第79話 紫苑と二人、揺れる心
仲間たちは、一足先に本部へ戻っていった。
紫苑さんは「天音が落ち着いてから戻る」と言って、私のそばに残ってくれた。
……二人きりになると、急に心臓の鼓動が早まる。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った現場。冷たい風が吹き抜ける音だけが耳に残って、余計に沈黙が際立っていた。
私は深く息を吸い込もうとしたけれど、肺の奥がきゅっと縮んで、上手く吸えなかった。
「……紫苑さん」
気づけば名前を呼んでいた。でも、その先の言葉が続かない。
紫苑さんは、ただ黙って私を見つめている。そのまなざしは揺らぎもせず、逃げ場を与えてくれないくらい真剣で――思わず視線を落としてしまった。
「さっきは……ごめんなさい。私のせいで、みんなに迷惑を……」
声にした途端、胸がずしんと重くなる。
あの瞬間、私は私じゃなくなった。自分で制御できない力に飲み込まれて……仲間を傷つけかけた。
「……違う」
紫苑さんの低い声が、私の言葉を切り裂いた。
「お前の意志じゃなかった」
思わず顔を上げる。
紫苑さんの瞳は、夜の闇よりも深いのに、不思議とそこには光があった。私を突き放すんじゃなく、受け止めようとしてくれる光。
「……でも、また同じことをしてしまったら……今度は、みんなを……」
喉が詰まって、声が震えた。胸の奥に溜まっていた恐怖と後悔が、堰を切ったように溢れ出してくる。
紫苑さんは、私の肩に手を置いた。その手は驚くほど大きくて温かい。
「その時は、俺が止める。何度でも、必ず」
迷いのない声。力強い眼差し。
その全てが、私をここにつなぎ止めてくれている気がした。
視界がにじんで、思わず瞬きをする。
……泣きたくなんてなかったのに。
「……ありがとう」
小さく呟くと、声は震えていた。けれど、紫苑さんの言葉に支えられて、心の奥の恐怖が少しずつ薄れていくのを感じた。
今はただ――紫苑さんがそばにいてくれることが、何よりの救いだった。




