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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第17話 与えられた猶予

「訳ありだな……」


 強化外骨格装甲の基幹システムの中に頭を入れて、電磁機構の様子を確認していたミカが呟く。

 電磁機構に限らず強化外骨格装甲に使われている部品のほとんどが中古品であったり、逆に新しすぎていたり、特に電磁機構に至ってはすべての部品が新品だ。まるでさっきパッケージから取り出したかのよう。

  

 普通に考えて電磁機構に関して記録が保存されたICチップを奪っても、部品が無ければ組み立てることはできない。かといって、通常の手段で部品を入手しようとしてもまだ開発段階にあるのだから市場では手に入らない。

 しかし今ここに部品がある。

 それも新品の。


 つまり……エルドファミリーが何をしたのかは明確だった。

 詳しいことは分からない。

 しかし過程はある程度予測できるもの。


(そこまでして……か)


 ライアンの目指す場所はギルバーンを潰した先には無い。そのさらに先。ダストシティへと向けられている。将来的にここで犯したこの過ちが足かせにならないとも限らない。 

 

(別にいいか……)

 

 事情を詳しく知らないミカが絡んでも不確定な情報から想像することしかできない。

 時間の無駄だ。

 取り合えず電磁機構の組み立てに集中することにしよう。


「とは言っても……」


 修理のほとんどはすでに完了していた。一から組み立てるわけではないのだ。足りない部分を補って、間違っている部分を少しだけ直す。最初から間違えていれば修理も難しかったのだろうが、ほぼ最後の部分だけを組み立てるだけ。

 どのようなミスがあった起動しなかったのかも、ウィンドウを見れば分かる。


(怪しまれるか……?)


 早く終わり過ぎてもライアンに怪しまれるかもしれない。すでに修理は終わっているが、ここで暇つぶしでもして時間を潰すことにした。とは言ってもやることはあまりないので、ミカは読み取りデバイスを手に取った。

 本来ならば使用するところ、ウィンドウがあったから使う機会が無かった。

 しかし一度ぐらいは起動した形跡を残しておかないと後々怪しまれる。

 

 単純に何が記録されているのか気になっているし、ミカは起動ボタンを押し込んだ。

 その瞬間、ウィンドウが浮かび上がる。

 

(『情報を読み取り』……か)


 最初は読み取りデバイスが映し出したホログラムかとも思ったが、すぐに違うと気がつく。これはミカがさっき使ったばかりのウィンドウだ。

 ウィンドウには『情報を読み取りますか』の文字が記載されていた。


 当然、何が起こるか分からないのでミカは触れずに、デバイスだけを起動させる。するとウィンドウは閉じて消えて、デバイスの画面のみが映し出された。どうやら情報を読み取るのには時間がかかるらしく、記録された情報が開かれるまでの残り時間がパーセンテージとして表示されていた。

 

 ただ、案外すぐにパーセンテージは進んで、すぐに内部が開けるようになる。それと同時に、読み取りデバイスからホログラムが浮かび上がる。それはウィンドウから飛び出るホログラムと似てはいるものの、触れて、つまんで、実体を動かすことはできない。

 あくまでも立体的に見ることしかできなかった。


(……特にはないか)


 特筆して特徴的な部分は無い。ホログラムだけでなく、デバイスに表示されたICチップ内の情報もすでにウィンドウで知り得ていることばかり。新しい発見は無かった。

 倉庫内にかけられた時計に一度目をやって、時刻を確認する。

 もう少しだけ時間を潰せば頃合いだろう。


 ミカはデバイスの電源を消すと最後にやり残したことはないかと、強化外骨格装甲の元まで戻った。


 ◆


「おお、出来たか」


 ミカが仕事が終わったことを告げると、真っ先にライアンが入って来て強化外骨格装甲に触れた。

 

「デバイスとICチップを貸してくれるか」

「ああ? 分かった」


 ミカは首を傾げつつ読み取りデバイスを渡す。 

 ライアンはそれを受け取ると基幹システムにあった窪みにICチップが入ったままの読み取りデバイスを突き刺した。


(そのための穴だったんか)


 基幹システムに空いていた窪みについてミカは気がついていて疑問に思っていたものの、そこまで気にしていなかった。しかし今やっと使い方が分かった。どうやら、ICチップには情報の記録媒体としての機能だけでなく、強化外骨格装甲を起動するための鍵としても機能しているらしい。

 ミカとしてはなぜそのような機構を組み込むのか一切理解できないが、純正部品だけで作られた強化外骨格装甲というわけでもない。製造の過程でどこかに欠陥があり、仕方なく起動まで遠回りする設計にしてしまった可能性がある。

 

 ミカにはあまり関係のないことだが。


「なあ……」


 喜々とした表情で強化外骨格装甲の起動準備に取り掛かっているライアンを横目に、ミカはダンテに話しかけた。


「なんですか?」

「あの電磁機構……いや、あそこに置いてある強化外骨格も含めて、どうやって手に入れたんだ」


 ミカは倉庫の隅に保管してある強化外骨格を指さす。本来ならば建築用に使われるもので武装は取り付けられていない。しかし改造を加えられた結果、幾つかの武装が内部に組み込まれ、両腕には付け外し可能な武器が取り付けられている。

 加えて電磁機構が組み込まれた強化外骨格装甲。

 入手経路が理解不明だ。

 

