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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第3話 拾い物

 昨日、義体パーツを買っていったエルドファミリーの男が次の日もミカの店を訪れていた。


(ついてねぇ)


 今日は昨日と違って早朝の朝市に屋台を出したのが間違いだった。


 昨日、エルドファミリーの構成員に会った時、どことなく嫌な予感がして次の日の夜の出店は取りやめた。


 その代わりに朝に売ろうとパウペルゾーンに来てみれば、厄介な人物に出会ってしまった。


 果たしてミカが朝に時間をずらしたせいで出会ってしまったのか、それとも夜に出店していても出くわしていたのか。

 答えは分からない。確実な正解は『今日は営業しない』というもの。

 ただ、ミカにはそんな選択は取れなかった。


「なんだ。朝もやってんのか」


 並べられた商品を見ながら男がミカに問いかける。

 この男のせいで、というよりエルドファミリーの構成員という情報のせいで店に客が寄り付かない。

 このまま迷惑な噂でも広められたら最悪だ。


 さっさと終わらせたいところなのだが、男が話しかけてくる。


「偶々《たまたま》です」

「てことは夜はいつも営業してるのか?」

「基本、部品が集まったら営業してます」

「ほーん」


 ミカが嘘をついていることを疑っているのか、男は商品に視線を合わせながら顎に手を置いて何やら悩む。


 ミカはその男に視線を向けながら、内心で苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。

 

 咄嗟の言い訳で、『部品が集まり次第営業』と言ってしまったせいで、毎日営業を控えなければいけなくなった。毎日のように営業しているところを男に見られたら最悪だ。


 基本的に嘘をつくのはよくないが、相手が徒党となると話も変わって来る。命を大切にしたいのなら、自分の発言に責任を持つべきだ。


(面倒だな……)


 毎日営業ができないとなると、この露店の権利を守れるかどうか。

 知らぬ間に別の人物が使っているだなんてことはザラだ。


 受け答えを間違ったか?……と思いつつミカが男の反応を伺う。


「俺はライアンっつうモンだ。見ての通りエルドファミリーに席置かしてもらってる。あんたは」

「教える必要あるのか?」

「つれねえな。こう言っちゃあれだが、俺はエルドファミリーだからな?」

「あんた権力を笠に着て威張るのが好きなのか?」

「っは! おもしれえな。分かりやすいとはよく言われるが、一日二日、一言二言交わしただけで分かるか」


 綱渡りの会話。

 ここで男を蔑ろにすることはできるはずもなく、しかし好意的に話してしまえば付け入られる。

 あくまでも客と店主。一定のラインを境に、対等な立場で存在し、両者とも深入りはしない。


 そのラインを保つためにミカはライアンの性格を読み切った上で、ぶっきらぼうな対応をした。

 もし間違えば反感を買う可能性のあった選択だったが、どうやら無事に成功したらしい。


「取り合えずこれとこれくれ」


 ライアンが幾つかの商品を指さす。


(ガンオイルと潤滑剤、防弾コーティング用の接着剤……それとスプリングか)


 ライアンが買う商品から何をしようとしているのかを少し考えた。

 重機か義体の点検に使うのか、あるいは噂で広まっているエルドファミリーが所有しているという《《強化外骨格装甲》》に使う予定の代物なのか。

 ただいずれにしても、別にミカの店で買わなくても、スラムで新品が手に入る代物。


 品質の割に安いとは言え、それなりに潤沢な資金のあるエルドファミリーがミカの店で買う理由ははっきりとしない。 

 個人用の可能性は当然あるが。

 

「2800コロンだ」

「相変わらず良心的だな」


 ライアンは2800コロンぴったりとミカに渡すと、買った商品をバックに詰める。


「じゃあな、また来るぜ」

「もっと良い所で買えるだろ」

「ったく、つれねえな」


 ライアンは笑ってミカを見てから、人混みの中へと消えていく。

 ミカはライアンがいなくなったことで安心のため息を吐いて、緊張を解く。


「ったく。ついてねぇな。今日は」


 雲だらけの濁った空を見上げ、ミカは悪態をついた。


 ◆


 早朝の営業を終えたミカは、売れ残った品物を知人に預けて、ジャンクヤードに来ていた。


 今日はいつもと漁り場を変えてジャンクヤードの深部まで訪れていた。


 基本的にダストシティから来る廃棄車両がごみをジャンクヤードの端の方から捨てていく関係上、中心部は何年も前に捨てられたゴミが蓄積している。

 ほとんどの場合、すでにスクラップ漁りが狩りつくした後で、貴重なスクラップは無い。


 新鮮なスクラップを求めるのならば、やはり廃棄車両を狙うのがいい。


 ただ、今日はジャンクヤードの表層部で漁るのはどこか危険な気がした。

 噂でだが、ここら一帯のスラムを収める二つの徒党。

 エルドファミリーとギルバーンの直接的な抗争が行われるらしい。

 いつどこで、というのは不明だが、パウペルゾーンを始めとした住宅街は、被害が大きく、住民からの反発などもあるため、戦場にはならない。


 だとすると両陣営の拠点に直接仕掛けるか、人がおらずスクラップだけがただ転がっているジャンクヤードが戦場の選択肢となる。さすがに初っ端から敵の拠点を直接攻撃するとは考えにくく、まずは小競り合い程度になるはず。

