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第65話 前世の邂逅 ⸺凛子視点⸺

――胸の奥が、不意にざわめいた。

戦いの最中でもなければ、誰かを癒しているわけでもない。けれど、脈打つ鼓動と共に、まるで誰かの声が呼び覚ますように、古い景色が浮かんでくる。


(……これは……記憶?懐かしい……)


眩しい光に包まれた場所。

白く澄んだ大理石の回廊。そこに立つのは、今の私ではない。長い衣をまとい、手には薬壺を携えている――私は神界の医官だった。


「医官凛子、診察を頼む」

名を呼ぶ声がする。振り向けば、そこにいるのは兵の神々。傷ついた仲間を支え、私の元へ運んでくる。

私は静かに頷き、彼らを癒す。手をかざせば光があふれ、裂けた肉も、失われかけた命も、ゆっくりと元へ戻っていく。


――その姿を、優しく見守る人がいた。


「……やっと会えた、凛子」


振り返った先にいたのは、黄金の光を纏う女性。

澄んだ瞳に決意を宿し、けれどどこか儚げに笑うその人の名を、私は忘れていない。


天禰――最高神だった人。


「あなたは……」

声を出そうとした瞬間、景色が揺らぐ。断片が散り、私は夢の中で彼女と対峙していた。


天禰は静かに、けれど真剣な眼差しで私を見ていた。

「凛子……あなたは、ずっと変わらない。人を癒し、支えるその優しさで」


「……天禰様……私は……」

言葉が詰まる。胸が熱くなる。なぜだろう、懐かしさと同時に、涙があふれそうで。


天禰は微笑んだ。

「これから、天音は幾多の苦難を越えなければならない。彼女は揺れる心を抱きながら、それでも前に進む。……だから、どうか支えてあげて。あなたにしかできない形で」


私は息を呑んだ。

(……やっぱり、天音ちゃんは……)

なんとなくではあるが、予想していた。

天音ちゃんが使った不思議な力⸺。

懐かしくも切ない気持ちが胸の奥から湧き上がってくるのを感じてた。


天禰の声は温かく、それでいて哀しみを含んでいた。

「凛子。私の代わりに――あの子を、よろしくお願いします……」


その瞬間、景色が砕け散る。

目を開けば、見慣れた天井があった。

周囲には、いつもの自室の光景が広がっていた。


けれど、胸の奥には確かに残っていた。


――私は前世、神界の医官だった。

――そして、天禰様に託されたのだ。


(……ええ、必ず……天音ちゃんを支えてみせます)


私は強く拳を握りしめた。


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