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第8話 神の囁き、封じられた記憶

意識が遠のく中、誰かに抱き上げられる感覚があった。

⸺冷たいはずの手が……あったかい……。

(……あったかい……誰……?)


「……まだ……だ」

微かに耳元で囁かれる。

その声は冷たくて、でもどこかで……苦しそうだった。

深い闇の中で、別の声が響く。

『……目覚めよ……』

(……誰……?やめて……やめてよ……っ!)

『思い出すのだ……“天音”。お前の本当の名を……お前の、本当の力を……』

無機質で冷たいのに、哀しみが滲むその声は、鋭い刃で心を削るようだった。

(やだ……いや……っ!)

『抗うな……お前こそが……この世界を……』

(やめて……やめて……っ!!)

頭の奥が軋むように痛む。

何かが、脳裏に刻み込まれようとしていた。

(……怖い……怖い……誰か……助けて……)


ゆっくりと、闇の底から浮かび上がるように意識が戻ってくる。

(……ここ……どこ……?)

重たい瞼を開けると、見慣れない天井が広がっていた。

部屋全体が淡い白色の光に包まれ、病室のようにも見える。

(……私……まだ、生きてる……?)

安心と同時に、胸の奥がズキリと痛んだ。

(……私……何をしたの……?)

腕を動かそうとすると、びりびりと痺れる感覚が走り、思わず顔をしかめる。

視界の奥で、ゆっくりと近づいてくる影があった。

「……起きたか」

低く静かな声。

顔を向けると、椅子に腰掛けた紫苑さんがいた。

普段と変わらない無表情だけど、その瞳の奥に……疲労と、微かな痛みが滲んでいた。

「……紫苑、さん……」

声が掠れる。喉が痛くて上手く喋れない。

紫苑さんは立ち上がり、ベッド脇のカップにストローを差し出してきた。

「飲め、少しはマシになるだろう」

素直にストローを咥えると、冷たい水が喉を潤していく。

少しだけ、息が楽になった。

「……ありがとうございます……」

沈黙が落ちる。

紫苑さんは黙って私を見下ろしていた。

その瞳に射抜かれるようで、胸の奥がざわつく……。


「……私……何を……したんですか……?」

恐る恐る尋ねると、紫苑さんは視線を逸らし、短く息を吐いた……。

「……今は、まだ知らなくていい……」

何か言いかけた紫苑さんは、言葉を飲み込み、僅かに眉を寄せる。

「あの力は……あまり使うな……」

紫苑さんの瞳に、冷たい光が宿る。

(……どうして……?紫苑さん……何を隠してるの……?)


突然頭の奥で、あの無機質な囁き声が蘇る⸺。

『そうだ……お前は……神なのだ……』

(……やめて……お願い……やめて……っ!)

『……目覚めよ……天音……』

全身が震える。

ベッドのシーツを握りしめる手に、力が入った。

「……怖いです……あの時……自分が自分じゃないみたいでした……」

震える声で呟くと、紫苑さんは僅かに目を細めた。

「……怖がるのは当然だ」

その声があまりに優しくて、胸が苦しくなる。

紫苑さんはそっと私の頭に手を置いた。

冷たいはずの手が、優しくて、涙が溢れそうになる……。

「……お前は……」

紫苑さんは言葉を切り、真っ直ぐ私を見つめた。

「……いい。兎に角身体を休めろ……体調が戻り次第、訓練を再開する」

その瞳は、冷たいけれど……

ほんの少しだけ、哀しそうに揺れていた。


(……紫苑さん……)




【お知らせ】

スランプや私生活で止まっていた更新を再開しました。内容や雰囲気も一から見直して、より濃く切なく描いていきます。

今後更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです!

フォロー・コメント・♡が励みになります!!


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