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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第29話 それぞれの思惑

 現在、ギルバーンはジャンクヤードに全勢力を集中させることができていない。単純に、構成員を集めるのに時間がかかっていることや、武器の支給、作戦の組み立てなど、急いで取り掛かっているものの少しは時間がかかってしまう。

 今は取り合えずゲルグを軽く攻めながら状況を伺い、準備を進めている際中。

 ただ、すでにほとんどの構成員が武器の支給を受けた上に、作戦も出来上がった。

 後は最後の準備をするだけ。

 

 倉庫に格納してある強化外骨格やボファベットなどの兵器の運用テストをするだけだ。


「来たか」


 部下からの報告を受け、自室で作戦を組み立てていたギルバーンが腰をあげる。

 向かう先は強化外骨格やボファベットなどが格納してある倉庫だ。

 ちょうど今、武器や兵器をギルバーンのために調達してくれていた協力者が訪れたところ。

 その協力者が来た目的はギルバーンに武器を渡すため。

 小銃や散弾銃、弾丸や手榴弾などの武器から、ボファベットの強化パーツに至るまで様々を用意し、持ってきてくれている。


 予定では、協力者から得た武器を鑑みて、作戦の最終調整に入る予定だ。

 

「久しぶりだな、よく来てくれた」

「こちらこそ。お久しぶりです」


 倉庫につくとギルバーンは協力者に軽く挨拶をする。協力者もまた、被っていた帽子を取って会釈をした。

 協力者はスーツを着た老紳士。


「それで《《ダン》》、持って来た装備ってのは」


 スクラップを再加工する工場でもあり、ミカの知人でもあるダンは、少し前からギルバーンに武器を支給していた。

 元々は企業から借りている最新鋭の設備。

 それを使い、残った材料でギルバーンに渡すための型落ちの武器を製造していた。

 

 ギルバーンがエルドファミリーよりも潤沢な装備や弾丸を有しているのは、ダンの存在によるところが大きい。作った余りで製造しているとはいえ、最新鋭の設備を使用しているのだ。

 品質と性能は保証できる。

 それでいてその気になれば大量に製造することも可能だ。


 さすがに企業に目を付けられると面倒なので、あくまでも規定量を守るが。


「ボファベットに組み込む専用パーツです。すでに内部機構に組み込んでおいたので、いつでも稼働できる状態です」

「もうそこまでしてくれたのか……」


 我ながら良い協力者を見つけたなと、ギルバーンはダンの行動を感心する。

 二人は志を共にした仲。裏切りはおきない。

 共にダストシティへと成り上がるために協力する関係。


「後で操縦してみる」

「はい。好きなだけどうぞ……それと、もうすぐですか」

「ああ。あんたが来たらすぐにでもおっぱじめようととしてたところだ」

「そうですか……」


 ダンの脳裏にはミカの姿が過った。

 すでにギルバーン経由で『こんな奴がいる』とミカの写真を見せられて、敵対関係にいることが分かっていた。ミカの性格を考えると徒党に属すのは合わないので、何かしらの事があって徒党に入らざるを得なくなったのか、それとも結果的にギルバーンに敵対するよう動いてしまったのか。


 商用組合の一件を考えると、パウペルゾーンで商売をしていたミカとは何か因縁があってもおかしくはない。

 そう考えると、エルドファミリーとは関係のないミカ個人の因縁のせいで、回り回ってギルバーンの敵になってしまった方がしっくりと来る。


(勝てばそれでいいのですけどね)


 ダンとしてはミカのことは気になるが、それ以上に勝利を欲している。 

 もしミカがゲルグにいなければ、今頃ミカをどこかに呼び出して暗殺するよう仕向けていた。

 すべてを投げ売ってでもダストシティを目指すその執念。 

 ミカを犠牲にしても仕方ないと納得できる。


「では、頑張ってください」

「良い知らせを持って帰って来る。それまで待ってもらえるか」

「ええ。当然」


 そう言い合って、二人は硬く握手を交わした。


 ◆


 ミカが治療を受けていた場所はゲルグの上層にある診療所——のようなところだった。

 事前に、ケルンがゲルグの情報調達を進める中で使えそうな場所を記録しており、その診療所もその一つだ。すでにエルドファミリーに管理下にあるその診療所のようなところでミカは二日間の治療を受けた、

