第32話 正面衝突
ボファベットによって強化外骨格を二機とも仕留め、戦車による砲撃で敵の陣地が崩壊した今、ギルバーンにとって最大の好機だった。ボファベットに搭乗するギルバーンは操縦桿を握り締め、すぐに指示を出す。
彼が組織の一番上である以上、誰に伺いを立てる必要はない。
彼がすべての指揮を執り、現場から構成員を導いていく。
戦車の一斉砲撃の後、陣も指揮も乱れたところに飛び込む予定。
すでに戦車は次弾の装填を済ませ、いつでも撃ち込める状態。
そしてボファベットに乗るギルバーンから通信機越しに全戦車に向けて発砲の合図が出た。
その瞬間、突如として空中から飛来した一機のドローンが搭載されていた爆薬を戦車に落下させる。
P-AshenCore。通称PAC。
ドローンが戦車に向けて放り投げた小型爆弾の名前だ。
安価且つ大量生産が可能。整備性、保存性、安定性に優れた第二次企業抗争時最高の小型爆弾。
用途は主にドローンに搭載し、敵陣や戦車に向けて投擲や体に括り付けての自爆特攻。
また、専用の部品を用いてPAC同士を連結させることで威力の向上。
その機能を用いることにより、敵拠点の爆破すらも可能とした爆弾だ。
第二次企業抗争の際に戦車の有用性が著しく低下した要因でもあるPAC。現代の戦車はドローンにも対抗できる策はあるが、ギルバーンたちが抱えている旧型は無い。当然、第二次企業抗争の時と同じように蹂躙される。
PACが戦車に衝突した瞬間、周囲のスクラップも巻き込んで爆発が起きる。
近くにいた構成員も含め粉々にすると、ドローンは次の戦車に向かって小型爆弾を落としていく。
そうしてドローンに気を取られた隙をついて、ミカが敵との距離を一気に詰めていた。
「なん——」
敵がミカの存在に気がついた時、すでにヴォルトハイブの銃口が向けられている。
直後、発砲音と共に敵が弾け飛ぶ。
(やられたか)
同時に戦車を破壊していたドローンが撃墜される。戦車からの攻撃はなくともギルバーンの構成員からは何百発と弾丸を撃ち込まれた。
数発程度ならば問題ないが、何十発も撃ち込まれれば分からない。
空中で逃げ回っていたとは言え、流石に狙われすぎた。
ドローンは撃墜され、煙を上げながら落下していく。
残りの戦車は二台。
そして、相手が手札を出し切ったであろう今、やっとエルドが動く。
ボファベットが動き始めるのと同時に、スクラップを蹴飛ばして、エルドが操縦する強化外骨格装甲が現れる。
(本番か)
強化外骨格が一瞬にして破壊された上に、敵には戦車とボファベットがいる。この状況に見を見て楽観的になれる者などエルドファミリーにはおらず、意気消沈として士気は当然ながら底をついていた。
しかしドローンがほぼ全ての戦車を破壊し、エルドが到着しボファベットを抑えている。
全員が今ここが踏ん張りだからだと共通の認識を持ち、士気を上げる。
ミカは様変わりする戦況の中にあって、自らの仕事にだけ集中する。
「いたぞ!」
スクラップの山に隠れながら敵陣地を這い回る。
ミカの目的は残った二台の戦車。
ヴォルトハイブであればその装甲を一発で打ち抜き、戦車内部で弾丸を跳弾させることができる。
そうなればまず搭乗者は生き残れない。
そのためには敵陣地を突き進み戦車の懐にまで入らなければならない。
幸い、敵はミカに注意払わなければならないが、士気の上がったエルドファミリーの構成員が横槍を出してくれている。
あとは仕事を果たすだけ。
ボファベットのことはエルド次第だ。
◆
(ま、何かしらあるとは思ってたが、こいつは予想以上だな)
強化外骨格装甲の操縦桿を握るエルドが、ボファベットを見て内心で呟いた。
ボファベットは第二次企業抗争の時に作られた兵器。
当時、戦車の価値が急落するのと同時に、新しく台頭してきた地上戦闘兵器。
