【"竜の涙"事件に関する記録:第一部】報告者: 『山梢の探索士』リオ・ハーランド
*【採取任務報告書】*
報告者: 『山梢の探索士』リオ・ハーランド
(C級探索士/シルバーランク/Lv34/アースフォーカスギルド所属/技術派)
日付: 星暦0869年、第九の月〈深霧期〉18日目
任務: 北方禁足地〈竜哭洞〉外縁部鉱物調査および希少結晶採取任務/C級採取任務
依頼主: 北方学術院・自然鉱物調査課
提出先: 北方辺境ギルド第七支部
*同行者*
* 鉱石鑑定士: 『鉄瞳』バルド・エンロウ
(D級/シルバー/Lv27/ミネラロジスト連盟)
* 魔導士: 『灯火』セリナ・ヴェルト
(D級/シルバー/Lv29/ルーメン学派所属)
* 斥候: 『灰羽』トーヴァ・ランジ
(E級/ブロンズ/Lv21/ギルド新人)
*任務概要*
北方山系の地質再調査に伴い、禁足指定区域〈竜哭洞〉外縁部での希少鉱物採取を実施。依頼主の目的は"星光石"のサンプル収集。
[当該洞窟について]
* 禁足地指定理由:過去に崩落事故発生(星暦0855年、死者三名)
* 危険要因:魔素濃度の高さ(C級相当)
* 備考:禁足地指定の詳細な経緯は資料不足により不明。「地質的不安定性」との記載のみ
報酬: 基本1200金貨+素材査定分報酬(最大1800金貨)
*経過詳細*
①山脈南端・第一鉱脈帯(第一環刻)
外縁部の地層より"星光石"を多数採取。鉱床は安定しており、魔素反応は微弱。トーヴァが小型魔物"岩鼠"を駆除、被害なし。
この時点では通常の採取任務と変わりなし。
②〈竜哭洞〉外縁侵入(第三環刻)
バルドが魔力波計測にて高反応地点を検出。「こんな強い反応は初めてだ」との所感。
魔導士セリナの光照術により、淡青色に輝く結晶群を確認。
[発見時の観察記録]
* 形状:球状、直径約一腕半(成人男性の肘から指先ほど)
* 配置:壁面7個、天井3個、計10個
* 表面:鱗状の模様あり
* 音響:微弱な拍動音(周期:一環刻につき八拍)
* 温度:周囲気温より三温位高く、結晶表面は七温位高い
* 発光:淡青色、内部に光の粒が流動
[特記事項]
セリナ曰く「内部に流体反応あり。魔力が循環している」
バルドの見解「高濃度魔力を自己循環する希少鉱物。おそらく新種の魔生結晶」
当方の判断:未知の鉱物だが、学術的価値は高い。採取を決定。
③試料採取(第四環刻)
結晶群のうち安全な外縁部1個を切除採取。
[採取時の異変]
* 切断の瞬間、結晶から透明な液体が滲出
* 液体の性質:透明、微粘性、触れると指先に痺れ
* 空気温度が五温位上昇(計:周囲より八温位高)
* 魔素濃度急変(計測器の針が振り切れる)
* 洞窟奥より低周波の振動(共鳴)を確認
* 全結晶が同時に明滅**(約三回、二息ほどの間隔)
[同行者の反応]
* バルド:「連鎖反応だ。これは想定外」
* セリナ:「中に何かいる……感じる」
* トーヴァ:「やめてください、起こしちゃダメだ!」(理由不明の強い拒絶反応)
* 当方の判断:安全を優先し即座に撤収を決定。
④帰還(第六環刻)
特異結晶を封印布で包み、学術院へ搬送。
[運搬中の観測事項]
* 夜間、封印布越しに微弱な発光(二回確認)
