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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第34話 ドロップアウト

 ダンが経営する工場のある一室。そこでダンが通信機器を手に天井を見上げていた。

 ギィギィとなる椅子に腰かけて、体重をかけて無心で天井を見ている。 

 いつもはピシッと着ているスーツも今日ばかりはしわが目立つ。


「……負けてしまいましたね」


 ギルバーンが搭乗するボファベットからの通信が途絶えた。

 あのジャンクヤードでギルバーンは死に、同時に徒党としても破れた。

 その協力者であるダンもまた敗北者となる。


「また一から……ですか」


 ダストシティでも負けて、ここでも負けてしまった。

 一世一代の賭けは失敗だ。

 しかし諦めると言う選択肢は頭の中にはない。

 幸いにも工場は残っている。

 エルドファミリーが潰しに来ないとも限らないが。


(ま、まだ伝手つてはありますか)


 ダンにはまだ企業との伝手が残っている。

 ギルバーンは惜しい協力者ではあったが、失ってしまったのならば仕方ない。

 薄情な気もするがあくまでも協力者。 

 負けたのならばそれまで。

 

「どうやって始めましょうかね」


 エルドファミリーが協力者であるダンを襲撃し、工場を乗っ取るのも時間の問題。

 もうこのジャンクヤードが生んだスラムでは生きて行けぬだろう。

 ダストシティの回りにはまだ色々なスラムがある。

 途中で廃棄された大規模な都市開発計画が生んだ巨大な廃都市に形成されたスラムや、ダストシティに本社を置く企業が作った工業地帯に至るまで、再起を図れる場所は数多くある。

 すべての資金を投入して作った工場はこれで終わり。

 

 また次を求めてさまようことになる。

 きっと旅は長くなる。

 金の備蓄もありまりないのだから、今回のようにうまくはいかない。

 老衰の可能性すら考えるほど長い再起になるだろう。

 

 次にミカと会う時は義体になっているかもしれない。


「まあ、次ですか」

 

 椅子から立ち上がり、工場から別のスラムへと旅立つために歩き始める。 

 ダンが部屋の扉を開け、外に出ようとした時、扉の先には武装した傭兵が立っていた。


(……これは)


 保有する武器と装備。

 普通の傭兵ではないとすぐに分かった。

 これは企業が保有する私設部隊だ。 

 

(企業部隊……)


 ダンの脳裏にボファベットの取り引きを行ったマンティス社が過る。

 抗争の前に渡された電磁機構。

 そして一部機能にロックのかかった『読み取りデバイス』。


 ダンが知り得ている情報から、知り得ていないエルドファミリーのことまですべてを一瞬で予測した。

 そして今、自らの前にマンティス社の企業部隊がいる理由は理解してしまった。


(そうでしたか……はなから私たちなど……)


 もはや足掻く気持にはなれず、疲れ切った表情を見せたダンは頭部を撃ち抜かれた。


 ◆


「おい、なんだありゃあ……」


 近づいて来る黒色の航空機を見てエルドが呟く。

 四角形のようなひし形のような、奇妙な形をした航空機だ。

 黒色をベースに黄色が混じった色合い。

 エルドとミカはこれを知っている。ケルンはこれを見たことがあった。


「企業部隊か……」


 エルドが呟きながら、慌てて逃げるように叫ぶミカを見る。

 ミカのあの慌てぶりを見るに、航空機が来る前にボファベットの中で何かを見つけたのだろう。

 電磁機構。

 コーディネーター。

 ボファベット。

 企業。


「俺たちは……嵌められたのか」


 落ち着いた口調でミカに問いかける。


「そうだ! 嵌められたんだよ! 逃げろ! 今すぐ!」

「無理だ。こいつは……手遅れだ」


 ミカの顔が歪む。

 彼は馬鹿ではない。

 気持ち悪いまでに合理的な男だ。

 今だって冷静に状況を見極めているはず。

 逃げられないことも分かっているはず。


「あいつらの狙いは……おおかた戦闘記録と電磁機構の回収ってところか」


 加えて、エルドファミリーがいなくなった後のスラムの統治権か。

 となると電磁機構について知っているエルドはまず生き残れない。

 構成員には逃げるよう伝えたいところ。しかし、幸か不幸か彼らはエルドを慕っている。

 相手が企業部隊だと分かって勝ち目がないとしても命を捨てて挑む。

 

