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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第28話 止め止めない

「――ックソがぁッ!」


 自室で一人、遠隔操作型の機械人形を操っていたギルバーンが叫ぶ。

 装着していたヘッドギアを投げ捨て、飛び散った破片を踏みしめ血を流しながらも気にせずに、家具を拳で殴りつける。

 拳からも血が出るが関係ない。

 怒りのままに拳を振るい、家具を破壊する。


 もし五感完全同調形の機械人形あれば数時間は衝撃で意識が飛んでいた。ギルバーンが操作していたものはあくまでも遠隔操作ができる機械人形というだけ。機関銃で全身を撃ち抜かれたからといって意識が飛ぶほどの衝撃は無い。 

 しかし痛みや衝撃は確かに感じた。


 加えてゲルグをエルドファミリーに横取りされたこと。

 普段は怒りなど見せぬギルバーンが眉間に血管を浮き上がらせて、身勝手に暴れ回ることは何ら仕方のないことだった。


「はぁ……はぁ……」


 すべてを破壊しつくして、足や拳から血を流したギルバーンが部屋の中心でただ立っていた。

 その時、音を聞きつけた護衛がノックもせずに部屋を開ける。


「大丈夫で――」


 ギルバーンは口もとに人差し指を当てて、それ以上喋らないよう合図を出す。

 護衛は慌てていて戸惑いも確かにあったが、すぐに口を閉じてその場に立ち止まる。


 ギルバーンは護衛をその場に立たせたまま、自分はゆっくりと息を整えて、拳に刺さったガラスの破片を一つずつ抜いていく。すべてを抜き終わるとハンカチを取り出して傷口に当てた。

 そして準備を済ませてから、ゆっくりと護衛の方を見た。


「今から伝えることはすべての構成員に伝えてください」

「了解いたしました」

「全勢力をつぎ込んで、ゲルグに攻め込みます」

「は、はい!」

「詳しい説明は後程。準備をするよう伝えてください」

「了解いたしました!」


 去っていく部下の背中を眺めながら、ギルバーンは負傷していない方の手で口元を覆った。


「ここで潰さなければ……」


 このままエルドファミリーがゲルグを統治すれば、ギルバーンにとって最大の障害になり得る。

 商業組合を潰された今、エルドファミリーの拠点がある東側にギルバーンの拠点はない。もし真正面から攻めるにしても最短距離はジャンクヤードを突き進むこと。その際にゲルグが最大の防衛拠点として立ちはだかる。

 加えてパウペルゾーン然り、ゲルグの持つ経済的価値を横取りされたのは痛い。

 

 時間が経てば経つほどエルドファミリーは資金面で潤沢になっていく。

 そうなれば、もはやギルバーンに勝利の芽は無い。

 ただただ蹂躙されるだけ。


「賭けだ、どちらかが勝つか」


 ならば、実力が拮抗している今が最大のチャンス。

 相手がゲルグの支配権を取る前に攻める。

 なし崩し的に、仕方なく、突発的に抗争の火蓋は切られた。

 問題はない。

 ギルバーンはこの日の為に準備をしてきた。

 潤沢な装備、武器、兵器。

 すべてが取り揃えてある。

 

 真正面からぶつかり、どちらかが擦り切れて無くなるまでの消耗戦。

 少しでも退けば拠点まで攻め入られる。

 そうなればギルバーンに居場所はない。

 

 ここで殺すしかない。

 ここで勝つしかない。

 それしか、選択肢は残されていない。


 ◆


(生きてたか……)


 目を閉じたままベットの上で意識を戻したミカが、心の中で呟いた。見えなくても、自分がベットの上で大量の管に繋がれて、包帯で体中を巻かれていることぐらい分かる。

 足先、指先、肩、首、と一つずつ動かしていく。

 僅かに走る痛みとにぶい感覚。意識してから体が応答するまでに幾らかラグがある。 

 あれだけの戦闘を終えたあとなのだから、この程度の負傷は仕方ない。


 ある程度体の状態を確認した後、ミカは目を閉じたまま少しばかり休んだ。

 そして一、二分ほどが経つとゆっくりと目を開けて身の回りがどうなっているのかを確認する。

 灰色の天井。視界の隅にぶら下がる点滴の袋と横切る何かの管。

 ピーピーピ―、と一定の機械音がリズムを鳴らしている。


 もう少し、このまま柔らかいベットにねって転がっていたいところだ。しかしそういうわけにもいかないので、ミカは少しだけ状態を起こして横を見た。そこには丸椅子に座るケルンの姿があった。