* バルドの魔力計が不規則に反応
* 野営中、周囲の小動物(野兎、鳥、小獣)が結晶に近づこうとする行動(計五回阻止)
* セリナが夜間に「歌が聞こえる」と発言(魔力酔いの可能性あり)
特記: 帰路にて〈竜哭洞〉方向の発光を複数回視認。明滅パターンあり。
*成果*
* 星光石試料:十二個(納品済、査定額千四百金貨)
* 不明結晶試料(暫定名称:"蒼晶")一個採取、封印済み
* 魔素波形記録:拍動性パターン、生命波形との一致率七割弱
* 危険度評価:中(C級範囲内だが要注意)
報酬受領:合計二千六百金貨/全員に二千八百の経験値
*所見と提言*
不明結晶"蒼晶"は既知の鉱物と異なる特異な性質を示す。
[観測された特徴]
1. 自己発熱および温度恒常性
2. 周期的な魔力循環(生命波形類似)
3. 外部刺激への反応性(切断時の温度上昇、明滅)
4. 液体構造の内包
暫定分類:未知の"魔生結晶"
推定:高濃度魔力を自己循環する特殊鉱物。生命的特性を持つ可能性あるが、断定には至らず。
[警告事項]
* 採取時の異常反応(温度急上昇、共鳴現象)
* 封印下でも活性を維持
* 動物が引き寄せられる現象
[提言]
* 学術院による詳細調査が必須
* 次回調査はB級以上の編成を推奨
* 保管は厳重な封印下で実施すべき
* <**追加採取は慎重な判断を要する**>
[個人的所感]
採取の瞬間、結晶から滲出した液体の温もり、切断時の振動、そして同行者全員が感じた"違和感"
——これらは単なる鉱物の反応とは思えない。ただし、それが何を意味するのかは現時点では不明。
署名:『山梢の探索士』リオ・ハーランド
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*【日誌】*
日付:星暦0869年、第九の月〈深霧期〉18日目
場所:北方辺境・丸太作りの宿「白狐亭」
記録者:リオ・ハーランド
帰還後の体温が下がらない。あの洞窟の"空気"が、まだ肺の奥に残っている気がする。
セリナが言っていた。「あれは鉱石じゃない。息をしてた」
バルドは魔導学的に説明しようとした。「魔力の対流現象だ」と。だが、彼の手は震えていた。手袋を外したとき、指先が赤く腫れていた。
トーヴァは部屋に閉じこもったまま出てこない。晩飯も食べない。さっき様子を見に行ったら、窓から山の方を見つめていた。
「リオさん、あれまだ光ってます」
「……ああ」
「俺たち、とんでもないことしましたよね」
何も言い返せなかった。
*****
採取したとき、結晶から"液体"が出た。透明で、少し粘りがあって、触れると指先が痺れた。
だが、痺れより先に感じたのは——温もり、だった。
まるで血のように。
バルドは「魔力の凝固液」と記録した。魔法理学?的には、それが正しいのだろう。
だが、俺にはわかる。あれは、もっと別の何かだ。
*****
封印布越しに触れた蒼晶は、確かに温かかった。手に取った瞬間、自分の心臓の音と重なるような"鼓動"を感じた。
あれは錯覚じゃない。
確かに、あの結晶の中で何かが"生きて"いる。
だが——それが何なのかは、わからない。
鉱物が生きている?
そんなことがあるのか?
