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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第26話 クレイトン

 生物兵器が破壊した壁の向こうに一つの扉があった。

 最初、この部屋に入ってきた時に以前よりも狭い気がしていたが、どうやら新しく壁を作って隔てて、扉を隠していたらしい。

 部屋の左端にある扉。

 これは以前からあったもので、ミカも知っている。


 この先は、ミカが覚えている限りでアンナの治療をしていた医療室になっているはず。ただ、実態は医療室などではなく、クレイトンにとってはただの研究場所の一つだ。

 無料で手に入った子供を解剖して、機械を混ぜて、生命維持をさせる。脳の一部分を電脳化したら、内臓全てを機械化したら。

 

 様々な実験を行っていた。

 その末、アンナは機械と肉が混ざった『何か』に成り下がった。この扉の先で、ミカはアンナを処理ミンチした。

 今でもあの時の感触と映像を鮮明に思い出せる。


 扉に手をかけたまま、ミカは止まった。 

 息を吐いて、首を回して、ため息をいて、それから指先に力を入れて、やがて腕全体を軋ませる。


 そして一気に扉を開いた。


「……」


 扉の先に広がっていたのは、ミカが想像していたものとは違う景色。

 医療室でも、実験施設でもない。

 ただ、奥へと繋がる一直線の道だった。


 一本道の終わりを見ると、扉が見える。

 ミカが知らない構造なので、いなくなった後にクレイトンが改修したのだろう。


「やあやあ、ようこそ」

 

 クレイトンの快活な声がどこからか響く。


「今ならまだ引き返せる。振り返って後ろの扉を開き、階段を登って地上に戻る。そうすれば、今までのこと、全てを許そうじゃないか」

 

 ミカは無視して奥の扉に向かって足を進ませる。


「まったく、君は何も知らない。ここで僕がいなくなれば、それこそゲルグは無くなる。最近、ギルバーンとかいう徒党が彷徨いてるんだ。外で暮らしてきた君なら分かるだろう?」


 ミカは進む。


「もしここで無駄な争いをすれば、最後はギルバーンが掻っ攫って行く。それが理解できないのか? そこまで馬鹿になってしまったのか?」

 

 扉な手をかけた。


「待て待て待て! そんな馬鹿なことをするな!」


 扉は空いておらず、ミカはヴォルトハイブで破壊する。


「今考え直せばだい………っと」


 弾丸の衝撃で弾き飛ばされた扉の向こうでは、マイク片手にクレイトンが優雅に椅子に座っていた。 

 吹き飛ばされた扉を見てから、そしてミカを見る。


 目が合うとマイクに語りかけるのをやめて、「はは」と軽く苦笑しながらミカを見た。

 その表情は昔と変わらず、一切のシミが無い。

 老化していないようだった。

 

「久しぶりだ。こうして顔を直接見合わせるのはに——」


 言葉を遮ってヴォルトハイブの引き金を絞る。

 しかし、撃ち出された弾丸はクレイトンとミカを隔てるように設置された、透明の分厚い板に塞がれる。


「野蛮だなぁ、まったく。対話を試みないとは。言語を扱う知的生命体として、その能力を用いずに武力行使などと……損をしていると思うがね」


 ミカはクレイトンの話を一切無視して、マグボルトの引き金を引く。

 ヴォルトハイブよりもマグボルトの方が弾丸一発の威力はある。ヴォルトハイブで僅かに傷がついたのだから、マグボルトであれば透明な壁を破壊することができる。

 

 事実、マグボルトの弾丸は分厚い壁にひびを入れた。


「そうだね、そうだろうね。まあ分かっていたよ。潔く、君の前に立つしかなさそうだ」


 クレイトンは諦めるのと同時に立ち上がる。

 彼の研究分野はサイバネティクスの観点から、バイオテクノジーの進化を探ること。

 様々な生物に研究を行ってきた。

 昆虫や小動物、人間に至るまで様々なサンプルを集め、唯一、成功した個体。


 クレイトンが手元のボタンを押した時、ミカのちょうど上の天井が開いた。

 瞬時に後ろへと飛びのいたミカが見たのは、天井から落ちて来る一人の人間だ。


 いや、人間というには些か生身の部分が少ない。


 見える限りで、皮膚は装甲と一体化している。その姿はまるで全身に強化服パワードスーツを装着しているかのような様相をしていた。皮膚だけでなく、神経や骨格、筋肉に至るまで機械化されている。

 だが、すべてが機械というわけでもない。

 一部人間の部分を残している。


 さっさと義体でも使った方が能力的にみて強化できそうなものだが、そうしないのはクレイトンの矜持によるもの。彼の信仰する科学は義体や電脳化などの完全な機械化とは折り合いが悪い。


(融合体の完成形か……)


 ミカが知る限りで、クレイトンは機械と生物の融合体を完成させていなかった。唯一、アンナが意識を残しながらも機械としての性質を持ち合わせた稀有な成功例だったが、ミカが終了した。

 

