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第64話 嘘のない未来への約束

静かな時が訪れていた。

戦いの喧噪が遠ざかり、ただ光の粒子だけが漂っている。


凛子さんの前に立つ陸さんは、淡く透きとおるような姿となっていた。

すでに“生”を離れ、あるべき場所へ還ろうとしているのだと分かる。


凛子さんの腕の中で横たわる陸さんの手を、凛子さんは震える指で強く握りしめている。


「……ごめんね、陸くん。私は……ずっと、あなたに嘘をついてきたの」

その声は、今にも消えてしまいそうなほど小さい。

でも、必死に言葉を絞り出そうとする気持ちが伝わってきて、聞いている私の胸まで痛んだ。


嘘——。

凛子さんだからこそ……いや、人なら一度はついた事のある……優しい嘘⸺。

陸さん心を守る為についた嘘。

その重みを抱えてきたのは、きっと凛子さん自身も同じだったはず。

それでも、子どもを守るために選んだ言葉だったのだろう。


けれど、陸くんはふわりと微笑んだ。

「うん……知ってたよ。凛子お姉ちゃんが嘘ついてること」


「え……?」

凛子さんの瞳が大きく揺れる。


「でもね……優しい嘘だったから。ぼくは、ぜんぜん嫌じゃなかった」

かすれた声なのに、不思議とあたたかくて。

その一言に、凛子さんの瞳から堰を切ったように涙が零れ落ちた。


「陸くん……」

「ありがとう。ぼくに……最後まで、生きる勇気をくれて」


小さな手が、凛子さんの指をぎゅっと握り返す。

その光景に、私はただ息を呑んで見守るしかできなかった。


「次はね……丈夫な体に生まれるよ」

「……え?」


凛子さんが顔を上げると、陸はまっすぐな瞳で続けた。

「そしたら……いっぱい走って、いっぱい遊んで……凛子お姉ちゃんと、また一緒に笑うんだ」


私は胸が熱くなった。

幼い願いなのに、どうしてこんなにも強く、優しい言葉なんだろう。


「約束、だからね……」

その小さな声を、凛子さんは泣きながら何度も頷き、受け止めていた。


僅かな時間でも、二人にしてあげようと私は一歩二歩と後ろへ下がる。


――その時。

かすかな雑音が耳に届いた。


「……あま……ね……」


声? 思わず辺りを見回すと、戦いの最中に落ちていた小さな金属片が目に入った。

……凛子さんに預けていた通信機。


慌てて拾い上げると、紫苑さんの低い声が響いた。

『天音、聞こえるか』


「……紫苑さん!」

『無事か』

「はい……! 何とか……」


涙がこぼれそうになる。

戦いが終わった、その安堵の中で。


紫苑さんの次の言葉は、短くも胸に沁みた。

『……よくやった』


喉が詰まって返事が遅れる。けれど、確かに頷きながら「ありがとうございます」と答えた。

仲間の声も次々と重なる。

「おーい天音ちゃん大丈夫ー?今いくからね!」

「心配したのよ、馬鹿」

「天音!今行くかな!!」


……涙と笑顔が混じって、胸がいっぱいになる。


私は通信を終えて、再び凛子さんと陸さんのもとへ戻った。

陸さんの身体はもう、光となって天へ還ろうとしていた。


「……陸さん」

「……お姉ちゃんもありがとう!お姉ちゃんの光凄く温かかったよ!」


最後にこちらへ視線を向け、陸さんは穏やかな顔のまま、光となって消えていった。

その輝きは一瞬夜空を照らし、そして静かに消えた。


「……陸くん……」

隣で凛子さんがそっと涙をぬぐう。私はただ、その肩を支えることしかできなかった。


――やがて。

響く足音と共に、仲間たちが駆けつけてきた。

紫苑さんを先頭に、絢華さんも水輝さんも、一鉄さんも。

いつもの顔が揃っただけで、胸がふわりと軽くなる。


「全員、無事か?」紫苑さんが短く確認する。

「うん……なんとかね」絢華さんが苦笑し、私の頭を軽く小突いた。

「天音ちゃん、よく頑張ったね!」水輝さんがニカッと笑う。

「天音!今回も大活躍だな!」

一鉄さんが、私の肩を叩きながら豪快に笑う。


「皆……ごめんなさい!勝手に居なくなって……」

凛子さんが、皆の前で頭を下げる。

「凛子、次はない……無事ならそれでいい」

「次は、私も混ぜてよね」

紫苑さんや桔梗さんが、凛子を小突きながら笑っている。

「……ありがとう」

凛子さんも涙を拭きながらも、優しく笑っていた。


戦いの余韻に包まれたまま、それでも私たちは互いに顔を見合わせて、自然と笑みを浮かべる。

辛さも痛みも、こうして皆がいることで、少しずつ溶けていくように感じた。


廃病院を出て、空を見上げると夜空には星が瞬いている。

その光を見上げながら、私は心の中で強く誓った。


――これからも、みんなと共に。


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