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冒険者の報告書  作者: 人生迷走グミ
竜の涙事件に関する記録
17/18

【"竜の涙"事件に関する記録:第一部】報告者: 『山梢の探索士』リオ・ハーランド

*【採取任務報告書】*


報告者: 『山梢の探索士』リオ・ハーランド

(C級探索士/シルバーランク/Lv34/アースフォーカスギルド所属/技術派)

日付: 星暦0869年、第九の月〈深霧期〉18日目

任務: 北方禁足地〈竜哭洞〉外縁部鉱物調査および希少結晶採取任務/C級採取任務

依頼主: 北方学術院・自然鉱物調査課

提出先: 北方辺境ギルド第七支部



*同行者*


* 鉱石鑑定士: 『鉄瞳』バルド・エンロウ

(D級/シルバー/Lv27/ミネラロジスト連盟)


* 魔導士: 『灯火』セリナ・ヴェルト

(D級/シルバー/Lv29/ルーメン学派所属)


* 斥候: 『灰羽』トーヴァ・ランジ

(E級/ブロンズ/Lv21/ギルド新人)



*任務概要*


北方山系の地質再調査に伴い、禁足指定区域〈竜哭洞〉外縁部での希少鉱物採取を実施。依頼主の目的は"星光石"のサンプル収集。


[当該洞窟について]

* 禁足地指定理由:過去に崩落事故発生(星暦0855年、死者三名)

* 危険要因:魔素濃度の高さ(C級相当)

* 備考:禁足地指定の詳細な経緯は資料不足により不明。「地質的不安定性」との記載のみ


報酬: 基本1200金貨+素材査定分報酬(最大1800金貨)



*経過詳細*


①山脈南端・第一鉱脈帯(第一環刻)


外縁部の地層より"星光石"を多数採取。鉱床は安定しており、魔素反応は微弱。トーヴァが小型魔物"岩鼠"を駆除、被害なし。

この時点では通常の採取任務と変わりなし。



②〈竜哭洞〉外縁侵入(第三環刻)


バルドが魔力波計測にて高反応地点を検出。「こんな強い反応は初めてだ」との所感。

魔導士セリナの光照術により、淡青色に輝く結晶群を確認。


[発見時の観察記録]

* 形状:球状、直径約一腕半(成人男性の肘から指先ほど)

* 配置:壁面7個、天井3個、計10個

* 表面:鱗状の模様あり

* 音響:微弱な拍動音(周期:一環刻につき八拍)

* 温度:周囲気温より三温位高く、結晶表面は七温位高い

* 発光:淡青色、内部に光の粒が流動


[特記事項]

セリナ曰く「内部に流体反応あり。魔力が循環している」

バルドの見解「高濃度魔力を自己循環する希少鉱物。おそらく新種の魔生結晶」

当方の判断:未知の鉱物だが、学術的価値は高い。採取を決定。



③試料採取(第四環刻)


結晶群のうち安全な外縁部1個を切除採取。


[採取時の異変]

* 切断の瞬間、結晶から透明な液体が滲出

* 液体の性質:透明、微粘性、触れると指先に痺れ

* 空気温度が五温位上昇(計:周囲より八温位高)

* 魔素濃度急変(計測器の針が振り切れる)

* 洞窟奥より低周波の振動(共鳴)を確認

* 全結晶が同時に明滅**(約三回、二息ほどの間隔)


[同行者の反応]

* バルド:「連鎖反応だ。これは想定外」

* セリナ:「中に何かいる……感じる」

* トーヴァ:「やめてください、起こしちゃダメだ!」(理由不明の強い拒絶反応)


* 当方の判断:安全を優先し即座に撤収を決定。


④帰還(第六環刻)


特異結晶を封印布で包み、学術院へ搬送。


[運搬中の観測事項]

* 夜間、封印布越しに微弱な発光(二回確認)

* バルドの魔力計が不規則に反応

* 野営中、周囲の小動物(野兎、鳥、小獣)が結晶に近づこうとする行動(計五回阻止)

