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冒険者の報告書  作者: 人生迷走グミ
竜の涙事件に関する記録
18/18

【"竜の涙"事件に関する記録:第二部】報告者: 『蒼紋の考古術師』ルキア・メルディアン

*【学術調査報告書】*


報告者: 『蒼紋の考古術師』ルキア・メルディアン

(B級学術員/ゴールドランク/Lv40/王立魔導学術院・古代史部門所属/中立派)


日付:星暦0869年、第十一の月〈凍華期〉11日目

任務:伝承"竜の涙"に関する文献および物的試料の調査・分析/学術調査任務

依頼主:王立魔導学術院・院長ヴァルグリム・デッサ

提出先:王都評議会記録局・学術院本部



*調査協力者*


* 文献司書:『灰筆』メアリス・ホルン

(C級/シルバー/Lv33/王立書庫所属)


* 錬金術士『蒼瓶』グラウス・エルン

(B級/ゴールド/Lv37/アルケミア連合会所属)


 ◇協力冒険者『山梢の探索士』リオ・ハーランド

 (C級/シルバー/Lv34/アースフォーカスギルド)



*任務概要*


北方山系〈竜哭洞〉より採取された未知結晶"蒼晶"の構造的・魔導的性質を調査。また、伝承上"竜の涙"と呼ばれる物質との関連性について文献照合を行う。

本件は王都評議会より学術院へ正式依頼として下付されたものであり、結果は王宮学士会への報告を予定。


*背景補足*


蒼晶の発見が王都に報告されて以降、その結晶の外観の類似性を受け、王妃エリーザ殿下が「竜伝承の証明」として強い関心を示される。学術院には"肯定的な結論"を求める圧力がかかっているが、本調査は学術的中立性を保つことを第一とする。


*調査経過*


■ 文献照合(第一環期〜第四環期)

[調査対象文献]

* 『ヴァルン聖典』(古代宗教文書)

* 『雲竜譜』(竜族伝承集)

* 『セレファール記録片』(古代魔術師の研究ノート断片)


<重大な問題点>

※星暦0866年に発生した王立書庫北棟の火災により、竜族関連の主要文献が多数焼失。特に以下の資料が失われている

* 『竜族生態大全』(全十二巻のうち、第三巻「繁殖と成長」、第七巻「魔力特性」が消失)

* 『禁足地指定台帳』(詳細な指定理由を記した原本が焼失。写本のみ残存)

* 『古代魔導具目録』(竜に関連する魔導具の詳細記録が消失)


[残存資料からの抜粋]

『ヴァルン聖典』第四章より:

> 「竜の涙は、天の嘆きにして地の祝福なり。光を受けて空に還る。母なる翼は子の声を聞き、雲を裂きて降り立たん」


『雲竜譜』断片より:

> 「涙は竜の(※以下欠損)……結晶の殻に守られ、光の時を待つ。もし人の手が触れなば、親であろう巨竜の(※以下欠損)……天を焼かん」


『セレファール記録片』より:

> 「これは(※判読不能)である。決して(※判読不能)は、ならない」


[所見]

文献は断片的かつ詩的表現に偏っており、科学的記述に乏しい。"竜の涙"なる語は複数の時代に出現するが、明確な定義は不在。特に重要と思われる箇所が欠損または焼失しており、正確な解釈が困難。

「光を受けて空に還る」という記述から、強光照射で何らかの変化を起こす可能性を示唆。


■ 試料解析(第五環期〜第七環期)

リオ・ハーランド提出の"蒼晶"試料を封印下で観察。


[物理的特性]

* 構造:層状結晶、中心に魔素循環層あり

* 大きさ:直径約一腕半

* 重量:約三斤(水の約二倍の密度)

* 硬度:鋼鉄に匹敵

* 温度:室温より四温位高く、外部温度に依存しない自己発熱を確認


[魔力的特性]

* 魔力反応:穏やかだが周期的な波形を呈する

* 拍動周期:一環刻につき八拍(極めて規則的)

* 生命波形との類似度:七割強

* 特異点:内部に"核"様の高密度魔力集中点あり


グラウス・エルンの分析:「高濃度魔力を自己循環する希少結晶。ただし、この循環パターンは既知のどの魔生鉱物とも一致しない。むしろ大型生物の代謝パターンに酷似している」


[内部構造]

魔力走査術による可視化では、器官・組織様パターンは確認されず。ただし結晶表面に鱗状反射パターンが存在する点は特筆すべき。

この模様が自然形成なのか、生物由来なのか、あるいは古代魔術による加工なのかは判断できず。


■ 比較分析(第八環期)

