報告者: 『管路の修復士』イオ・フェルメル
*《設備再稼働業務報告書》*
報告者: 『管路の修復士』イオ・フェルメル
日付: 星暦1028年、第四の月の導環期14日目
任務: 旧王都地下導管「エリュシオン配流路」再稼働作業/B級技術任務
依頼主: 王都整備局・魔力供給課
提出先: セントラル冒険者ギルド本局
*同行者: なし(単独任務)*
*『管路の修復士』イオ・フェルメル
(B級導管技師, ゴールドランク, レベル48, アーケインワークス本部所属, 技術派)
*任務概要*
旧王都地下に残る大規模導管網「エリュシオン配流路」の一部区画で、魔導流供給が停止。
都市部の灯火・防壁結界に断続的障害が発生しており、速やかな再稼働が求められた。
前回の修繕班が行方不明となっているため、単独による調査と補修を実施。
報酬は基本5200金貨+技術復旧手当1000金貨、称号「導管再生技師」。
*請負成立経緯*
魔力供給課より緊急通達。既存の導管図面は劣化・不完全。
導管構造認識魔導具を持つ現役技師として、私が指名された。
本任務はB級危険度扱い。現場直行、補助員なし。
*経過詳細*
1. 第一接続路 (午前)
導管入口の閉鎖符を解除、圧力弁を開く。内部は長年の沈泥と胞子層で満たされ、視界はほぼ皆無。
測定結果:魔導流圧力=0、温度=+4.3。
補助灯を設置し、汚染除去符を三枚展開。構造は安定。
2. 第二分岐層 (昼刻)
過去の補修痕を発見。符文痕跡が黒化しており、“自己修復型導管材”が反転成長。
過剰な導魔素が金属層を侵食し、流路を封鎖していた。
私は外殻を切開し、魔素濾過器を挿入、流量を再均衡。
圧力値が上昇。魔導流の微弱な脈動を確認。
記録音声:低周波音が連続発生、「運転再開」の自動音声かと思われたが、人声の抑揚を帯びていた。
3. 主管路制御盤 (夕刻)
導管本体の中枢端末を起動。操作には“旧都市整備官コード”が必要だったが、
登録名簿に私の祖母の名が残存しており、自動承認された。
再稼働手順を実行。流体音とともに導管が震動。
圧力=標準値、出力=再安定。都市防壁の魔力供給ランプが上層で点灯したとの通信確認。
*成果*
旧導管の再稼働に成功。圧力安定、魔導流正常化。
腐食部は局所補修済み。再検査は七日後予定。
回収:[自己修復材サンプル]1個、[旧都市認証鍵(祖母の名義)]1基。
報酬:6200金貨、称号「導管再生技師」。
経験値+3000。〈濾過器〉2基消費、〈符板〉5枚使用。
*所見と提言*
導管内部の“自己修復材”は完全に機能を逸脱し、自己増殖化していた。
設計段階で「生体式合金」と呼ばれた技術が暴走した可能性がある。
また、音声記録中の「運転再開」という発声波形が、人の音声パターンを模倣している点に留意。
現場環境が自律意志を獲得しつつある兆候が見られる。
技術局は今後、導管を単なる装置ではなく“長期記憶体”として扱うべきだろう。
署名: 『管路の修復士』イオ・フェルメル
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*【日誌】*
日付: 星暦1028年、第四の月の導環期14日目
場所: 地下導管第七層・補修作業区の端
タイトル: 導管は、生きていた
空気が湿っている。
けれど湿り気の奥に、心臓の鼓動のような脈を感じた。
それが導管の音だと気づくまで、しばらくかかった。
祖母がかつて整備していた区画。
壁の銘板に、彼女の筆跡が残っていた。
“誰かが読むまで、動き続けろ”——それが最後の整備記録だった。
第二分岐層の黒化箇所を切り開いたとき、金属が「痛い」と鳴いた。
錯覚だと思いたいが、魔導波形は確かに共鳴していた。
魔力を流し直すたび、壁が呼吸する。
手を離せない。放っておくと止まりそうで怖い。
主管路の再起動で、上層から通信が入った。
「街の灯が戻った」と。
その瞬間、導管の中で何かが安堵の息を吐いた気がした。
帰路、作業灯を消したとき、
遠くの闇の向こうで、祖母の声がした。
「おかえり、よくやったね」
答えられなかった。喉が詰まった。
導管は生きている。
そして私たちは、その命の続きを修理しているだけだ。
報酬をもらっても、この仕事は終わらない。
いつかまた、あの音を聞きに戻るだろう。




