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第75話 喪失と暴走

足元には、砕け散った羽根と血飛沫のような光が散乱していた。

ついさっきまで立ちはだかっていた人型の天使は、もう動かない。

けれど、勝利の実感はどこにもなかった。


――パパを……助けられなかった。


胸にぽっかりと穴が開いていく感覚。

その虚ろな空白を埋めるように、黒い光が全身を這い回っていく。

呼吸も鼓動も、自分のものじゃないみたいだった。


(どうして……私じゃ……ダメだったの?

 どうして……救えなかったの……?)


熱くなる視界。込み上げる涙を振り払う間もなく、ざわりと周囲の空気が震えた。

数え切れないほどの羽音。

次から次へと、新たな天使たちが空を覆い尽くす。


白い群れ――純粋で、無垢なはずの存在。

けれど今の私には、パパを奪った敵にしか見えなかった。


「……ッ」


声をあげたつもりだったのに、何も聞こえなかった。

代わりに口元から溢れたのは、黒い光の吐息。


次の瞬間、身体が勝手に動いていた。

剣を握る手は重いのに軽い。

自分じゃない“何か”が、私の中で暴れている。


――斬れ。

――壊せ。

――奪われる前に奪え。


頭の奥で響く声に従うように、私は群れへと飛び込んだ。


羽が裂け、血のような光が散り、悲鳴が弾ける。

剣筋は淀みなく、斬撃は容赦なく。

右から迫る一体の首を刎ね、振り向きざまに二体目の胸を貫いた。

背後から掴もうとした腕を逆に切り裂き、振り下ろした刃で地面ごと三体を薙ぎ払う。


気づけば、息も乱れていない。

心も、震えていない。

涙も、もう出ない。


ただ、無表情に。

ただ、機械のように。


私は――殺していた。


「……もっと」


口から漏れたのは、自分でも知らない声だった。

それは祈りではなく、ただの欲望。

もっと、もっと斬り裂きたい。

この黒い渇きを満たすために。


仲間の叫びが遠くで聞こえた気がした。

けれど、私の耳には届かない。

私はすでに“私”ではなく、ただの殺戮者へと堕ちていた。


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