報告者:『紅鎖の戦斧士』ガルドラン・ヴォルク 4枚目
*【密命調査任務報告書】*
報告者:『紅鎖の戦斧士』ガルドラン・ヴォルク
(B級戦士/ゴールドランク/Lv57/ブルズハウンド傭兵団出身/独立登録/保守派)
日付:星暦1028年、第十の月〈灰風期〉17日目
任務:禁呪流通経路調査・裏市場潜入任務(ギルド本部直属命令)/B級単独
依頼主:バルハーン冒険者ギルド本局・調査課(密命)
提出先:同上(内部閲覧限定)
*同行者*
なし(単独任務)
※一時協力者あり:情報屋『影写し』シル・ベナム(未登録/裏商会系/D級戦闘力相当)
*任務概要*
先日発生した「変異山賊団〈黒砂の笑い骸〉」事件に使用された呪油・香煙の出所を追跡。
市内裏市場“砂影商環”において、禁呪素材の不法取引が存在するとの情報を得る。
任務内容:流通経路の特定・証拠収集・関係者の生捕り(可能であれば)
報酬:秘密報酬7000金貨(成功時のみ支払)。
*経過詳細*
1. 潜入準備(第八刻)
偽装身分:傭兵商会“イラル傭兵供給組合”代表代理。
情報屋シル・ベナムを通じ、商環幹部と接触手配。
変装:通常装備の鎖帷子を外し、軽装皮外套に変更。
2. 商環潜入(第九刻)
“砂影商環”はバルハーン旧市街地下、香料倉庫の裏路地に存在。
販売品目の中に“感応呪油”および“精神干渉符”を確認。
出所は北方都市グレムライン商連。
商環管理人“白面のデロス”が取引を取り仕切り。
交渉中、背後から襲撃あり。シル負傷。
3. 戦闘・制圧(第十刻)
敵構成人数約10。護衛傭兵と魔導徒弟混成。
短剣・呪符併用型。斧戦闘にて制圧。
管理人デロスを拘束し、呪油配合書と販売記録を押収。
4. 撤収(第十一刻)
ギルド調査班に資料を引き渡し、裏市場は翌朝封鎖。
シル・ベナムは軽傷、治療の上で消息不明。
*成果*
・禁呪素材“感応呪油”および“精神干渉符”の販売経路特定。
・出所:北方都市グレムライン商連 → 砂影商環(中継) → 山賊勢力へ流出。
・押収品:[呪油配合書]1冊/[禁符登録台帳]1冊/[取引印章(蛇型)]1個。
・報酬:7000金貨。
*所見と提言*
“砂影商環”の背後に、複数ギルド関係者の関与が疑われる。
取引印章の刻印は旧王国紋章の変形版、正規流通とは考えにくい。
現場で確認された“感応呪油”は人体実験用試作品。
今後、訓練院やギルド内部にも汚染が及ぶ可能性あり。
上層部による再調査を要請。
署名:『紅鎖の戦斧士』ガルドラン・ヴォルク
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*【日誌】*
日付:星暦1028年、第十の月〈灰風期〉17日目
場所:バルハーン旧市街・酒場「灰の匙」
記録者:ガルドラン・ヴォルク
潜入ってのは、性に合わねぇ。
嘘をついて、笑って、握手して、斧を隠して――性根が腐る。
だが、あのガキどもを襲った山賊の“油”がどこから来たか、知らねぇわけにはいかなかった。
シルって女情報屋、口は軽いが目は鋭い。
背中の刺青がやたら色っぽかったのは認めるが、
取引の最中に敵が来るとは思わなかった。
あいつ、血を流しながら笑ってた。「ほら、言ったでしょ。匂いで分かるって」。
確かに、あの呪油の匂いは人間の腐臭に似てた。
デロスって野郎の顔は一生忘れねぇ。
面の下は焼けただれた皮膚で、笑うと音がした。
鈴の音みたいな、耳障りな音だ。
あいつが言った。「“感応”は戦を豊かにする。恐怖と快楽は紙一重だ」
……そりゃあ、戦を知らねぇ奴の言葉だ。
戦場じゃ快楽なんかいらねぇ。ただ“生きること”が痛いだけだ。
斧を振り抜いたあと、静かだった。
血の音も、商環のざわめきも消えた。
代わりに、地下の香料倉庫に溜まってた花の匂いが広がった。
血と花の匂い。どっちも似たようなもんだ。
報告は済んだ。
だが上の連中がどう動くかは知らねぇ。
裏で金を貰ってる奴もいるだろう。
だからこそ、俺は現場に戻る。
汚れた連中の血を、斧で洗うのが俺の仕事だ。
酒は苦い。
だが、苦い酒ほど、今夜はうまい。
――“真実ってやつは、甘くねぇ”
昔の隊長がよく言ってた。今なら少しわかる。
記録了/灰風の刻終わり




