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第71話 未知なる二刀の天使

「パパ……!」


私の瞳が潤む。

わずかに息を乱しながらも、自宅の中で仕事をする父の姿を見つめていた。

まだ生きている――その事実が胸を満たし、足が自然と前へと進む。


「待っていて……今、助けるから」


伸ばしかけた手。

その瞬間だった。


「……っ、だめ!」


背後で震える声が響く。

振り返ると、いつも穏やかな千歳さんが蒼白な顔をしていた。

その肩が細かく震え、潤んだ瞳が虚空を見据えている。


「来る……恐ろしいものが……もう、すぐそこに……!」


張り詰めた空気。

次の瞬間、風が裂けるような音と共に、黒い影が地に降り立った。


「……人型……?」


八雲さんが息を呑む。

現れたのは、長身の“天使”だった。

両手に携えた二振りの剣は白銀に輝き、その瞳は無機質に光を宿している。

その圧だけで場の温度が数度下がったかのようだった。


「……見たことがない型だな」

低く呟いたのは八雲だ。無表情ながら、目の奥に警戒の色が宿っている。


「……今までの天使とは、違う……全員警戒!!!」

桔梗の声も硬い。銃を構える手に汗が滲んでいた。


「私の視界でも……先が読めません……!」

千歳の声は震え、未来視さえ阻害される異様さを告げていた。


次の瞬間、二刀流の天使が動いた。

まるで瞬間移動したかのような速度。

八雲が双剣で受け止めるも、衝撃で大地が裂ける。


「ぐっ……!」


桔梗の銃弾が飛ぶ。だが、撃ち抜かれた胸部の穴は、瞬時に肉が蠢いて塞がる。


「再生……!?」

驚異的な再生能力に私達はぼう然とする。


「ならば──」

八雲が空間を歪ませ背後から斬撃を叩き込む。

だが、胴を断たれたはずの天使は、首だけをねじり八雲を睨んだ。

肉が繋がり、刃傷はなかったことのように消えていく。


「……聴いてない……?!」


「八雲、下がれ!」

桔梗が結界を張る。だが双剣が閃いた瞬間、光壁は紙のように裂けた。


圧倒的な力。

圧倒的な再生。


「……どうすれば……」


私は動けず、立ち尽くす。

感じた事のない恐怖を全身が襲う。

(戦わなきゃ……パパを……皆を守らなきゃ……)


目の前にいるのに、手を伸ばせば届く距離にパパがいるのに。

思いとは裏腹に足はすくみ、一歩も動けない。


胸を焼くのは恐怖か、それとも焦燥か。


――パパを助けたいのに。

――このままじゃ、誰も救えない。


握りしめた拳が震える。

耳を劈く剣戟の音。

そして、迫り来る絶望。


「戦うんだ……!私が守るんだ!!」


その叫びは、戦場の轟音にかき消されていった。

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