万全の兵装であればドローンをも無力化する対空装備と防御シールド。そして戦場を縦横無尽に駆け回る俊敏性を備えた上で、作戦持続時間も長い。整備はちと面倒だが、ある程度は壊れても動ける耐久性。
対してエルドが乗るのは強化外骨格装甲。
軍用ではなく、暴徒鎮圧用に開発されたロボット。
改造を加えたことで武装を持ち、電磁機構によって大幅に出力が上昇しているものの、軍用目的で開発されたボファベットには基本性能からして劣る。
後ろではダンテが指揮と取り、そのさらに後ろではケルンが本部拠点と連絡を取りながら後方の防衛を取りまとめている。ミカが前方で戦車の対処に当たり、現場にいるすべての構成員が全力で戦っている。
部下の働きは完璧。
後はエルド次第。
砲弾も銃弾も飛び交って機体に衝突しているが気にならない。
それはボファベットも同じであり、たとえ戦車からの砲撃を直に受けたとしても装甲がすべてを防ぎ、圧倒的な出力で微動だにしない耐久性を誇る。
爆発が周囲で起こりながらも、エルドが視線を向ける先はボファベットただ一つ。
ボファベットの六脚はカサカサとスクラップの上で震えながら強化外骨格装甲の動きを見計らっている。
エルドもまた、ボファベットの動向を確認していた。
ボファベット機体下部に取り付けられたガトリング砲。上部に格納されたロケット砲。
至近距離で装甲との間、関節にねじ込まれれば致命傷は避けられない。
(しゃらくせぇな)
様子見で時間を浪費するのは面倒だ。
ならば、さっさと始めて仕舞おう。
何ら予備動作の一つも無く、エルドは動き始める。
操縦桿を握り直し、強化外骨格装甲の右腕に搭載されたガトリング砲を唸らせた。
撃ち出された数百発の弾丸は火線となってボファベットに追いかかる。スクラップを散らし、薙ぎ払いながらボファベットを狙う。
単純な武装だけで言えば強化外骨格が幾らか有利。
機体が大きい分、それだけの装備を積める。出力を高めることができる。
(だが……あいつ)
エルドが思っていた以上にボファベットの動きは俊敏だった。急発進と急停止、横にも縦にも慣性なんて無視して動き回る。過去に見たボファベットの戦闘映像よりも遥かに動きが早い。
フォルムを見るに旧型、そうでなくともせいぜいその改良型程度。
しかし現在、主に使われている最新式のボファベットと同等かそれ以上に優れている。
何かしらの細工がしてありそうだが、その正体は掴めそうにない。
壊した後に確かめればいい。
(ちょこまかと面倒な奴だな)
相手の動きが俊敏であるのに加えて、スクラップを障害物として使いながら掻い潜り、距離を詰めてくる。
とてもガトリング砲では追いきれない。
このまま近づかれればさらに対処は困難。
エルドは左腕と一体化した擢弾発射機を起動すると、爆発性の弾丸が撃ち出される。
幾回にも及ぶ改造の結果、協会が骨格装甲の左腕に装着された擢弾発射機とは通常の物とは一線を画する。
まるで突撃銃で弾丸を撃ち出すかのように、爆発性の弾丸が連続して射出される。
一発の弾丸は凄まじく、障害物として使われたスクラップの山ごと吹き飛ばし、その背後にいたボファベットすらも弾き飛ばす。
弾き飛ばし僅かに浮遊したボファベットに向けて、連続して撃ち出される爆発性の弾丸が襲う。
硬い装甲を持ってはいるものの、俊敏性を優先した結果、ボファベットの耐久性はとても高いとは言えない。所詮は旧型。ギルバーンの資金力では集められる部品の質もたかが知れている。
だからこそ、数発をまとめて短時間に食らえば装甲はひしゃげ、六脚あった足の一本が取れた。
機動力がそがれ、体勢を崩したボファベットに続けてガトリング砲の弾丸が命中する。
「――ッチィッ」
だがボファベットも強化外骨格装甲との距離を詰めたことで、武装の射程範囲内に入っていた。
ボファベットの機体前方から高速で鎖が射出される。
先端が錨のような形をした鎖は一直線に飛ぶと装甲を貫通し、引っかかる。
すると鎖が勢いよく格納されると共に、ボファベットが一直線に飛ぶ。