 冷静なダンテだけは唇をかみしめながらも、合理的な選択を取ると思うが。


「おれにゃあ、お前を助けることはできなかったようだ」


 エルドは先ほどまで足の治療に当たっていたケルンに語り掛ける。

 ケルンは企業部隊を見ると口を開いたまま固まったまま動かなかった。

 しかしエルドの問いかけによって、やっと反応を示す。


「助けるって……それじゃ――」

「ああ。失敗しちまった。お前は生きろ」

「待ってこ――」

 

 直後、エルドはケルンの側頭部を軽く殴った。

 軽くであってもエルドの剛腕はケルンに確かな衝撃を与え、意識を失わせていく。

 倒れるケルンは強化外骨格装甲の操縦席から滑り落ちて、ちょうどミカのところに落ちていく。


「また殴っちまったな」


 ケルンを殴った拳を見つめ、ため息をついてからミカを見る。

 ミカは落下してきたケルンを抱きかかえていた。

 その表情に先ほどあった焦りはない。


(さすがだな)


 一人で生きて来たからこそミカは困難な決断をすぐに行える。

 今回もまた、彼は決断したに過ぎない。


「おれはダストシティ(あそこ)には行けなかった」


 以前、ミカとダストシティについて軽く話し合った。

 彼はダストシティを目指す理由は分からないと、そう言っていた。

 しかしゲルグでの過去のことや、彼の行動を見るとそうではない気もする。

 

 結局は心の持ちよう。 

 行きたければ行けばいい。

 行きたくないのならばそれでいい。

 ミカには能力がある。

 エルドが目指したダストシティに足を踏み入れる資格がある。


(ったく……)


 昔、エルドと共にスラムで徒党を作った時のメンバーと話し合った。

 ダストシティにこのメンバーで行くと。

 どうやらその願いは叶えられそうにない。


「お前はどうだ」


 お前はどうすると、ミカに問いかけた。

 ミカの答えは以前と変わらない。


「お前が命を賭すほどのところじゃねえよ」


 結局、ミカがどうするのかは聞けず仕舞いだったが、これでもいいだろう。

 

「そうか……じゃあケルンは任せたぞ」

「ああ。送り届けるぐらいはしてやるよ」


 別れも言わず、ミカがケルンを抱きかかえたまま走り去っていく。

 対して、エルドの周りで散っていた構成員が集まりつつあった。


 エルドは操縦席に設置された通信機能を起動すると、マイクを持った。


「俺たちは嵌められた。ここまでみたいだ。だが、最後まで足掻きたい奴は残っていいぞ」


 エルドからの通信は構成員が持つ通信端末すべてに伝わった。

 この場にいないダンテを含めて。

 これは死ぬと分かっている戦いだ。

 それでも、今の通信を聞いても、構成員は誰一人として逃げようとはしない。


「さて……」


 エンジンを稼働させ、出力を全開に。

 操縦桿を握り締める。

 強化外骨格装甲はボファベットとの戦闘の跡を確かに残しながら、立ち上がった。

 弾が残り少ないガトリング砲を航空機に向ける。

 先ほどまでは豆粒ほどの大きさだった航空機は今やその全貌がはっきりと見えるほどに近づいて来ていた。

 その速度は早く、あと数十秒もすればここに辿り着く。


「っくは! 好きなようにやれ」


 マイク越しに部下全員に伝えると、ガトリング砲を航空機に向けて撃ち出す。

 数百発という弾丸が航空機の下部に衝突し、僅かに凹ませていく。同時に、付近に集まった構成員も全力で引き金を引いた。


「ぶっ潰れろ!」


 左腕の擢弾発射機をぶち込む。

 残り少ない弾丸のすべてをぶつける。

 しかしそれでも。


(かてぇ)

 

 航空機にはほとんど外傷がつかない。

 そして一気に距離を詰められる。


「墜ちろ! 墜ちろ!」


 真上で停止した航空機に向かって両腕に装着されたガトリング砲と擢弾発射機を撃ち込み続ける。

 しかしそれでも一向にダメージを与えられない。


「―――」


 そして、エルドのいた付近一帯の地面に赤い円状のマークが浮かび上がる。

 

(こいつは――)

 

 直後、重力機構が作動しマークの浮かび上がった。

 マークの内側にいた構成員は重力によって押しつぶされ。一瞬にしてペーストになる。

 頭部装甲が割れ、生身を晒していたエルドもまた同じ力を受けた。


「っ――」

 

 エルドファミリーの頭であろうと、ただの構成員であろうと、企業の前ではただのゴミにしか過ぎない。

 直後、エルドが操縦席内で潰れてはじけ飛んだ。

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