 そこから数年も経てば、さすがに成功する個体も出てくる。

 昔とは比較にならないほどにサンプルも研究設備も揃えられるのだから、当然ともいえる。

 果たして、融合体はこの一体だけなのか、それともまだいるのか。

 ミカを殺すのに出し惜しみをする必要が感じない。


 つまり、融合体の完成形は目の前の一体のみ。


「――ッチ」


 壁を割るために連続して撃ち込んだせいで、マグボルトの弾倉にほぼ弾は残っていない。

 かと言って融合体の前でヴォルトハイブに持ち替える猶予はない。

 未知数の相手に対して大胆な行動を取ろうとは思えない。


 AIの意識と元の意識とが融合した肉体的にも精神的にもクレイトンが追い求めた理想に限りなく近い個体。

 躊躇と油断が死へと直結する。

 

 しかし相手の出方を見計らってから動くと後手に回る。

 敵が天井から落ちてきてまだ状況を完全に把握しきっていない今しか動ける機会はない。

 

 一秒も無い時間の中でミカは幾つもの選択肢を考えては潰し、その中で最も確立の高い作戦を選び取る。


(――こいつ)

 

 ヴォルトハイブに手を伸ばした瞬間、敵がミカの目前へと移動していた。

 強化手術こそしていものの、人間の極限に近い反応速度を持つミカがその動きを知覚するこができなかった。

 

 懐に潜り込んだ敵に対し、ミカは十分に対処する時間を持たない。

 幸いにも相手は銃やナイフを持っていない。

 しかし、その握り締めた拳を腹に食らえば穴が空き、臓物は吹き飛び、戦闘続行が不可能な状態へと陥る。

 拳を食らえば間違いなく死ぬ。

 しかし、避ける手段はない。


(だよな)


 クレイトンを簡単に殺せるとは思っていない。

 一つや二つ、もしかしたらそれよりも多く、障害が待ち構えていることぐらい理解できた。

 故に動じない。

 怖気づかず、退かず、大胆にも一歩前に出る。


 上体を沿って捻りながら致命傷だけは避ける。それでも拳は横腹を抉り、いくらかの肉をこそぎ取っていく。横腹の負傷と引き換えに、ミカは一歩踏み込んだ勢いのままマグボルトの引き金を至近距離から引く。

 部屋に青い閃光が灯った後、発火炎と発砲音が出る。

 撃ち出された弾丸は敵の頭部装甲の一部を破壊し、貫通。 

 頭上から斜めに放たれた弾丸は耳と眼球を抉り取りながら首に穴を空け、地面へと埋まる。

 

 普通ならば死んでいる。 

 しかし敵は死なない。

 

(ありえッ――)


 相手が拳を前へと突き出した不格好な体勢から蹴りを放つ。

 片腕と片足を前に出した、なんともみっともない体勢だ。

 

 人体ならばそのような体勢から放たれた蹴りは大した威力を持たない。それどころか体勢を崩して反って隙を作る。

 しかしそれはあくまでも《《人体》》の場合。

 敵は人の形をしているが、人口の関節に人口の骨、そして人口の神経。あり得ない体勢から放たれた蹴りであっても機械の出力さえあれば十分な威力を発揮する。


 突き出された足の裏がミカの腹部に深々と突き刺さる。

 内臓が破裂する感覚。

 体を浮遊感が遅い、蹴りの威力によって吹っ飛ばされる。

 一瞬、ミカの意識が途絶えた。

 白く染まった視界の中、透明な壁の後ろにいるクレイトンの姿を認識する。


(クソが)


 体が後ろへと吹き飛ばされながらも意識を回復させたミカは、追撃をしかけようとする敵に向かってマグボルトの引き金を絞る。

 狙いなんてまともにつけることができなかった。

 ただ幸いにも、撃ち出された弾丸は敵の足を貫通し、踏み出そうとしていた勢いを殺す。


 同時にマグボルトの弾丸が切れた。

 そしてミカは背後の壁に強く体をぶつける。


 衝撃によって血を吐き出し、復活した意識が途切れかける。


「まだだッ――!」


 一瞬で意識を回復させると、壁にぶつかった衝撃と共に地面に落ちたヴォルトハイブを拾い上げた。

 しかしヴォルトハイブの引き金に指をかけた時、すでに敵は目前にまで移動している。


「しゃらくせぇ!」


 近づいた相手に対して蹴りを繰り出す。

 本来ならば優に100キロを超える相手をミカは蹴とばすことができない。しかし今この場合において、可能だった。

 相手の片足がマグボルトによって破壊され踏ん張りがきかなくなっていたこと、死地を経験したことで身体のリミッターが外れていたこと、主に前者の要因が強く働いたことで、敵を遥か先に蹴り飛ばすことはできなくとも、倒すぐらいのことはできた。


(骨まで逝ったか)


 代わりに敵の上腕から肘にかけて格納されていた刃がミカの足を切った。

 幸いにも切り落とされることはなかったが、ふくらはぎは完全に断裂し、骨が見えている。


「――っぐぼ」


 痛みと衝撃で血を吐く出す。

 代償はそれだけではなかった。

 ミカの右肩が抉れていた。


(やられた……)


