第14話 徒党との関係
ギルバーンの構成員を殺したミカは、自宅に帰ってから少し休むと、地下の作業スペースでドローンの改造を行っていた。
ドローンを強化しすぎるのは、いつか反旗を翻された時に面倒になってしまうが、武装を少し強化する程度は大丈夫だ。少なくとも、現状の装備である拳銃一挺だけでは使い物にならない。
予定では短機関銃を分解した部品をドローンに組み込んでいく予定だ。
いつものようにドローンからウィンドウを表示させ、同時に床に短機関銃の部品を並べていく。
するとウィンドウからリストが浮かび上がり、その中から一つを選んでホログラムを表示させた。ここからはホログラムの指示に従いながら、時に試行錯誤して組み立てていく。
空調設備や豊富な工具、部品などの洗浄場所まで取り揃えられた地下空間で、ミカは作業に取り掛かる。
「……」
ミカが工具を持って組み立てて行こうとした時、通信端末が鳴った。
少し面倒に思いつつ、工具を置いてミカが通信端末を手に取ってみる。相手はエルドファミリーの構成員であるダンテからだった。
嫌な予感を感じつつも、後回しにするわけにもいかない。
ミカは軽くため息を吐きながらその着信に出た。
「夜分遅くにすいません。今、大丈夫ですか」
「ああ。用件はなんだ」
「実は、修理……いえ、正確には組み立てをお願いしたいものがありまして。もしよろしければ、お力を貸していただけないでしょうか」
「組み立てるもの……?」
ミカの修理屋としての腕を見込んで頼んだのだろうが、エルドファミリーの事情を考えると力にはなりたくない。
「はい。必要な部品は揃っていて後は組み立てるだけ、なのですが。どうも起動できなくてですね。様々なジャンク品を修理し、作って来たあなたになら分かると思いまして」
「いや、さすがに専門性の高い知識はないぞ? 俺の生まれ知ってんのか?」
ウィンドウを使えば部品と環境さえ揃っていれば修理できる。しかし、ミカの生まれと育ちを考えるのならば、修理できるのがまずおかしい。ジャンク品を組み立てる程度ならばまだしも、専門的な知識が求められる物を修理するのは、客観的に見ておかしい。
「知っていますよ。ただ、あなたにならできると思いますよ」
「根拠は」
「今回、あなたに作ってもらいたい物は電磁機構が搭載されているのですが、どうもその部分が上手くいっていないようで。そこを見てもらいたいんですよ」
ダンテたちは商業組合の施設内で電磁機構砲台の仕組みが搭載された武器を見ている。スラムで手に入れることなどできず、また手に入れられるとしても高額、それでいて見た目は手作り感マシマシの形をしていた。
ミカが作ったものだと一発で分かったのだろう。
ただ、電磁機構砲台の機構まで組み込まれていることがバレているとは思えない。
ダンテの発言は『電磁機構砲台の機構を組み込んだ銃を作れるのだから、似た機構の不具合も直せるのではないか』というもの。その問いはミカのヴォルトハイブとマグボルトの内部機構を知り得ていなければできない。
一応、ブラフの可能性も考慮する。
「何言ってんだ? んなモン俺に頼んでどうする」
「C-157とM-27。あなたが持っていた武器はどちらも電磁機構が組み込まれた物でしたよ。一から作ったわけではないのでしょうけど、ジャンク品を組み合わせて似た物を作ったのでしょう?」
「待て、何の話だ」
「今更はぐらかさなくてもいいですよ。どちらもあなたが持っていた拳銃と散弾銃についてです」
ミカはC-157とM-27という銃を持っていない。そのような武器を握った覚えは無い。あるのは散弾銃のヴォルトハイブと拳銃のマグボルト。どちらも決してそのような名前ではな……
(表記ゆれか)
リストに表示される武器の名前と実際の武器の名前が違うという現象。これはウィンドウを使い始めてからそう少なくない頻度で起こっている。たとえ同じ機構、同じフォルムの銃器でも名称が異なることが多く、逆に機構もフォルムも違うのに同じ名前という例も存在している。
今回もその一種。
C-157という散弾銃にヴォルトハイブは限りなく似ていた。