 たとしたらジャンクヤードが舞台になってもおかしくはない。


 となると外周部でスクラップ漁りをするのは得策とは言えない。流れ弾で死ぬ可能性がある。

 

「まあ……何も無そうだがな」


 危険から逃れるために中心部辺りに来てみたが、どうやら何もない。

 徒党同士の争いも、いいスクラップもどちらも無い。

 本当にただの屑鉄ばかりが転がっていて、修理に使えそうな部品すら見当たらない。ゴミばかり。


「ついてねぇ……」


 朝は会いたくない人物に会って、スクラップ漁りでは逃げて来た上にいいゴミに出会えない。

 ついてない、が口癖になりそうだった。


 ただそれでも、何か掘り出し物がないかミカが腰を落として確認する。


(……あれは)


 その時、頭上を何かが通って地面に影を映した。

 ミカが見てみると、それはゴミを運んでくるドローンだった。


 ジャンクヤードでは見慣れた光景。特に驚きもしないし、少しだけしか興奮しない。

 だが、今日に限って、今回に限って、あのドローンに限っては話が変わって来る。


「……ついてるな」


 運がいい、手のひらを返してドローンを追いかける。

 ミカが今追いかけているドローンは過去にも何回か見覚えのあるものだった。


 基本的に、ドローンによって運ばれて来るゴミは家庭用のごみになる。

 これはゴミの分別方法の違いによるところが大きい。


 ダストシティでは地区ごとに企業が治安維持や景観維持に努めており、地区ごとにゴミの分別方法も異なる。


 工場や施設から出る大量のごみは一か所に集められ車両によってジャンクヤードに運ばれる。この際、家庭用のごみを一緒に集めるか、それとも集めないかは地区による。


 地区によっては企業がドローンを配備し、指定の箇所に家庭用のごみを置けば自動でドローンが持っていって捨ててくれる場所もある。


 その一つにマンティス社が警備する地区があった。


 ミカはダストシティのことをよく知らないが、マンティス社製のドローンが運んでくるゴミというのは最新式且つ品質の良いスクラップが多い。 

 おそらく、ダストシティの中でも上位区画に分類される地域をマンティス社が担当しているためだろう。


 当然、生ごみなどが入っていることの方が多いが、それでも当たればかなり稼げる。


 それに。


「当たりだ」


 ミカが追いかけているドローンにはニコちゃんマークの落書きがされていた。ジャンクヤードで何年も探索する中で、あのニコちゃんマークが落書きされたマンティス社製のドローンは嬉しいスクラップを落としてくれる。

 あのドローンに出会うのは二年か三年ぶり。


「来た来た来たぁ!」


 ドローンがごみを投下する。

 ミカは上機嫌になりながら、迷わず背負っていた布を落下地点に投げ捨てて少しでも衝撃を吸収しようと試みる。

 厚いビニールに包まれたスクラップが投下される。

 布で僅かに衝撃を吸収するものの、大きな音を立てて地面に衝突した。


 かなりの衝撃だが、中のスクラップは耐えてくれているはず。


(どれどれ……)


 ワクワクを隠しきれず、珍しく笑顔を見せながらビニール袋に近づく。

 ナイフを取り出してビニールを破くと中を見る。


「当たりだ」


 ビニールの中には廃棄された小銃や拳銃、散弾銃、そして機銃に至るまで様々な銃器の銃身バレルやストック、グリップ、そして内部機構に至るまで、完全では無いにしろ銃器を一つ組み立てられる程度には揃っていた。


 それもすべての部品が型落ちではあるものの、スラム基準で見れば十分高水準の機能を併せ持つ銃器のもの。

 一体どこから、なぜ投棄されるのかは分からない。

 

 しかし、数か月ジャンクヤードで探し回って一つか二つ手に入れられるようなお宝がこんなにも詰まっている。

 それだけで十分だ。


 それに昔出会った時はウィンドウを使えなかったが今は使える。

 一年ほど前に使えるようになったウィンドウ。これだけの素材があれば最大限に活用できる。


 ちょうど毎日営業が出来なくなったところ、明日は組み立てに一日使ってもいい。


「最高についてるな」


 朝の陰鬱とした気分から一転、ミカは最高の笑みを浮かべた。

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