第33話 不規則な真実
激しい戦闘が繰り広げられたジャンクヤードに三人の人影があった。
それはミカとケルンとエルドだ。
付近にはエルドファミリーの構成員もいるが、強化外骨格装甲とボファベットが戦い、今のその二機が残るこの場所には三人だけが残されている。
エルドは潰された片足の応急処置をしてこれから運ばれるところだ。
「借りが出来ちまったな」
強化外骨格に寄りかかりながらエルドがミカに声を掛ける。
「じゃあいつかは返してくれよ」
「そりゃあな」
ミカもまた怪我明けで動き続けたせいで満身創痍だった。体中は痛むし、動いたせいで傷は開いてしまったし、また新たに負傷した箇所もできた。ミカもエルドと共に後方へと運ばれる予定だ。
ケルンは取り合えず医療班が来る前に二人の状態を確かめ、症状をまとめておくために訪れていた。
痛そうにしながらも平然と会話を交わす二人の様子を見れば、危惧していたような事態は起きなさそうだ。
事実、エルドは機体の操縦席に座って欠伸をしていた。
「……とっとと休みてぇな」
腕を伸ばしながらそう言うエルドに、ミカが口を挟む。
「まだ終わってないぞ」
「ダンテがいるんならもう終わりだ」
エルドがいなくなった今、前線の指揮はダンテが取っている。エルドファミリー内でも名実ともに二番手の男だ。構成員にもエルドの右腕として認められ、ダンテの言うことならばエルドと同じように信用して聞いてくれる。
ギルバーンがよほどの兵器を隠し持っていない限り、このままダンテがすべてを終わらしてくれる。
エルドは治療を受けながら部下からの報告を待つだけだ。
疲れ切ってもう戦う気など無いエルドは操縦席に体を張り付けて休む。そんなエルドにケルンは近寄って足の状態を確認していた。
「ここは痛みますか」
「それなりにな」
「ここはどうですか」
「っ――かなり、がッ」
ケルンの容赦のない触診にエルドが表情を歪ませている横で、ミカはボファベットに視線を向けていた。
すでにギルバーンの死体は片付けられて、中には何もない。
戦闘の影響で外核が破壊され、内部機構が見えるようになってる。
修理屋として、ボファベットの内部が気にならないはずはなく、ミカは痛む体を動かして内部に潜り込む。その姿をエルドもケルンも見ていたが、特に声をかけることはなく、「押しますよ」「っくが!」と二人で会話を交わしながら負傷の状態を確認していた。
「溶けてるな……」
内部に入ったミカがまず呟く。
出力のせいか、それとも内部機構に問題があったのか、それとも戦闘の成果、それともそのすべてか。
理由は定かではないが、回路が焼き切れて一部の部品は溶けていた。
(なんだ……?)
