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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第2話 ジャンクヤード

 背よりも高く積み上がるスクラップの山が永遠と続いている。

 日の光を反射し、海洋のような煌めきを見せているのは、ダストシティ周辺で最大のごみ集積場——ジャンクヤードである。


 日々、ダストシティから企業や政府の廃棄ゴミが自動運転の車両によって運ばれ、また、家庭ゴミをドローンが運んで落としていく。

 スラムの人々がどれだけスクラップを拾い集めようが、永遠にゴミは投下されていくから消えることはない。


「……あんまよくないな」


 ガスマスクを取り付けたミカが、ジャンクヤードを歩いていた。

 その手には拾い集めたスクラップがまとめられた袋が握られている。

 いつもならば隙間もないほどにずっしりと重く、スクラップが詰まっているが、今日は軽い。


 朝から昼までいつものように探索していたが、良いスクラップが見つけられない。こればかりは運が悪いとしか言いようがない。

 

 基本的にジャンクヤードでスクラップを探す際の方法は三つある。


 まず一つはダストシティから来るスクラップを大量に積んだ車両が投棄するゴミを拾う方法。

 投下されたばかりのゴミはまだ同業者が手をつけていないので、いいスクラップが見つかる可能性がある。


 ただその分、車両のスクラップの投棄に合わせて人が集まり争いになる。過去、何百人と争いの中で死んでいる。


 二つ目はドローンで運ばれてくる家庭用ゴミを集める方法。

 ダスクシティから来る車両とは違い、昼夜問わず定刻は無く、運ばれ続けるドローンのゴミはジャンクヤードの表層に薄く積み重なる。

 家庭用ゴミはスクラップこそ少ないが、投棄ゴミに関しての検閲が無いため、稀に掘り出し物がある。

  

 そして最後に、すでに調べられたジャンクヤードから掘り出し物を見つける方法。

 これは見込みが薄い上に見返りも薄い。

 ゴミの投棄に関する検閲がなかった時代に廃棄されたスクラップを拾い集め、一発逆転を狙う無謀者以外にこの選択を取る者はいない。


 ミカが主に行うのは二つ目の方法だ。

 稀に掘り出し物が見つかるし、最新式の器材ゴミが多い。

 ウィンドウのおかげで修理しやすいミカにとって、この方法が一番稼ぎがいい。


 ただ、いつもならばジャンクヤードを練り歩くだけで、それなりのスクラップが集まるところ、今日はあまり見つからなかった。

 

「仕方ねえか」


 こんな日もある、とガクンと肩を落としてから、また前を見る。

 上手くいく日も上手くいかない日もある。

 当然のことだ。

 一喜一憂するのも馬鹿らしい。


 ミカが切り替えて歩き出した。

 その時、ゴミ山の前の方から人が歩いて来るのが見えた。

 服装や抱えているスクラップの詰まった袋を見るに同業者の可能性が高い。


 基本的にスクラップ拾いをする者は同業者に話しかけることはない。

 慣れ合う必要はなく、基本的には敵にしかなり得ない。

 話して信頼関係を築くというのも策ではあるが、果たしてジャンクヤードで出会った他人に積極的に話しかけて関係を築くことが善かと言われると、答えは違う。


 話しかけないリスクよりも、話しかけた時のリスクの方が遥かに高い。

 

 すれ違う時でも会釈すら交わさない。それがスクラップ拾いのしきたり。


「おいおい。無視しなくてもいいんじゃねえか」


 だが今回は珍しく話しかけて来た。

 スクラップ拾いとして関係を築きたいのか、それともその逆か。


 ミカの容姿や少年という特性は食い物にするのに適している。


「ま、俺の言いたいことは分かるだろ?」


 男が懐からマチェーテのような刃物を取り出す。

 同業者を食い物にする屑ではあるが、最低限の常識は弁えているらしい。


 スクラップから漏れ出したガスが充満している可能性があるジャンクヤードでは、拳銃などの銃火器の使用は制限される。

 