 まだ完全に回復したというわけではないが、戦う意思を固めたことやエルドの来訪などもあって、包帯で体中を巻かれながら市街を歩いていた。


「案外、変わってないんだな」


 両脇立ち並ぶ露天商を見てミカが呟く。

 エルドファミリーが来て街並みの様子が変わると思っていた。

 しかしミカが見る限りで変化はない。

 唸るような機械の稼働音と言い争いの喧噪、客引きの声。空は鋼鉄に覆われて陽の光は当たらず、ひたすらにネオンとホログラム、そして蛍光灯が灯る。

 ミカが良く知っている光景がそこにはあった。


 エルドの話では来たファミリーが来た当初こそおとなしくして様子を伺っていたらしいが、エルド達が新たな地底の王となり、それでいて大きな改革に着手するわけでもなかったので、街の様子は元に戻った。

 長年染みついたゲルグの雰囲気というのはそう簡単に拭えるものではないのだろう。


 直接的にクレイトンの支配が及んでいた下層ではまた違う顔を見せているのだが。


「無理して変化を強制して、反発でもされたら面倒だしな。今はここの中に構ってられる余裕はねえ」


 ミカの隣で歩くエルドが付け加える。

 エルドファミリーはギルバーンとの抗争中であり、戦力のほとんどをそちらに割かねばならない。無駄にゲルグ内のことに力を使っていられる余裕はなく、無駄な争いも起こしたくない。

 だからこそ、急激な変化は起こさないつもりだ。


「少しずつでいい。焦る必要はない」


 どうせギルバーンもゲルグもすべて手中に収める。

 今は変化を強制する時ではない。

 それに、外から少しずつ物品を運んできて販路を確保していくなど、エルドファミリーはゆっくりだが着実にゲルグに変化をもたらそうと動いている。それがまだ直接的に住民に作用しているわけではないから、気がついていないだけ。

 

 確実に変化をもたらしている。 

 少しずつ。


「それにしても、まあ謎が解けたぜ」

「謎……?」


 エルドファミリーの言葉をミカが聞き返した。


「お前の実力、ずっと引っかかってんだよな。ゲルグ育ちって聞いて、やっと腑に落ちたぜ」


 商業組合を単独で潰せるほどの力。

 普通ならばミカのような実力者はスラム規模でなくともパウペルゾーンでもっと有名になってしかるべき。


 力を得るためには実践を通じた確固たる経験が必要だ。当然、強くなる過程で誰かと戦い、それが結果として残る。だから、相応の経歴を持っているべき。

 しかしミカにはそれが無かった。

 友人はおらず、過去も無い。しかし少年でありながらも幾千もの死線を潜り抜けた実力と風格がある。

 経歴と実力とに大きな乖離が生じていた。

 その乖離を埋めるように、今回の話が入って来た。


「あぁ……」


 話を聞いてミカは何とも言えないような声を出す。

 知られたことが嬉しいわけではないし、どちらかという勿体ないような気がする。よく分からない微妙な感情だ。

 おそらく、スラムで生きていた中で自分の情報の取り扱いについて細心の注意を払ってきたことや、情報それ自体に価値があることを分かっているので、無料タダで知られたことが不満なのだ。 

 

 ゲルグ育ちという情報をもっと有効活用できたのではないかと、有利な取引材料に使えたのではないかと、勿体ないと感じてしまった気持ちの正体はそれだ。

 

 元々の合理的な性格のせいか、それとも単に秘密主義なのか、面倒な奴なのか。


「そういえば、クレイトンの拠点はどうしたんだ」


 何やら無駄なことに考えを巡らせそうになってしまったので、ミカは話を変えた。


「なんだ、気になるのか」

「そりゃあな」


 ミカはクレイトンの拠点がどうなっているのかは知らない。

 エルドファミリーが占拠していることぐらいは予想できるが、あくまでもそれだけ。

 下層の様子をもあまり分かっていない中で


エルドは鋼鉄に覆われた天井を見て少しだけ考える素振りを見せた。


「別に面白い話じゃねえぞ?」

「それでいい」

「分かった」


 エルドは軽く笑いながら話し始めた。

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