軍用品であるボファベットの内部機構に関しての情報は一般に出回らない。しかし内部機構を予測できないこともない。
ミカはこれまで強化外骨格などの大型機械も修理してきた過去を持つ。
ウィンドウの補助もあったとはいえ、長年修理屋として蓄えて来たその知識は確かなもの。
しかしこのボファベットの内部機構はミカとて知らず、予想できない複雑なものだった。
(なんでここに回路が……)
初めて見る機構に興奮を隠しきれず、ウィンドウを表示させながら内部機構を確認していく。
器具が外れ垂れたケーブル類を手で払い、その奥に広がる光景を目に焼き付けた。
「……あ?」
見たことないボファベットの内部機構にあって、ケーブルの奥に広がっていた光景はミカがよく知るものだった。
「……《《電磁機構》》か?」
ケーブルを押しやってボファベットの機体内部に存在するその機構を確かめる。
それは確かに電磁機構だった。
(…………)
内心で湧きあがる最悪の予想から目を背け、内部機構に視線を向ける。
「でば……これは」
電磁機構には見覚えのある『読み取りデバイス』が刺さっている。
やはりボファベットの中にある『これ』は強化外骨格装甲の中に組み込まれた電磁機構と全く同じ。
『読み取りデバイス』を差し込み、起動するところまですべてだ。
「……」
唖然として口を開けたまま、読み取りデバイスを抜き取る。器具で固定されている上に戦闘の余波で設置部品の幾つかが破損していたせいで、中々抜き取ることができなかったが、ミカが力づくで取った。
同時に、『読み取りデバイス』からウィンドウが浮かび上がる。
表示されている文字は『情報を読み取りますか』というもの。
これは前にエルドから渡されたデバイスから表示されていた文字と全く同じ。
前は何かしらの異常が起きたら面倒だと思い、触れなかった。
しかし今この状況で触れないわけにはいかない。
「………ったく」
ウィンドウに触れると情報の読み取りが開始される。
読み取りは一瞬で完了し、新たにウィンドウの情報が更新された。
『マンティス社製読み取りデバイス。非正規品。記録、送信機能アリ』
ウィンドウに羅列された情報はその下にも続く。
型番や状態に関しての情報。
ミカはその羅列を指で追っていると、ある記述で指を止めた。
「記録……ってなんだ」
エルドはこの『読み取りデバイス』を設計図が保存された機器だと言っていた。ウィンドウに表示された情報を見る限り、確かに設計図は保存されている。しかしそれはあくまでも表面的な機能。
幾つかのロックを解除すると、さらに別の機能が現れる。
戦闘記録の保存や、データの送信、地理座標取得機能。
『読み取り』デバイスには本来搭載されていないはずの機能が搭載してあった。
(それにこいつは……)
もしこの情報が閲覧されたら、ロックが解除されたら、どこかに連絡が行くよう機能が詰め込まれている。ミカの場合はウィンドウを用いているからか、その機能は動いていないようだが、ただの読み取りデバイスに搭載しているのは明らかにおかしい。
(いや……嘘だろ)
湧きあがっていた最悪の予想が現実味を帯びてくる。
(だが、ダンは)
否定するようにミカが呟くが、現実が否定する。
すでにミカはダンがギルバーンと繋がっている事実を知っていた。そして武器を売っていることや、その中にボファベットが入っていることなどもウィンドウの情報を見れば分かってしまう。
(ありえるのか?)
ダンは恐らく支援してもらっているという企業からボファベットを買ったのだろう。
ロックが解除されていなかったのを見るに、ダンはこの『読み取りデバイス』の真の機能を知らない。
つまり、企業が何かしらを企んでいた可能性が高い。
(待てよ……)
もし強化外骨格装甲に使われている『読み取りデバイス』が同じ機能を有していたら。
つまりは戦闘記録が保存され、そのデータは位置情報と共にどこかに送信されているはず。
強化外骨格装甲に組み込まれている『読み取りデバイス』が同じ機能を持つとして、元を辿ればエルドファミリーはコーディネーターから買った物。
なぜダンが企業から買った『読み取りデバイス』とエルドファミリーがコーディネーターから買った『読み取りデバイス』が同じ機能を持っている。
尚且つ、どちらとも全く同じ機能を持つ電磁機構に組み込まれていた。
「やばい……」
現実味を帯びる最悪の想定。
なぜ電磁機構を、『読み取りデバイス』を差し込まなければ起動しない設計にしたのか。
戦闘記録が欲しかった。
ありえる。
コーディネーターと企業が裏で結託してエルドファミリーとギルバーンにそれぞれ電磁機構を売った。
ありえる。
「まずいか」
体の痛みなど忘れて、ミカがボファベット内部から飛び出る。そして治療を受けるエルドを見た。
「おい! 今すぐここか……」
ミカが声をかけたエルドはケルンと共にダストシティのある方向に目を向けていた。
つられてミカもその方向に視線を向ける。
そこには、遠くから近づいて来る一機のホバー型航空機があった。