既知の"竜鱗鉱"および"心晶石"との成分比較では一致せず。

竜族伝承との関連性は"象徴的類似"の域を出ない。


※ただし、以下の点で伝承との一致が見られる:

* 淡青色の輝き

* 鱗状の表面模様

* 温もりを持つ

* 拍動音


■ 光照射実験(第九環期)

文献の「光を受けて空に還る」という記述を検証すべく、制御下での光照射実験を実施。


[実験手順]

1. 結晶を防護結界内に設置

2. 光照術の出力を段階的に上昇

3. 各段階での反応を記録


<実験結果>

* 弱光照射:反応なし

* 中光照射:内部の拍動が一環刻につき十一拍に加速(通常比1.4倍)

* 強光照射:

- 結晶表面に微細な亀裂発生

- 内部から熱気の放出を確認

- **高周波音の発生**(音響記録に残存)

- 実験を即座に中止


【重要】:強光照射時に記録された高周波は、音響分析の結果、「生物の鳴き声」に類似したパターンを示した。


グラウス・エルンの所見:「これは孵化の予兆と解釈できる」

※ただし、確証はなく、あくまで仮説の域を出ない。



*成果*

* 未知結晶"蒼晶"の成分解析完了。魔素循環構造を有する特殊鉱物と暫定分類

* 内部の周期振動は"結晶性魔力呼吸"の一種である可能性

* 伝承上の"竜の涙"との関連は未確定。ただし形状・色調・光波長に一致点多数

* 封印下で安定性高く、持続的拍動反応を示す。**ただし光刺激には過敏反応あり**



*所見と提言*

"蒼晶"は既知の鉱物分類に該当せず、かつ生命波形と似た魔力循環を持つ極めて稀少な物質である。


<資料不足による限界>

本来であれば『竜族生態大全』等の専門文献を参照すべきところ、火災による焼失のため詳細な比較検証が不可能。断片的な伝承のみから判断せざるを得ない状況。


古代文献との照合結果を踏まえ、"竜の涙"伝承との関連を今後の研究課題として継続調査すべき。


<懸念及び【警告】事項>

試料の発光周期と周辺温度変化には軽度の相関があり、外部刺激(光・熱)による構造変化の危険性がある。


【厳重警告】

保管は厳重封印下で行い、第三者への閲覧は制限を推奨する。**特に天頂光下での展示は絶対に避けるべきである**。

光照射実験の結果から、強い光(特に太陽の天頂光)を受けた場合、結晶に何らかの不可逆的変化が起こる可能性を排除できない。



*個人的所感*

断片的な文献、焼失した資料、そして実験結果——これらを総合すると、この結晶は単なる鉱物ではない可能性がある。

だが、それが何であるかを断定するには情報が不足している。


もし『竜族生態大全』が残っていれば——


【追記:王宮学士会への報告に際して】

本調査結果は王妃陛下の期待に沿う"肯定的"内容(竜伝承との関連)を含むが、同時に"危険性"も明記した。

しかし学士会は「竜伝承の証明」という側面のみを強調し、危険性の記述を「過度な懸念」として削除することを要求。


私はこれに強く反対したが、最終報告書は学士会により以下のように修正された:


**削除された記述**:

> 「蒼晶は生命と鉱物の境界にある。もしこれが何らかの生命体に関連するものであるなら、外部刺激(特に光)による変化の条件を満たすことは避けねばならない」


**追加された記述**:

> 「蒼晶は竜伝承を裏付ける貴重な証拠であり、適切な管理下であれば展示に耐えうる安定性を有する」


この改変に対し、私は書面にて抗議したが受理されなかった。


署名:『蒼紋の考古術師』ルキア・メルディアン



=====================



*【日誌】*


日付:星暦0869年、第十一の月〈凍華期〉11日目

場所:王都学術院・西棟研究室

記録者:ルキア・メルディアン



一日中、蒼晶を観察していた。


光を当てると、内部で微かに揺れる波が見える。ただの魔力反応とは思えない。だが"生きている"とも言い切れない。


どこか、曖昧な境界線にある。


メアリスは古書を抱えて、「竜の涙には"生まれ変わり"の意味がある」と言った。


グラウスは笑って「学者が詩人になると厄介だ」と返した。


私も同感だ。だが、胸の奥で何かがざわついた。



グラウスはあとで、「もし『竜族生態大全』第三巻が残っていたら、答えはそこにあったはずだ」と指摘した。三年前の火災で焼失したのは、竜に関する"最も重要な"文献ばかり——繁殖と成長、魔力特性、生態的特徴。あまりにも都合が良すぎる、と彼は疑念を示した。


