第12話 防衛設備
ミカがジャンクヤードを探索していた。
すでにミカには家もあり、稼ぐ手段もある。生きるのにかかるのは食費ぐらいなもので、そこから仕事のために使う機材や工具の費用を足してみてもそこまでの出費にはならない。
それに商業組合から奪った金で数年は何もしなくても生きて行ける計算だ。
働く必要なんてなく、家でゴロゴロと休んでいてもいい。
だが、ミカがそのような怠惰を許すわけも無く、こうしてジャンクヤードを訪れていた。昔とは違って売れそうなスクラップを見つけるのではなく、掘り出し物を見つけるために訪れている。
単純に趣味目的だ。
今は昔のように積極的に働いて稼がなければならないほど切羽詰まった状況ではない。
少しぐらいは趣味に興じたっていい。
「ほーん。運がいい」
探索をして少ししてから、ミカは一機の墜落したドローンを発見した。前に銃の残骸を落としてくれたマンティス社のドローンがあったが、その際に使用期限のきたドローンも共に処理されるということが少なからずある。
ほとんどは一度持ち帰って内部の重要部品を抜いた上で投棄されるのだが、そのコストに見合わないのであればゴミを投棄したついでに、ドローンも投棄する。馬鹿でかいジャンクヤードにはこうしたドローンが月に何度か投棄されてきた。
ただほとんどが落下時の衝撃で壊れてしまったり、その後に上から降って来たゴミに押しつぶされてしまったり、などといった理由で見つかることは少ない。ミカも過去に一度見つけたのみで、今回が二回目のことだった。
「劣化に加えて落下時の衝撃で壊れてるが……まあどうにかなるか」
内部の機構に大きな損傷はなかった。今ここで少し修理すれば動きそうな具合。家に帰ってからちゃんとした設備の中で、機材を取り揃えてやってみた方が良いが、やはり今すぐに修理をして、動いている状態が見たい。
ミカはすぐに修理へと取り掛かった。
今までは部品を組み合わせての『制作』だったが、今回は『修理』だ。いつもと少しだけ違う。
「自立監視型……に近いタイプがいいよな」
組み立てる際には必要な部品を並べることで、その素材から作れる物をリストとしてまとめることができる。同様に、修復に関しても物体にウィンドウを浮かび上がらせて、リストを表示するところは変わらない。
ただ違うのは、『修理の方向性』を指定できるということ。
たとえ部品が揃っていなくても、ドローンを自立型にしたいのであればそれに応じたリストが浮かび上がり、逆に元の状態に戻したいのならばそのようにリストが表示される。
ただその際、部品が足りなくてもリストに表示されてしまうので、リストに載っている幾つかを修理するためには部品を集めなければならない。
別に『制作』の際にも同じ機能は使えるのだが、やはり修理の際に有用だ。
ミカが今回作りたいのは自立監視型のドローン。内部に搭載されたAIがミカの周囲を監視し、危険になりそうなものを事前に警告する機能を持った、そのようなドローンにする予定だ。
将来的にはステルス機能も盛り込みたいところだが、ミカにはそこまでの技術力が無い。
今は危険を事前に察知した上で、ミカが命令すれば攻撃してくれるようなドローンがやはり欲しい。家の警備にだって使えそうだ。
「ま、そうなるよな」
部品が揃っていないここでの修理では大層なドローンは作れない。せいぜい元の形に戻すだけ。
ただそこに、不格好ながら一つ機能を付け加えることができる。
「今までありがとなー。これからも守ってくれよー」
念じながらミカは持っていた拳銃を分解する。スラムで生きていく中でかなり古くから持っている相棒だ。ミカは今、その拳銃を分解してドローンに取り付けていた。本当ならばドローンには短機関銃や爆弾などを搭載したいところだが、生憎、今は手持ちがない。
かといってヴォルトハイブやマグボルトを犠牲にするのも違う。そこで拳銃を使うことにした。
家に帰ったら拳銃を外して別の武器を取り付けるから、今だけは、と自分を納得させながらミカが取り付ける。連射もできない装弾数も少ない、拳銃を搭載したところでドローンとしてはあまり役立たないのが普通。