「あ? やんのか?」


 ミカは無言で懐からナイフを取り出した。

 それを見て男はマチェーテを構える。

 ただ、ミカはナイフを構えず、親指と人差し指だけでナイフを持って、ぷらぷらと揺らしていた。


「舐めてんのか?」


 男の問いかけには答えず、ミカはナイフを左から右へ、右から左へ、ゆっくりと揺らす。


「てめ——」


 男が口を開いた瞬間、ミカがナイフから手を離した。 

 陽の光を反射しながら落ちていくナイフ。

 その姿に男が視線を奪われた瞬間、ミカは背負っていたスクラップの入った袋を男に向かって投げ捨てた。


 男の視界の半分程は飛んできた袋に埋め尽くされ、ミカの足しか映らない。

 焦燥と飛んでくる袋のせいで体勢を後ろへと傾けたら男に対して、ミカは一瞬で距離を詰める。


「このや——」


 男が袋を避けてミカの全体を視界に収めた。 

 同時にミカは男の手首を軽く殴った。

 手首が折れ曲がり、自然と手からマチェーテが離れる。


「このや――」


 男の反撃を許さず、ミカは男の手を離れたマチェーテを蹴り上げた。


「——ばべ」


 飛んでいったマチェーテは男の顎を貫いて、口内に突き刺さっている。


「がうぎだ――」


 両手を突き上げ生命の保障をミカに乞い願う。

 だがミカは文字通り、マチェーテを下から蹴り上げ、その提案を一蹴した。


 マチェーテは深々と男の脳内に突き刺さる。


 力の抜けた男の死体はスクラップの上に倒れ込むと、積み重なるゴミに血液を流し込んでいく。

 衣類からスクラップ、死体まで、このジャンクヤードに投下される。男もその一部になっただけだ。


 復讐の可能性を考えるならば、やはり拳銃を、ナイフを、武器を、向けられた時点で相手を殺しておく必要がある。

 敵意を向けた時点でどちらかが死ぬまで終わらない際限のない戦いが始まる。

 このスラムの流儀に則って、ミカは殺しただけ。

 もし、ミカが相手の立場でも同じ結末を受け入れる覚悟がある。


「戻るか……」

 

 今日はあまり調子が良くない。こういう時は早めに帰って、夕方から夜にかけてのスクラップ販売の準備をした方がいい。

 ミカはスクラップの詰まった袋を背負うと、帰路へと着いた。


 ◆


 夕方から夜にかけての時間は最もパウペルゾーンが繁盛する時間である。

 荒野の夜は冷えるため、スラムでは固形燃料やゴミを入れたドラム缶を燃やして暖を取る。

 

 人々はドラム缶の近くに座って手を翳し、寝たり、家があるものは暖まってから帰ったり。

 パウペルゾーンでは灯籠やドラム缶の火、焼き物屋台、そして人々の活気で暑い。

 

 ダストシティのスラムのようなネオンの明かりでは無く、火の、より原始的な色が目立つ。


 バラック小屋が立ち並ぶその一つの屋台の中にミカが入る。ここがいつもミカがジャンク品を売り払っている場所だ。

 背負った袋を屋台の後ろで広げ、高価なものを手前に、安物で売れそうなものを遠くに置いていく。パウペルゾーンの住民ほぼすべてが強盗だと断じてしまっても構わないほどに、盗人がそこら中にいる。

 

 だから、高価なものは手が届く場所に置くのがいい。


「いつも通りか」


 ジャンク品を並べたからと言ってすぐに客が来るわけではない。

 売り場を撤収する時にはほとんどの商品が売れているが、開店と同時にすべて売れるだなんてことは起きない。


 客が来るまでの暇な時間はウィンドウを表示して、修理できていない部品の修理に費やす。

 これがいつもの日課だ。

 一つのスクラップにウィンドウを表示させると、ミカは修理へと移る。

 

 その時、運がいいのか悪いのか、客が来た。


「兄ちゃん、それ貰えるか」


 ミカが頭を上げると1人の男が立っていた。

 荒く髪を逆立てた、いかにもな男。

 顔や腕に刻まれた刺青を見るに、ここら一帯のスラムを支配しているエルドファミリーの構成員だ。


 ミカが商品の一つを手に取る。


「これですか」


 男が指差していたのは義体用の関節だ。

 

(身体拡張者か)


 指や腕の関節を見るに身体を義体にしている。

 抗争の後遺症で仕方なく義体を使用しているのか、これとも強さを求めて義体化したのか。

 少なくとも、義体化手術を行えるだけの金、あるいは立場を持っていることはわかる。


「1300コロンです」

「無難且つ良心的な価格設定だな」


 男は代金を支払うと義体パーツを手に取る。


「部下に紹介してもらったが、かなり質がいい。部品は純正品じゃないが修理は確かか。あんたが直したのか」

「そう見えるか」

「っふは! いいねぇ」


 男は1人勝手に納得すると大笑いをしながら人混みの中消えていく。

 ひと悶着あるかとも思ったが、《《今回》》はどうにか穏便に終わらせられたらしい。


「ったく」


 徒党はスラムにおいて絶対的な権力を持つ。

 商売相手としては金払いがいいが、適切な距離を保たなければ火傷する。

 濡れ衣を着せされることは当然のこと、売った商品に一つでも不具合があれば容赦なく『責任』を取ることを求める。

 金払いがいい代償だ。

  

 いっその事、懐に潜り込んでしまえば匿ってもらえる上に構成員の一員として幅を利かせられる。

 ただ、抗争相手の徒党に負ければ、もれなく惨たらしい殺され方をする。


 だから、適切な距離を保って商売をする。

 できれば関わりたくないが、あちらから関わってくるのならば拒めない。


「どうしたもんかな……」


 違う商売の仕方も考えた方がいいのかもしれないと、薄らと考えながら頭を掻いた。

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