第89話 冷たい光の檻
刀を抜き放ち、私は叫んだ。
「うるさいっ!!!!」
刃が光を裂き、一直線に最高神代理へと迫る。
けれど――。
「……愚かだな」
その声と同時に、指先がわずかに振るわれた。
空気がねじれ、次の瞬間、私は地面に叩きつけられる。
まるで膝を折らされるように、強制的にひざまずいた姿勢で。
「……っ、く……!」
全身に重圧がのしかかり、呼吸すらままならない。
刀を振り上げようとしても、まるで見えない鎖に縛られたようで動かない。
最高神代理の瞳が、冷たく私を射抜いた。
「力の差を感じただろう。お前はまだ“人”に過ぎぬ」
その一言に、胸の奥がざわめく。
私は必死に睨み返す。
「……私は……天禰さんとは違う!!」
声を張り上げるが、指先は震えていた。
すると彼は、まるでため息のように首を振る。
「人間の分際で天禰様の名を口にする事だけでも万死に値するが……まあ、いいだろう」
次の瞬間――。
冷たい光が視界を覆い、何かが私の胸の奥に入り込んでくる。
心臓を素手で掴まれたような感覚に、息が詰まった。
(……な、に……これ……っ……!)
頭の中に、映像のように私自身の心が浮かび上がる。
紫苑さんの姿。
拒絶されたあの瞬間の痛み。
けれど、それでも傍にいたいと願う気持ち。
(紫苑さん……!)
そして、前世を知りたいと葛藤する自分。
人間でありたいと願うのに、もし大切な人を守るためなら神になることすら恐れていない自分。
「やめて……! 見ないで……!!」
必死に頭を振る。
でも、心の奥底までさらされる感覚から逃げられない。
最高神代理の声が響いた。
「やはり、あの男に惹かれるか……忌々しい……だか、お前も心の奥底で全てを知りたいと願っている」
(違う……違う……!)
否定の声を心で叫ぶ。
けれど、心の奥に潜んでいた思いが露わにされ、反論の言葉は喉の奥で震えるだけだった。
「安心しろ。その苦悩もすぐに終わる……復活の儀をとげれば、お前は安らかな眠りにつき……永遠に目覚める事はない……それまで大人しくしている事だ、人間のお前では何も出来ない」
その宣告とともに、足元の床が開き、闇が広がっていく。
体がふっと沈み込むように引きずられる。
冷たく、孤独な空間へ。
「……いやだ……!」
必死に刀を握り直す。
それだけが私の存在を証明するようで、絶対に手放したくなかった。
(紫苑さん……皆……!たすけて……)
体がふっと沈み込むように引きずられる。
冷たい空気が肌を刺し、床の感触が遠のく。
耳を覆うような静寂の中、呼吸が浅くなるのを感じた。
目の前の光がゆっくり吸い込まれ、視界は闇に溶けていく。
最後に残ったのは、刀の冷たい感触と、胸の奥に灯る小さな炎――絶対に屈しないという意志だけだった。
そして私は、静かに幽閉された。