* セリナが夜間に「歌が聞こえる」と発言(魔力酔いの可能性あり)


特記: 帰路にて〈竜哭洞〉方向の発光を複数回視認。明滅パターンあり。



*成果*

* 星光石試料:十二個(納品済、査定額千四百金貨)

* 不明結晶試料(暫定名称:"蒼晶")一個採取、封印済み

* 魔素波形記録:拍動性パターン、生命波形との一致率七割弱

* 危険度評価:中(C級範囲内だが要注意)


報酬受領:合計二千六百金貨/全員に二千八百の経験値



*所見と提言*


不明結晶"蒼晶"は既知の鉱物と異なる特異な性質を示す。


[観測された特徴]

1. 自己発熱および温度恒常性

2. 周期的な魔力循環(生命波形類似)

3. 外部刺激への反応性(切断時の温度上昇、明滅)

4. 液体構造の内包


暫定分類:未知の"魔生結晶"


推定:高濃度魔力を自己循環する特殊鉱物。生命的特性を持つ可能性あるが、断定には至らず。


[警告事項]

* 採取時の異常反応(温度急上昇、共鳴現象)

* 封印下でも活性を維持

* 動物が引き寄せられる現象


[提言]

* 学術院による詳細調査が必須

* 次回調査はB級以上の編成を推奨

* 保管は厳重な封印下で実施すべき

* <**追加採取は慎重な判断を要する**>


[個人的所感]

採取の瞬間、結晶から滲出した液体の温もり、切断時の振動、そして同行者全員が感じた"違和感"

——これらは単なる鉱物の反応とは思えない。ただし、それが何を意味するのかは現時点では不明。


署名:『山梢の探索士』リオ・ハーランド


=====================



*【日誌】*


日付:星暦0869年、第九の月〈深霧期〉18日目

場所:北方辺境・丸太作りの宿「白狐亭」

記録者:リオ・ハーランド


帰還後の体温が下がらない。あの洞窟の"空気"が、まだ肺の奥に残っている気がする。

セリナが言っていた。「あれは鉱石じゃない。息をしてた」

バルドは魔導学的に説明しようとした。「魔力の対流現象だ」と。だが、彼の手は震えていた。手袋を外したとき、指先が赤く腫れていた。


トーヴァは部屋に閉じこもったまま出てこない。晩飯も食べない。さっき様子を見に行ったら、窓から山の方を見つめていた。


「リオさん、あれまだ光ってます」

「……ああ」

「俺たち、とんでもないことしましたよね」


何も言い返せなかった。



*****


採取したとき、結晶から"液体"が出た。透明で、少し粘りがあって、触れると指先が痺れた。


だが、痺れより先に感じたのは——温もり、だった。


まるで血のように。


バルドは「魔力の凝固液」と記録した。魔法理学?的には、それが正しいのだろう。


だが、俺にはわかる。あれは、もっと別の何かだ。


*****


封印布越しに触れた蒼晶は、確かに温かかった。手に取った瞬間、自分の心臓の音と重なるような"鼓動"を感じた。


あれは錯覚じゃない。


確かに、あの結晶の中で何かが"生きて"いる。


だが——それが何なのかは、わからない。


鉱物が生きている?


そんなことがあるのか?


