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第76話 堕ちゆく囁き

気づけば、私の周囲は血と光の嵐だった。

切り伏せた天使の残骸が散乱し、空気は焦げた匂いで満ちている。

それでも、黒い光は衰えず、私の腕を、胸を、全身をさらに熱く膨らませていた。


――まだ……足りない。

――もっと、全部、奪われる前に叩き潰す。


その時、視界の端に動く影。

紫苑……そして仲間たちが駆け寄ってきていた。


「天音、やめろ! 戻れ!!」


紫苑さんの声は、どこか震えている。

それでも、私には届かない。

届くはずもない。

黒い光の中、私はもう誰の声も聞こえなかった。


その瞬間、頭の奥で声が響く――冷たく、魅惑的な声。


『ふふ……このまま堕ちてしまうのもまた、一興……さあ、私の所まで堕ちてきて……』


前に夢で聞いたあの声が、私の心に直接入り込む。

甘美でいて残酷、私を切り裂きながらも抱きしめるような声音。

黒い光はさらに膨れ上がり、暴走を加速させる。

怒りも絶望も、もう自分のものではない。

ただ、優しく囁く声の渦に身を任せ、殺戮を続けるのみ。


刃を振るえば、仲間も一瞬にして吹き飛ばされる。

目の前の存在が誰であろうと、関係ない。

パパを奪った者、世界を歪める全て――ただ斬るだけ。


「……誰も、私を止められない……!」


無表情のまま、私は刃を振るい続ける。

胸の奥でわずかに残った自我の声も、黒光と先代最高神の声に飲み込まれ、消えていく。


仲間の叫びも、怒鳴り声も、叫びも、もう届かない。

私は――“天音”ではなく、ただの殺戮者となった。


黒光の中で、私は止まらない。

――パパを奪った存在を。

――“この世界そのもの”を。

――そして、闇の中から手招きする声の誘いに身を委ねる存在として。


『堕ちろ……天禰……いや、天音……』

その囁きは甘い毒。

抗う術など、最初から許されていないのだと悟らされる。


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