また、M-27という拳銃にマグボルトが限りなく似ていた。
同じ機構を搭載していながらも、名称は違う。いや、実際はミカが手作りしたのですべてが純正部品というわけではなく、その部分が名称の違いを生んでしまったのかもしれない。
ただ、まだこれなら言い訳の余地が許されている。
ミカが口を開く。だが先回りしてダンテが述べておく。
「弾痕や商業組合の拠点に設置されていたカメラから、僅かにですがあなたが戦っている姿を確認できました。発砲した際に発火炎と共に青白く灯る銃口が灯るのは、電磁機構が搭載された銃器の特徴です。どうですか」
「……」
ミカが通信端末から顔を離してため息を吐く。
カメラの映像記録に関しても事前に消去しておくべきだった。
しかしエルドファミリーは監視カメラの映像やギルバーンとの通信記録などが第一の優先事項だっただけに、その選択を引き出すことができなかった。これは単純にミカの判断ミスだ。
「見るだけだ」
断りたいところではあったが、ここで恩を売っておいた方がいい、とポジティブに考える。
「ありがとうございます」
「じゃあ取り合えず写真でもいいから、どんなモンか見せてもらえるか」
「それはできません」
「なんでだよ」
ダンテが僅かに返答を悩む。
ミカはその反応である程度のことは察した。
「おいおい。んな危険なモン俺に見させるつもりか? 巻き込まれたくないんだが」
「はは。大丈夫ですよ…………たぶん」
「たぶんってなんだ、たぶんって」
「ただの強化外骨格装甲ですよ」
「《《ただ》》の強化外骨格装甲には電磁機構なんて組み込まれねえだろ」
「はは。最近は電磁機構が仕込まれてるタイプが主流みたいですよ」
「ぜってーちげぇだろ」
ミカは特別、強化外骨格について詳しいということはないが、ダンテの発言が嘘であることぐらいは見抜ける。
「まあまあ、見てからのお楽しみってことで」
「どう考えてもお楽しめねえだろ」
少し息を切らして、ミカが悪態をつく。
このミカの態度は仕方のないものだ。厄介ごとには関わらない、それがスラムで生きていくための術。降りかかった火の粉は燃え広がらぬよう穏便に済ませるのが吉。分の悪い賭けはしない。
それが流儀だ。
「じゃあ話を変えましょうか」
なかなか首を縦に振らないミカにダンテはある提案をする。
「ミカさん。あなた今日の昼頃にギルバーンの構成員を殺しましたね?」
「知らねえよ」
「すでにギルバーンの方から通告が届いてますよ。まあ、私たちがやったと勘違いされていたようですけど……」
ミカが悪い予感を覚えた。
「ここであなたの名前を口に出したら……というより、あなたを贄にすればもしかしたら、直接的な抗争の猶予ができるかもしれませんね」
「脅してんのか」
「提案ですよ。ギルバーンの構成員を殺したのは不可抗力でしょうし、仕方がありません。しかしその責任を私たちが被るのですから、少しぐらい協力してくれてもいいじゃありませんか」
ダンテは続ける。
「今回の件であなたが関わって不利益を被るような事態は引き起こさせません。これは約束です。必ず、私たちがあなたを庇うと誓います。どうですか、良い提案ではないと思いませんか?」
ギルバーンの構成員を殺したのは正当防衛だ。悪いのは相手。しかし、相手がもし組織に所属していれば正当防衛では済まされない。そういう世界なのだ。社会とはそういうもの。理不尽に発生した責任でも、どうにかこうにか清算しなくてはならない。
理不尽に晒されるのはいつものこと。
今日もその一つ。
「なんでお前らは揃いも揃って……」
企業や徒党。組織は揃いも揃ってゴミばかり。
相手が組織に所属しているというだけで、殺したら文句を言われる。たとえ正当防衛でも、こちらが何も悪く無くても。
しかし仕方がない。
これが常識。
スラムに限らない。
これが社会の常識。
いつも通り運が無かっただけ。
「明日の朝行く。準備しとけよ」
「分かりました。待っていますので」
話が終わると、ミカはすぐに通信を切った。
そして目前でドローンから浮かび上がるホログラムを見て、また一つため息を吐いた。