*****
今夜、宿の窓から山を見たら、〈竜哭洞〉の方向がぼんやりと光ってた。まるで呼吸するみたいに、明滅を繰り返していた。
セリナも見ていた。バルドも、トーヴァも。
誰も何も言わなかった。
ただ、皆同じことを考えていた。
**——あれは、探している**。
奪われた何かを、取り戻そうとしている。
*****
報酬は悪くない。だが、なんだろうな——胸が重い。
採ったのは鉱石じゃなく、"何かの一部"だった気がする。
誰かの大切なものを、奪ってしまった気がする。
明日、学術院に届ける。それで俺たちの仕事は終わりだ。
あとのことは、学者たちが何とかするだろう。
……そう信じたい。
だが、心のどこかで分かっている。
**これは、終わりじゃない。始まりだ。**
何かが、これから起きる。
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*【追記:深夜第十二環刻】*
眠れない。
窓の外を見ると、北の空が青白く光っている。
あの光の中に、何かが飛んでいる気がする。
大きな、翼を持った影。
……いや、気のせいだ。
気のせいであってくれ。
記録了/深霧期 第七環刻
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【補足記録:採取から三日後】
日付:星暦0869年、第九の月〈深霧期〉21日目
王都学術院に暫定魔生鉱物の蒼晶を引き渡した。
担当官は「素晴らしい発見だ」と喜んでいたが、俺たちの警告——採取時の異変、結晶の反応、液体の滲出——これらは報告書には記載されたが、口頭での補足説明は「冒険者特有の過剰反応」として軽く扱われた。
「魔力酔いによる錯覚でしょう」と一蹴された。
セリナが必死に説明した。「これは普通の鉱物じゃありません。何か、生命に近い——」
だが、担当官は笑って遮った。「それは魔生鉱物の特性です。珍しいことではありません」
*****
帰り道、セリナが泣いていた。
「信じてもらえなかった」
「仕方ない。俺たちは冒険者だ。学者じゃない」
「でも……」
バルドが静かに言った。「記録は残した。それで十分だ」
トーヴァは何も言わなかった。ただ、北の山を見つめていた。
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*【最終記録:採取から七日後】*
日付:星暦0869年、第九の月〈深霧期〉25日目
ギルドから連絡があった。
王都学術院が蒼晶の調査を継続するとのこと。詳細な報告は後日とのことだが、「極めて貴重な発見」として高く評価されているという。
報酬の追加支給もあるかもしれないとのことだが——俺は、もうあの結晶に関わりたくない。
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*【追記:二ヶ月後】*
日付:星暦0869年、第十一の月〈凍結期〉8日目
ギルドから式典への招待状が届いた。
「新暦記念式典に招待されました。蒼晶発見者として、エリーザ王太后殿下より表彰の旨」
式典は二ヶ月後、星暦0870年の第一の月〈新暁期〉1日目。
王都セレスティアで開催される――何事か。
聞けば「新王即位に祝し、王位継承の聖儀が厳かに執り行われます」との事。
招待された新暦記念式典は、その即位の儀式の後に催される。オマケの祭りだ。
セリナは「行きたくない」と即答した。
バルドは「記録者として参加する義務がある」と言った。
トーヴァは「行っちゃダメだ」と震えていた。
俺は——
決めかねている。
あの結晶を、もう一度見ることになる。
だが、それが正しいことなのか——
わからない。
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【追記:決断】
日付:星暦0869年、第十一の月〈凍結期〉15日目
俺は、式典への招待を辞退した。
理由は「北方での長期任務」と伝えた。
本当の理由は——
あの結晶の前に、もう立ちたくないからだ。
セリナとトーヴァも辞退した。
バルドだけは「記録者として参加する」と言った。
「誰かが、見届けなければならない」
彼の目は、何かを覚悟していた。
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以上、リオ・ハーランド 氏による記録である。
**【編纂者注記】**
本報告書は、後に「竜水晶事件」または「“竜の涙”事件」として知られる大惨事の最初の記録である。
報告者リオ・ハーランドは、竜水晶(※暫定名称:蒼晶)の発見者でありながら、式典を辞退したことで生存した数少ない関係者の一人とされる。
事件後、彼は冒険者を引退し、北方辺境の小村で隠遁生活を送っている。
取材の申し出は全て拒否している。
ただ一度だけ、事件から五年後に語った言葉が記録されている。
「俺たちは、何かを奪った。それが何だったのか、あの日まで気づかなかった。気づいたときには、もう遅かった」
編纂者:辺境記録保管局・歴史編纂課
編纂日:星暦0872年、第三の月〈再生期〉