*****


今夜、宿の窓から山を見たら、〈竜哭洞〉の方向がぼんやりと光ってた。まるで呼吸するみたいに、明滅を繰り返していた。


セリナも見ていた。バルドも、トーヴァも。


誰も何も言わなかった。


ただ、皆同じことを考えていた。


**——あれは、探している**。


奪われた何かを、取り戻そうとしている。


*****


報酬は悪くない。だが、なんだろうな——胸が重い。

採ったのは鉱石じゃなく、"何かの一部"だった気がする。

誰かの大切なものを、奪ってしまった気がする。

明日、学術院に届ける。それで俺たちの仕事は終わりだ。


あとのことは、学者たちが何とかするだろう。


……そう信じたい。


だが、心のどこかで分かっている。


**これは、終わりじゃない。始まりだ。**


何かが、これから起きる。


=====================


*【追記:深夜第十二環刻】*


眠れない。


窓の外を見ると、北の空が青白く光っている。


あの光の中に、何かが飛んでいる気がする。


大きな、翼を持った影。


……いや、気のせいだ。


気のせいであってくれ。


記録了/深霧期 第七環刻


=====================


【補足記録:採取から三日後】


日付:星暦0869年、第九の月〈深霧期〉21日目


王都学術院に暫定魔生鉱物の蒼晶を引き渡した。


担当官は「素晴らしい発見だ」と喜んでいたが、俺たちの警告——採取時の異変、結晶の反応、液体の滲出——これらは報告書には記載されたが、口頭での補足説明は「冒険者特有の過剰反応」として軽く扱われた。


「魔力酔いによる錯覚でしょう」と一蹴された。


セリナが必死に説明した。「これは普通の鉱物じゃありません。何か、生命に近い——」


だが、担当官は笑って遮った。「それは魔生鉱物の特性です。珍しいことではありません」


*****


帰り道、セリナが泣いていた。


「信じてもらえなかった」


「仕方ない。俺たちは冒険者だ。学者じゃない」


「でも……」


バルドが静かに言った。「記録は残した。それで十分だ」


トーヴァは何も言わなかった。ただ、北の山を見つめていた。


=====================


*【最終記録:採取から七日後】*


日付:星暦0869年、第九の月〈深霧期〉25日目


ギルドから連絡があった。

王都学術院が蒼晶の調査を継続するとのこと。詳細な報告は後日とのことだが、「極めて貴重な発見」として高く評価されているという。


報酬の追加支給もあるかもしれないとのことだが——俺は、もうあの結晶に関わりたくない。


=====================


*【追記:二ヶ月後】*


日付:星暦0869年、第十一の月〈凍結期〉8日目


ギルドから式典への招待状が届いた。


「新暦記念式典に招待されました。蒼晶発見者として、エリーザ王太后殿下より表彰の旨」


式典は二ヶ月後、星暦0870年の第一の月〈新暁期〉1日目。

王都セレスティアで開催される――何事か。

聞けば「新王即位に祝し、王位継承の聖儀が厳かに執り行われます」との事。

招待された新暦記念式典は、その即位の儀式の後に催される。オマケの祭りだ。


セリナは「行きたくない」と即答した。


バルドは「記録者として参加する義務がある」と言った。


トーヴァは「行っちゃダメだ」と震えていた。


俺は——


決めかねている。


あの結晶を、もう一度見ることになる。


だが、それが正しいことなのか——


わからない。


=====================


【追記:決断】


日付:星暦0869年、第十一の月〈凍結期〉15日目


俺は、式典への招待を辞退した。

理由は「北方での長期任務」と伝えた。


本当の理由は——


あの結晶の前に、もう立ちたくないからだ。

セリナとトーヴァも辞退した。

バルドだけは「記録者として参加する」と言った。


「誰かが、見届けなければならない」


彼の目は、何かを覚悟していた。


=====================

以上、リオ・ハーランド 氏による記録である。


**【編纂者注記】**


本報告書は、後に「竜水晶事件」または「“竜の涙”事件」として知られる大惨事の最初の記録である。

報告者リオ・ハーランドは、竜水晶(※暫定名称:蒼晶)の発見者でありながら、式典を辞退したことで生存した数少ない関係者の一人とされる。


事件後、彼は冒険者を引退し、北方辺境の小村で隠遁生活を送っている。

取材の申し出は全て拒否している。


ただ一度だけ、事件から五年後に語った言葉が記録されている。


「俺たちは、何かを奪った。それが何だったのか、あの日まで気づかなかった。気づいたときには、もう遅かった」


編纂者:辺境記録保管局・歴史編纂課

編纂日:星暦0872年、第三の月〈再生期〉

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