第18話 やり残したこと
強化外骨格装甲の修理をしたその日の夜、夢を見た。
ミカを含めた子供三人が廃材と共に暮らす夢だ。空の見えない密閉された空間の中。
空は鋼鉄に覆われたドーム状で、陽光の代わりに垂れ下がった蛍光灯が灯る。
機械油と鉄の匂い、それと錆びと血の香り。道行く者たちは薄汚れたローブを羽織り、ある者は義体を覗かせ、ある者は義手を装着している。
けたたましい喧噪と低い唸り声のような機械の稼働音。そして銃声。
細い道の両脇には露天商が並び、義手や義体、そして臓物が並ぶ。
鼻をこそげ落としたくなる激臭と目を覆いたくなるような現実。そして耳を塞ぎたくなるような不快な音。
それがミカの育った閉鎖的な空間だった。
幼少期を共に過ごした二人の子供はいつの間にかいなくなっていた。
一人は内臓や脳を抜き取られた形でゴミ箱に投棄されていた。
もう一人は拉致られた後に体を好き勝手にされて、機械と肉が混ざり合った生物に成り下がった。
すでに意識は無く、理路整然とした会話は行えない。うめき声を呟いて手を伸ばすだけ。
ミカはその少女を処理した。
友として、彼女の最期を手伝った。
ミカが行った最初の殺人。そして功罪。
気味悪い事の顛末。
それは……
「……ったく」
ソファで目を覚ます。
時刻はまだ深夜。
居眠りしてしまったせいで部屋の明かりはついたまま。無理な体勢で寝ていたことやライトの明かりで目を覚ましてしまった。
部屋の温度は快適だというのに、額からは汗が流れている。
起き上がると、ミカはおもむろにテーブルの上に置いてあった拳銃を握り締める。
安全装置がかかったままの拳銃を両手で握り締め、指先を引き金にかけて顎下に沿えた。
弾丸は入っていない。引き金は押せない。
それでもミカは引き金にかけた指に力を入れながら、目を閉じて銃口を自らの頭部に向けていた。
ゆっくりと息を吐いて脳裏にこびり付いた夢を洗い流す。
いい記憶とは言えない。
「……」
幾回かの深呼吸を繰り返すとミカが立ち上がる。
いつものジャケットを羽織ると、過剰ともいえる弾丸をジャケットや服の収納場所、バックパックに詰め込んだ。
そして部屋の壁に立てかけて置いてあったヴォルトハイブをバックパックに差し込む。いつも通りホルスターを左右に取り付け、拳銃とマグボルトをそれぞれ差し込む。
充電中のドローンをケーブルから外して抱えて持った。
そして玄関に向けて足を進ませる。
夜のスラムは危険だ。
いつもならば出歩かない。
しかし今日は訳が違う。
これから往くのはスラムよりも危険な場所。
誰も立ち入らない、ゴミ溜めの中にできた糞みたいなところ。
今まではあそこなんて忘れて、スラムで生きてきた。
しかし夢に出て認識してしまえば終わり。
そういう約束だ。自分の中での決まり事。
武器もドローンも手に入り、商業組合を潰して自信もある。
だから今、あの場所はミカの前に姿を現した。
けじめをつけろと言わんばかりに。
玄関の扉に手をかける。
不安はない。緊張もしていない。至って冷静。
そして、一つだけ言えることがある。
あの夢は、悪夢ではない。