「気になりましたか? さすがに」


 ダンテはにやにやと笑いながら問いかける。

 これだけの物を見て気にならないはずがない。

 だがいつもならば厄介ごとだからと首を突っ込みはしない――のだが、今回に限ってはすでに片足を突っ込んでいるようなものなので、聞いておくだけ得だ。


「機密情報ですよ、これは」

「もう俺は重要な部分を知ってるだろ」

「あなたがバラさないとも限りませんし」

「この状況で俺がバラすと思うのか」

「思いませんね、まったく」


 ミカが合理的な男だとダンテは理解している。

 合理的ゆえに考えが読みやすい。

 ミカの周辺の環境や取り巻く状況を鑑みればバラすはずがないとすぐに断定できた。


「いいですよ、まあ軽く概要だけですが」

「ライアンには確認を取らなくていいのか」

「……? なぜ彼に確認を取る必要があると?」

「いや、上司……みたいな立場なんだろ? あいつが」

「ええ、まあ」


 困惑顔のダンテに、少し遠回りな言い方をしすぎたと思ってミカが言い直す。


「あいつ、《《エルド》》なんだろ」

「え……」

「いや、驚かなくても状況証拠で分かるだろ」


 これまでミカに一度だって姿を見せていない。強化外骨格装甲の組み立てを任せるのだから、その修理屋ぐらいは自分の目で確認したいはず。カメラなどではなく、直接会って。

 それに、周りのライアンに対する態度やダンテの地位を鑑みて、ライアンがエルドではないと考察する方が難しいぐらい。隠していないなかったとは、あまりにも分かりやすすぎた。


「まあ……そうですね。さすがにバレてましたか」

「さすがにな」

「分かりました。でもエルドさんには確認を取らなくてもいいですよ。きっとあの人も同じ答えを返しますし」


 ダンテからエルドに対しての信頼。

 徒党を長きに渡って二人で支えてきた絆のようなものが感じられた。


「それで、謎が一つ解決したところで、入手経路について教えてくれるか」

「ええ、いいですよ」


 ダンテは少しだけ頭の中で事情を整理してから話し始める。


「結論から言うとダストシティのコーディネーターから買い取りました」

「コーディネーター?」


 ミカはあまりダストシティにことに関して知らない。

 当然、コーディネーターという言葉の意味も知らなかった。そこでダンテは軽く説明を始める。


「まあ簡単に言うと企業と傭兵との仲介人ですよ」


 ダストシティの権力構造は複雑怪奇。横の広がりも奥の広がりも、下も上も、全方向に様々な人脈や権力構造が伸びている。基本的には企業が頂点に君臨し、その下に警察や傭兵が並ぶ。

 コーディネーターはそうした権力構造の仲介人だ。

 企業が傭兵に直接頼むが面倒であればまずはコーディネーター仕事を依頼し、コーディネーターが手持ちの傭兵にまた依頼を渡す。そのようにしてコーディネーターは権力構造で下位に区分される者達と企業との仲介を執り行う。


「少し縁があってね。コーディネーターと取り引きをして、強化外骨格装甲あいつを手に入れたってこと」


 エルドファミリーがダストシティに足を踏み入れるにあたってまず出会うのは企業ではなくコーディネーターだ。関係を持っておくのは好ましい。そういうわけもあってエルドファミリーはコーディネーターと関係を持ち、今回の取り引きをするに至った。


 ミカはあまりコーディネーターのことを知らない。だからこそとやかく言うことはできない。

 しかし、一つ思ったことを素直に口に出す。


「信用できるのか」


 ダンテは難しい顔をした。


「分からない。でも廃棄品の強化外骨格や電磁機構が組み込まれた強化外骨格装甲のパーツを売ってくれたのは事実。かなり割高だとは思ったけどね。だけどその分、金を払ったから安心できる。逆に格安だったら疑ってたよ」

「そうか」

「納得できてない様子だね」

「企業と取り引きしてるってことはそのコーディネーターも同じ部類の人間だ。俺は信用できない」


 ミカの意見にダンテは賛同した。


「その意見には賛成だ。だが、勝つためには力を借りる必要があった。毒だと分かっていても食らわなくちゃいけない時がある。分かるだろ?」

「理解はできる」

「その毒が猛毒なのかただの毒なのか、あるいは無毒なのか、はたまた薬になるのか。それは結果が出てみてからじゃないと分からない。だけど、まずは目先の勝利に固執する必要があるだろ?」


 ギルバーンとの抗争に負ければ意味が無い。

 だから勝つためにできることはする。

 当然の意見。

 ミカの意見は正しいが、エルドファミリーが置かれている状況を鑑みれば完璧に正しいとも言えない。


「分かってる」


 ミカはそんなこと分かっていた。

 

「だろうね」


 ダンテは笑う。


「でも警告してくれたのは慈悲かい?」

「違う」


 言うなればこれは手向たむけの言葉。

 ミカは彼らのこの選択が良くない結果を招くと、直感的に感じていた。

 まあ、ミカは運が悪いので当たらないことの方が多いが。

 

 その時、倉庫内にエルドの声が響いた。


「さて、準備完了! 見ててくれよ!」


 喜々とした表情のエルドが強化外骨格装甲に乗り込む。

 ミカはその姿を悩ましい表情で見ていた。


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