報告者: 『灰の記録員』ルシア・クローヴァ
*【現地調査報告書】*
報告者: 『灰の記録員』ルシア・クローヴァ
日付: 星暦1026年、第二の月の記録期17日目
任務: 王都地下通信管路「記録管第七層」異常信号調査/D級特例任務
依頼主: 王都行政局・情報管理課
提出先: セントラル冒険者ギルド
*パーティーメンバー*
* 情報術士: 『灰の記録員』ルシア・クローヴァ
(D級, シルバー, Lv26, スクリプターズギルド, 文官派, 報告者)
* 魔導技師: 『青銅の調整者』リード・ヘンブリッジ
(C級魔導技師, ゴールド, Lv42, アーケインワークス所属, 技術派)
* 盗賊: 『黒鍵』テナ・ロックフィール
(D級盗賊, シルバー, Lv31, シャドウユニオン所属, 中立)
* 守護兵: 『鉄塔』ガレン・マルヴォ
(C級守護兵, ゴールド, Lv47, アイアンシールド所属, 保守派)
* 司祭: 『白鐘』ミリエル・ノースウィンド
(C級司祭, ゴールド, Lv45, 白灯会所属, 中立)
*任務概要*
王都地下通信網「記録管第七層」にて、官報信号の誤発信および幻声現象が発生。行政局より原因の特定と管路安定化を依頼。
報酬は基本報酬2400金貨+特例危険加算500金貨、称号「都市記録補修員」、王都通信網アクセス許可証(短期)。
*請負成立経緯*
情報管理課の依頼をセントラルギルドが転送。魔導技師1名と情報術士1名を必須条件としたため、スクリプターズギルドから私が指名。同行者はギルド間調整による混成。
通信管は王政時代の旧設計で、三百年前の「封印層」区画と接続しているとの記録あり。
*経過詳細*
1. 第六層接続口 (午前)
入域許可証を確認、ミリエルが浄化儀式を施行。入口の符号盤に微弱な魔力残滓、リードが導線調整。
進入後、光球に“幻声波”を検出。内容は「記録、破棄、再生……」の反復。視覚的害なし。
テナが先行し盗賊結界を解除、ガレンが後方防御。
2. 第七層主配線室 (午後)
管壁の符文が自己書換現象を呈す。私が封印符号を再刻し、通信核との接続を遮断。
同時に、リードが機構内のエネルギー流量を解析、魔力過多の要因が「旧時代通信石」の再起動と判明。
再起動個体は本来廃棄済みの“自律記録石”であり、自己判断により過去文書を再配信していた。
戦闘:石に付随した防衛機構“オート・ガーディアン”起動。ガレン・テナ・ミリエルで制圧。
戦利品: [旧式通信石]1基(半損)。
3. 第七層最奥封印室 (夕刻)
奥部に封印文書庫。室内温度低下、音波干渉。幻声の主源を特定。
自律記録石が記録を“保存”ではなく“延命”しようとし、行政通信の符号網を侵食していた。
私は符号解除術で石を眠らせ、リードがコアを安定化。
退避時、ミリエルが言葉を残す。「この記録石は、まだ“誰か”の名を呼んでいる」。
*成果*
異常通信停止、幻声現象の消滅を確認。再発リスク低。
[旧式通信石]1基回収(研究移送予定)。
報酬:2400+危険加算500=2900金貨、称号「都市記録補修員」、短期アクセス許可証付与。
経験値:全員+2100EXP。ルシア→Lv27、テナ→Lv32、リード→Lv43。〈回復ポーション〉1、〈精神安定符〉2枚消費。
*所見と提言*
自律記録石の暴走は「情報を失わせたくない」という自己命令の延長に見える。記録を“殺さぬ”構造は一見無害だが、行政符号の統制を侵す危険がある。
封印層由来の通信石群が他層にも残存している可能性が高く、技術局と司祭局の合同再調査を推奨。
加えて、幻声の内容に個人名らしき発声が含まれたため、文書照合班に報告済み。
私はこの案件を単なる機構異常ではなく、“記録の意思”の顕現と判断する。
署名: 『灰の記録員』ルシア・クローヴァ
=====================
*【日誌】*
日付: 星暦1026年、第二の月の記録期17日目
場所: 王都セントラル街・資料区画裏のカフェ「紙葉亭」
タイトル: 記録は死なない——けれど誰の声だったのか
行政局の呼び出しほど胃に悪いものはない。机上の理屈を地下に持ち込むと、どこかで命を落とす。
それでも行く。私の仕事は“記録”を正しい形に戻すことだから。
第六層の空気は紙の匂いがした。古い書庫のように乾いた、でも温い。
「破棄、再生」——幻声は、管を伝って耳に直接響く。リードが言うには共鳴周波数がずれていたらしい。つまり“誰かの声”ではなく、管そのものが喋っていた。
第七層の管壁は書き換えられていた。符文が私の指先を真似して、別の記号を刻む。私が修正すれば、次の瞬間に“上書き”してくる。あれは抵抗だった。
リードの計測によれば、通信石が“再送信”している文書は百年前の行政命令書。失われたはずの布告文。
つまりこの石は、命令を思い出している。
“自分の役目をまだ果たしていない”とでも言うように。
防衛機構が動き出したとき、鉄と祈りの音が重なった。
ミリエルの聖句が管を震わせる。私は符号術で石を眠らせる。
光が沈んだあと、あの声が最後に呟いた。「次は、誰が記録する?」
私は、返事をしなかった。
書き手が答えたら、記録は終わるから。
報酬は予定どおり。通信石は研究班へ渡した。だが私は副本をとってある。
幻声が言った単語の並びを——解析すれば、それは文書IDでも呪文でもなく、人名の配列だった。
“ルシア”。
……私の名。
記録は死なない。だから、誰かが代わりに書き続けている。
それが私自身だったとしても、驚くほど自然なことだと思った。