一瞬で強化外骨格装甲との距離を詰めたボファベットは機体に残った五脚でしがみつく。
体に纏わりつかれてしまえばガトリング砲でも擢弾発射機でも対処はできない。
対してボファベットは機体上部に格納されたロケット砲が起動する。
至近距離からエルドの乗る頭部に向けてロケット砲を撃ち出す。
「っいてぇな」
その一発で頭部が破壊されることを予想しながら、エルドは次を考えていた。
左腕と一体化していた擢弾発射機を解放して、右手に握ったガトリング砲から手を離す。
ロケット砲によって頭部装甲がひしゃげ、エルドの片足が押しつぶされた。
装甲が無くなったことでエルドの上半身は見えている。
ボファベットは至近距離から再度、ロケット砲を撃ち込もうとした。
その瞬間、自由になった両手で強化外骨格装甲がボファベットの足を掴む。
完全な出力で言えば強化外骨格の圧勝。
片手でボファベットの機体上部から突き出たロケット砲を叩き潰す。
そしてもう片方の手で体に纏わりつく脚の一つと握り締め、力任せに引きちぎった。
「っっはっはっは! いいねぇ!」
機体上部から突き出ていたロケット砲を発射直前に潰されたせいで、砲弾が内部で爆発した。
それにより、機体が中から弾け、操縦席に座るギルバーンの姿が露となる。
両者は互いを睨み合いながらも死線を潜り抜けていく。
ボファベットは下部のガトリングを起動し、体勢を変えながらエルドを直接狙い。
一方の強化外骨格装甲は両手を使ってボファベットの脚を千切り取っていく。
(こいつ出力が――ッ)
エルドが想定していたよりも強化外骨格装甲の出力が高い。
すでにガトリング砲は熱を帯びて銃身が曲がり使い物にならない。
しかし無理矢理機体を動かして脚の一脚でも動かせればエルドを突き刺せる。
もはや強化外骨格装甲の出力だけではその動きを止められないと悟ったエルドが、操縦桿から手を離し、操縦席に置いておいた小銃を握り締める。
ギルバーンを直接討つ。
すでに装甲は無く、肉眼で確認できる状態。
後はエルドの腕次第。
「――ックソが」
だがエルドが行動に移るよりもボファベットの方が早かった。
鋭く尖った足先が強化外骨格装甲の頭部に向けて振り下ろされる――瞬間、発砲音が響き渡る。
撃ち出された弾丸が突き出されようとした脚を吹き飛ばし、軌道をずらした。
(ったく、助けられたな)
脚を撃ったのは二台の戦車を壊し終えたミカだった。
視界の隅、操縦席内部に表示されたホログラムに移るミカの映像に少し視線を預け、そしてギルバーンを見た。
思いにもよらぬ横やり。
ギルバーンの顔が歪む。
一方でエルドは歯を見せて笑う。
向けられた小銃。
銃口の先にいるギルバーンは確かにエルドの姿を見ていた。
「じゃあな」
「――ッく」
ギルバーンが最後の悪あがきをしようと操縦桿を握り締めた瞬間、脳天に弾丸が撃ちこまれる。
それだけではとどまらず、脳天から腹にかけて、露出している部位すべてを小銃で撃ち抜かれた。
操縦桿からは手が離れ、ギルバーンは座席にもたれ掛かる。
ボファベットは硬直したまま稼働を停止し、スクラップの山へと落ちていく。
同時に、強化外骨格装甲もバッテリーの消耗が激しく、地に膝をついた。
「まだ仕事が残ってるだろ」
操縦席のすぐ側まできたミカがエルドに告げる。
ギルバーンを殺せばもうほぼ勝ったようなものだが、まだ分からない。
殺したのはギルバーンの義体かもしれないし、まだ指揮を執れる人員がいるかもしれない。
ジャンクヤードでの戦いを制した次は、本部へと攻め入る。
「おいおい、ちょっと待ってくれよ」
だがさすがに、エルドにはそこまでの気力が残されていなかった。
機体の損壊も激しい。
別にエルドがいなくともダンテが現場の指揮を執れる、ケルンがすべてを統括できる。
「少し休もうぜ?」
座席にもたれ掛かって飲料水を飲みながら、エルドはミカに笑いかけた。