ただやはり、武器を持ったドローンが近くを飛び回ってくれるのは安心感がある。
そのせいで、注意力散漫にならないようには気を付けたいが。
「……とりあえずはこんなもんだが……」
一応、稼働する状況にはした。
しかしここからが問題だ。
ミカが作りたいのは自立型のドローン。自分で考え、思考し、決断することができるドローン。
つまりはAIを搭載するということ。
さすがにウィンドウでもAIの作り方は分からない。
ただ、ミカにとっては大きな問題ではなかった。
(これ、こんなこともできたんだな)
修理の終わったドローンにウィンドウを浮かび上がらせて情報を確認しようとした時、一つの画面が浮かび上がった。
それには『AIをインストールしますか』という文言が記載されている。
自立型のドローンを作ろうとしたのはこれが初めてのことで、ウィンドウにこのような機能があるとは知らなかった。
都合が良すぎて恐怖すら覚える。昔から今に至るまで何度もウィンドウには助けられてきた。スラムでスクラップ売りをする少年がウィンドウのおかげで、高品質なジャンク品を売る店主へと変わり、今は金も家もある。
ミカの実力さえあれば、銃を握ればもしかしたら今の暮らしが手に入っていたかもしれない。しかし選択せず、辺鄙な場所にあるバラック小屋でひたすらに修理をし続けた。
これはウィンドウという偶然とたゆまぬ努力によって得た結果。
当然、正体の分からないウィンドウにはこれからも警戒し続けるが、今更裏切られても仕方がないと、諦められる。警戒しつつも一蓮托生の関係だと気がついているのだ。
今更、疑っても仕方がないので、ミカはウィンドウに従ってAIをインストールする。
(変化はなし……か)
ウィンドウから新たにインストールの進行状況が見える画面が表示され、一瞬でAIがインストールされる。だが、だからといって何かが起きるわけではなく、ドローンは沈黙したまま。
まだ起動はしていないので、ここで動かれた方が怖くはあるが。
ミカは起動ボタンに指先を近づける。すると、指先と起動ボタンの間にまた一つウィンドウが浮かび上がった。
『行動を選んでください
・索敵モード
・制圧モード
・自動判断モード
どれにしますか? 』
どうやら、AIをインストールした結果がすでに現れているようだった。
ミカが取り合えず索敵モードで試してみようと指先を伸ばす。その時、ミカが突然ドローンを抱きかかえたままスクラップの山に身を隠した。
直後、ミカのいた場所に数十発の弾丸が撃ちこまれる。
(ギルバーン……やっぱ敵だと思われてたか)
ギルバーンが支配する区域はジャンクヤードを挟んで反対側にある。ジャンクヤードを真っすぐに進めば当然ギルバーンの支配区域へとたどり着くし、そうでなくとも、進み過ぎればジャンクヤードの内側と言えどもそこはギルバーンの支配下になる。
商業組合の一件でギルバーンには敵だと認識されているだろうということを踏まえて、ミカはジャンクヤードに深入りはしていなかった。しかしギルバーンから来られたら対策の仕様がない。
敵の持つ武器や数を見る限り、ミカと出会ったのは偶然だ。
商業組合を一人で破壊した奴にあの程度の戦力で畳みかけるはずがない。もし居場所が捕捉されていれば、大人数で一気に囲んでくる。
(それにあいつら……)
ガスが充満しているかもしれないジャンクヤードでいきなり発砲してきやがった。
となれば、ミカがジャンクヤードの作法に乗っ取る必要はない。ナイフから手を離し、銃を握る。それだけだ。
それにちょうどいい練習相手だ。
(殲滅モ……いやこれか)
ドローンを起動する。
最初は殲滅モードに使用とも思ったが、AIの実力を見るために『自動判断モード』を選択。
そして起動ボタンを押すとドローンが動き始める。
「頑張ってくれよ」
できればミカが何もしなくてもいいぐらい、ドローンが働いてくれたなら、それが最高だ。