 倒れた敵の肩部分を見ると、格納されていた小型の擢弾発射機が見えた。

 ミカが蹴ると同時に上腕に格納されていた刃が足を切り裂き、肩に格納されていた銃が肩を抉った。

 まるで出来の悪い映画かのように、肩から血が噴き出す。


 ヴォルトハイブを持っていた右手に途端に力が入らなくなる。

 

 一瞬で意識を失い、倒れてもいい状況。

 しかしミカは歯を食いしばりながら切れたはずの右足を一歩前に踏み出して、力の入らない右手でヴォルトハイブの引き金に指を乗せて、敵に近づいた。


 すぐに起き上がろうとする敵に向かって近距離からヴォルトハイブを撃ち込む。

 青い閃光と共に放たれた散弾が敵の頭部装甲を完全に破壊し、頭部を僅かに抉る。

 

 ミカはヴォルトハイブの反動で大きく体を後ろに逸らした。

 それでも後ろへと倒れるのは限界ぎりぎりで耐えると、もう一度ヴォルトハイブの銃口を敵に向ける。


「……」


 その時、ミカの視界に入って来たのはアンナの顔だった。

 マグボルトの弾丸で耳と目を失い、ヴォルトハイブを近距離から撃たれた衝撃で全体的に顔がひしゃげているが、それは確かにアンナのものだった。


 顔を見てしまったミカに対してクレイトンは声をあげる。


「そう――! それはアンナさんを元にしたクローン体! やはり、やは――」


 ミカは一切の躊躇なく頭部を撃ち抜いた。

 一瞬でも迷えば敵がもう一方の肩から銃を出していたかもしれないし、別のことをしていたかもしれない。

 迷う暇はなかった。


「しょうもねぇ」


 何よりも、アンナは死んだ。

 生きているなどという希望は無く、偶像に縋りつくことも無い。

 現実は冷静だ。

 奇跡は起きない。幻想は無い。希望も願望も持つべきではない。

 

 ただ冷静に、事を成せば現実は自ずとついていくる。

 今更(まど)わされることはありえない。


「ま――待て待て! お前! 仲間なんだぞ! それをああも一瞬で! 鬼なのか!?」


 最高傑作が見るも無残な形で散ったことでクレイトンは慌てる。

 一方でミカはアンナに似た何かの死体に向けて、胴体と足、腕と弾丸を撃ち込んで完全に破壊する。

 

 相手は機械。

 頭を潰したからそれで終わり、というわけでもない。

 完全に稼働を停止してこそ安心ができる。


「お前はおれg――」

 

 ヴォルトハイブで透明な壁を撃ち抜く。

 すでにマグボルトを数発撃ちこんだことで壊れかけていた壁は、その一発で堤防が崩れるように亀裂が入って壊れ去る。

 

「クソがぁ! おま――」


 横腹が抉れ、内臓らしきものを見せているのに。

 ふくらはぎが断裂し、歩行が困難な状態であるのに。

 肩が抉れ、もはや意識を保つことが困難なほどに負傷しているのに。


 ミカはゆっくりと歩いてクレイトンに近づく。

 その歩みを着実に一歩ずつ進め、ヴォルトハイブでクレイトンの両手両足を破壊する。

 逃げられでもしたら面倒だし、何かされるのも面倒。

 対話だけならば頭部と胴体だけが残っていれば別にできる。手足などいらない。


「よぉ……久しぶりだな。会いに来たぜ」


 弾が無くなったヴォルトハイブを捨てて、片手に拳銃を持って近づく。


「会いに来ただとッッ! 私は――」


 頭と心臓だけを避けて、拳銃で胴体に穴を空けていく。

 すでに内臓は零れ、多量の血で水たまりを作っていた。


 拳銃の弾をすべて撃ちきると今度はナイフを持って近づいた。


「まあ……今となっちゃ感謝してるんだぜ。ゲルグ(ここ)の外に追い出してくれてよ」


 喋りながら座り込んで、壁に頭だけを寄りかけたクレイトンの喉元にそっとナイフを添える。


「こんなものではないッ! 私の研究はお前のようなガキに壊されていいものではない! 断じて! 断じて――だ!」

「胴体だけになっても人間……大声は出せるんだな」


 少しは機械化されているだろう。

 だからまだ生きている。

 随分と元気なものだ。


「クレイトン……人生楽しかったか」

「おま――」


 クレイトンの喉をナイフで切り裂く。

 空気を送ることができず、クレイトンから声は発せられない。


「おれは……まあまあだ」


 薄れゆく意識の中、クレイトンが最後に見たのは飽き飽きとして、疲れ果てたミカの表情だった。


「ま、これから少し楽しくなってくれるか……?」

「……か、は……ひゅ……は」


 その言葉を最後に、クレイトンの脳天にナイフが突き立てられた。

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