偶然なのか。それとも——


*****


夜半、温度が少し上がった気がした。


封印布の上からでも、蒼晶の光が見える。


青い、けれどどこか温かい光だ。


"涙"という言葉が妙に似合っていた。


=====================


【追記:第二十日目】


日付:星暦0869年、第十一の月〈凍華期〉20日目


王宮より通達。


蒼晶を「アレクサンダー新王即位式典」にて展示することが決定。王妃エリーザ殿下の強いご希望による。


式典は新暦元日に開催され、第一王子アレクサンダー殿下が正式に王位を継承される。先王フリードリヒ三世陛下崩御から二年の喪が明け、新しい時代の幕開けとなる。


式典には当然ながら近隣諸国からの諸侯及び来賓も多数招待されるという。


招待国家の諸侯及び来賓(予定)

・エルドラン東方同盟:同盟議長アルテミス・フォン・エルドラート閣下

・ティアマール海洋王国:第二王子ネリウス・ティアマール殿下

・グランヴェル帝国:帝国宰相ヴォルフガング・フォン・アイゼンベルク閣下

・フロストガルド連邦:連邦大使クリスティナ・ノルドヴァルト閣下


各国の王族や重臣が参列する、セレスティア王国史上最大規模の式典となる。

"竜の涙"は新王朝の繁栄と正統性の象徴として、「古代竜の祝福」という意味を込めて展示されるという。


学術院長ヴァルグリムは反対したが、宮廷議会により承認された。

私は再度、危険性を訴えた。


「天頂光は避けるべきです。実験で反応が確認されています」


だが返答は冷たかった。


「学術院の役割は助言であり、決定権は王宮にある。これは王国の命運をかけた即位式だ。エルドラン、ティアマール、グランヴェル、フロストガルド——大陸の主要国家が一堂に会し、新王陛下を承認する。"竜の涙"は新王朝の象徴として、我が国の威信と正統性を示す絶好の機会を逃すわけにはいかない」


グラウスは私に言った。


「ルキア、これは政治だ。俺たちに止める力はない」


*****


式典は二十日後。


王都中央広場。


快晴が予想されている。


天頂光が、最も強い時間帯。


私にできるのは、せめて記録を残すことだけだ。


もし何かが起きたら——


この記録が、誰かの役に立つことを願う。


*****


=====================


【追記:式典三日前】


日付:星暦0869年、第十二の月〈霜環期〉8日目


今朝、学術院にリオ・ハーランドが訪ねてきた。北方での長期任務の帰路、セレスティアに立ち寄ったという。


彼は式典への招待を辞退したこと、そして「あの結晶の前にもう立ちたくない」という強い拒絶反応を示した。採取時の体験——結晶から滲出した液体の温もり、切断時に感じた"何か"——が彼を苦しめているようだった。


彼は私に式典への不参加を強く勧めた。絶対的な根拠はないが、直感的に危険を感じるという。

セリナ・ヴェルト、トーヴァ・ランジも同様に式典を辞退。バルド・エンロウのみが「記録者として見届ける」として参加を表明しているとのこと。


冒険者という、現場で"肌感覚"を頼りに生き延びてきた者たちの警告。これを軽視すべきではないと感じる。


*****


【最終記録:式典前夜】


日付:星暦0869年、第十二の月〈霜環期〉10日目


明日、式典。


蒼晶は既に会場へ運ばれた。


私は今夜、最後の点検に立ち会った。


結晶は、台座の上で静かに光っていた。


三個の結晶。


〈竜哭洞〉から追加採取されたものだ。


レオン・ヴァルド百人長率いる王立調査団が、二十日前に採取した。


彼の報告書には「中央結晶の成長速度が異常」「表面に亀裂を確認」と記されていた。


だが、それも「過度な懸念」として握りつぶされた。


**記録了/霜環期 第十二環刻**


=====================


【第二部・完】


=====================


*【編纂者注記】*


本報告書は、学術的警告が政治的圧力により無視された経緯を示す貴重な記録である。


報告者ルキア・メルディアンは、式典当日、学術院で最後のデータ整理中に王都崩壊に巻き込まれた。

事件後、現場で奇跡的に生還を果たした者たちの一人であったが、記憶の大部分に支障をきたしているとの事だった。

先日、事件に関する聞き取りに応じた際、ただ一度だけ、彼女はこう呟いたという。


「資料が、焼けていなければ……」


なお、星暦0866年の王立書庫火災については、現在も出火原因が特定されていない。同時期に複数の古文書館で竜関連のみならず多数の資料の紛失・盗難が相次いでおり、何らかの組織的関与が疑われている。


編纂者:辺境記録保管局・歴史編纂課

編纂日: 星暦0872年、第三の月〈再生期〉

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