぐに男は暴れ始める。


「いきます」


 一発目のダーツに入っていたのは規定量のちょうど半分。

 ミリアがもう一発装填すると撃ち込む。


「駄目みたいだな」

「ですね」

「一応通常の方も撃ち込んでみるか」

「おっけーです」


 一瞬で通常の抑制剤を装填し、打ちこむ。

 しかし様子は変わらない。


「グリッチャーだな。等級は『Ⅰ』ってところか」

「そうっぽいですね」


 薬物の使用や電脳化による精神障害などによって身体拡張者が自我を失い、危険行為に走ることがある。そうした人物は『グリッジレベル』と呼ばれる独自の基準で危険度を分けられ、『グリッチャー』と呼称される。


「俺がまず近づく」

「おけです」


 相手から攻撃してもらわなければ『グリッチャー』だと認定できない。先制攻撃が許されるのは企業部隊だけ、警察《PCD》であるミカが先に攻撃をすれば事と次第によっては解雇だ。

 そうならないためのボディカメラ。


「聞こえるか。聞こえるなら武装を解除しろ」


 P-34ラグナイトの安全装置を解除して近づく。

 男は応答に応じず、幻影に向かってスコーピオンブレードを振り回している。


(やけに動きが早いな。強化薬でも仕込んでるのか? それとも筋力増強系のクロームギアか……だとしたら……)


 スコーピオンブレードの他にもクロームギアを装着しているのならば、対処が面倒になる。殺すだけならば簡単だが、まず捕まえることが第一優先となる警察だと話が違ってくる。

 ただ。


(等級『Ⅰ』なら発砲許可も出るか)


 相手が『グリッチャー』であればまた話が変わって来る。

 先制攻撃こそできないものの、危険だと判断できる証拠さえ整えばいつでも殺せる。

 民間人でも襲ってくれたほうが、この際ありがたかったが、生憎、相手は幻影に向かってブレードを振り回すだけ。現段階で判断できる確固たる証拠が揃っていない。


(だから殉職率高いんだよ)


 心の中で悪態をつきながらミカがごみ置き場の中へと足を踏み入れる。

 柵に囲まれたその中に足を踏み入れた瞬間、男が幻影を追い回すのをやめてミカを見た。


「今すぐブレードを収めて地面に這いつくばれ。10秒い―――」


 口から涎を垂らして正気なんて微塵も感じさせない男がミカの命令に従うわけもない。

 突如としてスコーピオンブレードを全開にさせると地面を蹴って一気に距離を詰め――


「規制線張るか」


 男が距離を詰めてブレードを振りかざした瞬間、ミカが頭部を撃ち抜き。続いてミリアが両腕を撃ち抜いた。

 頭部を撃ち抜かれ完全に絶命した男を見下ろしながら、ミカが対処に当たる。

 まずは規制線を張って処理をして、男の身元を確認して……


(面倒だな……)


 エルドの事件からもう二年。

 あいつらが憧れたダストシティがどんなものかと足を踏み入れてみれば、起きていることはあまり変わらない。

 まだ、ダストシティをよく知らないから、そのような感想になってしまうのかもしれないが。


「俺から巡査部門に応援を頼んどく」

「じゃあ現場の封鎖しときますね」


 拳銃をしまったミカとミリアがそれぞれテキパキと作業に当たった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。もしこの先の展開にもご興味を持っていただけましたら、ぜひブックマークや評価、そして「いいね」を押していただけると、作者として大きな励みになります。



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