第95話 並び立つために
まぶたの裏がじんわりと明るくなり、重たい意識が浮かび上がる。
湿った土と草の匂い、風が木々を揺らす音――現実の音が耳に届く。
「……ん……」
かすれた声が漏れた。
まぶたを開けると、木漏れ日が視界に差し込み、淡い金色の光が揺れていた。
(……ここは……森……? あの白い空間じゃない……)
安堵が胸に広がり、体を起こそうとした瞬間。
「動くな。まだ傷が癒えていない」
低く落ち着いた声が近くで響いた。
驚いて振り向くと、紫苑さんが木の幹にもたれかかって座っていた。
白い息を吐き、わずかに濡れた額の髪を払う。
彼の肩口の服は裂け、血が滲んでいる。
「紫苑さん……!」
名前を呼んだ途端、胸の奥からこみ上げてくるものがあった。
紫苑さんはちらりとこちらを見て、ほんの少し口元をゆるめる。
「……無事でよかった」
その一言が胸を貫いた。
安堵と、恐怖と、情けなさが一気に込み上げ、視界が滲む。
「……私……っ、本当に……怖かった……!」
声が震え、涙が頬を伝う。
あの白い空間、最高神代理の冷たい眼差し、動けない体。
思い出すだけで、心臓が早鐘を打つ。
紫苑さんは無言のまま、私の肩に手を置いた。
大きくて、温かい手。
その感触だけで、張りつめていたものがほどけていく。
「……強がるな。怖いなら怖いと、言えばいい」
低い声が、耳の奥に静かに響く。
「……でも……私……自分が強いと思っていた……!
皆と訓練して、少しは戦えるって……そう思ってたのに……!」
唇を噛む。
あの冷たい瞳が脳裏に焼き付いて離れない。
「全然敵わなくて……あんなに怖くて……悔しくて……!」
胸の奥がじりじりと熱くなる。
涙を拭い、顔を上げた。
「だから……強くなりたい。もう二度と、あの人に負けないくらい……!」
紫苑さんの瞳が一瞬だけ柔らかく揺れ、口元がわずかに緩む。
「……でも……私……自分が強いと思っていた……!
皆と訓練して、少しは戦えるって……そう思ってたのに……!」
唇を噛む。
あの冷たい瞳が脳裏に焼き付いて離れない。
「全然敵わなくて……あんなに怖くて……悔しくて……!」
胸の奥がじりじりと熱くなる。
涙を拭い、顔を上げた。
「だから……強くなりたい。もう二度と、あの人に負けないくらい……!」
紫苑さんの瞳が一瞬だけ柔らかく揺れ、口元がわずかに緩む。
「……いい目だ」
その言葉は、静かだけど力強かった。
胸の奥に落ちて、鼓動が跳ねる。
口を開きかけたが、何も言えず、ただ強く頷いた。
紫苑さんはゆっくり立ち上がり、周囲を警戒する。
「今は休め。これで終わりとは思えない……」
その背中が一瞬、遠く見えた。
でも、今なら追いかけられる気がする。
私は深く息を吸い込み、拳をぎゅっと握った。
(――次は、私が……! 絶対に紫苑さんと並んで戦う……!)
木々の間から吹き抜ける風が、遠くで迫る嵐の気配を運んできた。