 ケルンは本を読んでおり、ミカが起き上がると読書をやめる。

 ゆっくりと本を閉じて脇のテーブルに置くと、ミカの方を見た。


「おはようございます、いい夢見れましたか」

「……それなりにな」

 

 掠れた声で返答を返した。


「体の状態はどうですか」

「全身に鈍痛、それと意識と運動の間に遅延。軽度の倦怠感。右肩に強い痛み、右足の感覚が希薄」


 端的に、ミカは自らの状態を説明した。


「右足はあと一日もすれば、感覚も戻って動けるようになります。肩は明日にでも動くようになります。倦怠感は麻酔の影響ですから、時間が経てば自然に抜けます」


 ケルンもまた要所だけを抑えて端的に説明する。

 ミカは管に繋がられた腕や足、包帯で巻かれた全身など、自らの状態を見てから、少し間を置いてケルンの方を見た。


「助かった……ありがとう」

「契約を履行したまでです」


 当然、と言わんばかりに答えるケルンを見て、ミカが軽く苦笑する。


「何日ぐらい寝てた」

「二日ですね」


 負傷の具合を考えると、そのまま永眠してしまっても不思議では無かった。二日で意識を取り戻すというのは幸運なことだ。


「今どうなってる」


 ミカが倒れた後。

 ゲルグはどうなったのか。

 契約は果たされたのか。


「無事、エルドファミリーが支配権を握っています。しかし……」

「しかし……なんだ?」


 ケルンは僅かに言い淀む。

 話すべきか、話さないでおくべきか、逡巡しているようだ。

 しかしすぐにケルンは答える。


「ギルバーンが全勢力を集中させて攻めて来ています」

「はは……だろうな」


 特に驚きはなかった。

 もし本格的にエルドファミリーがゲルグを治めれば、ギルバーンに勝ち筋はなくなる。時間は彼らにとって敵だ。

 攻めるには、まだ不安定な今しかない。


「今どんな状態なんだ」

「最前線では小競り合いが始まってます」

「流石に早いな」


 ゲルグから少し離れた場所で待機させていた構成員が敵の斥候とぶつかっている形。


「本格的な抗争はどのくらいだ」 

「後数時間程度でしょうか……どちらともの最新式の兵器が戦場に着くのにまだ時間がかかりそうです」


 強化外骨格装甲のことだろう。

 それと本部の拠点の方の防衛も少しはしなくてはならない。その辺の人員配置にも一苦労だ。

 エルドファミリーは事前にミカから話しを聞かされていたとはいえ、完璧に準備が整うまではまだ時間がかかる。


「ミカさんはどうなされますか。ここに止まるか、後方の拠点まで行くか、それとも日常に戻るのか」


 戦いに巻き込まれたくないなら家に戻って療養が一番いい。エルドファミリーの勝利を信じるというのならばここに留まる。

 ミカは笑った。


「いや、戦うよ。どうせ俺はギルバーンの敵だしな」


 ここでエルドファミリーが負ければ、その後のミカの立場は悪くなる。だったら、ここで加勢してエルドファミリーを勝たせてやるのが後々都合がいい。


(恩も売れるしな)

 

 合理的な選択だ。

 しかしあくまでも自分の状態を考慮していない発言。


「その負傷だと十分には戦えませんよ」

「だかその辺の構成員よりかは、いくらかできるはずだ」

「まあ……止めはしませんけど」


 ケルンの目的はミカを動ける程度にまで治療すること。それからのことについては感知しない。

 戦おうと、死のうと、生きようと、契約に含まれていないのならば何もしない。


「一応、鎮痛剤と強化薬です」


 ただ、エルドファミリーにとってミカが有益な働きをしてくれたのは事実。幾らかの支援をしてやるのもやぶさかではない。


「助かる」


 ミカが袋に詰められた二つの薬を受け取った時、ノックも無しに扉が勢いよく開かれた。


「っくは! ひでぇ傷だなぁ!」


 入って来たのは上機嫌なエルドだった。

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