第63話 輪廻の光
廃病院の床が振動するほどの衝撃が、私の全身に伝わる。陸の鎌が光を切り裂き、黒い残光が闇に裂け目を作った。足を踏み込み、反撃するも、圧倒的な力に押される。
「くっ……まだ、負けられない……!」
呼吸が乱れ、腕に伝わる衝撃に体が震える。何度もよろめきそうになりながら、私は神気を掌に集中させる。
後方から微かな声が聞こえた。
「天音ちゃん……!」
凛子だ。涙を必死に拭いながら、槍を握りしめ、前へ踏み出す。後ろから支援していた彼女が、今ここで陸に語りかける。
「陸くん……お願い……目を覚まして……!」
その声が、ほんの一瞬、陸の瞳に変化をもたらす。黒く覆われた神気の鎧がわずかに揺れ、少年の面影が一瞬だけ浮かぶ。
「りん……こ……おねえ……ちゃん……」
か細い声だが、私にも凛子さんにもちゃんと届いた陸さんの叫び⸺。
「まだ……救える……!」
胸の奥で確信が芽生える。私、凛子さん、二人の力で、彼を取り戻すことができる——。
「凛子さん!行きましょう!!陸さんの心を救いに!!」
「うん!……天音ちゃん……!」
息を合わせ、私たちは同時に掌に神気を集中させる。光が弾け、空気が震える。
「神威⸺【輪廻の光】」
凛子さんと同時に私の力を重ねる。後方支援として使っていた彼女の力が、今は前線で陸に届く。
温かく、優しい光が私達を包む。
黒い鎌を振るう陸に、光が絡みつき、神兵化の力が徐々に剥がれていく。鎧が光を反射し、僅かに少年の面影が現れる。その目が私たちに向き、ほんの一瞬だが人としての意思を示す——死者として閉ざされていた魂が、救いの光に触れる瞬間だった。
「……陸……!」
「陸くん!!」
私たちの声に、陸の鎌がぎこちなく下ろされる。その瞬間、神威が完全に展開され、黒い神気が粉々に砕ける。鎌を握る手が震え、神兵としての圧力が消え去った。
床にひざまずく陸。鎧の光は消え、彼の魂が安らぎと共に光に還っていく。凛子は深く息を吸い、槍を静かに下ろした。
「大丈夫……陸くん、もう……もう大丈夫よ……」
凛子の声が震えながらも確かな安堵を含む。
「凛子……お姉ちゃん?……ぼく……」
「大丈夫だよ陸くん……もう終わったから……」
優しく、凛子さんが陸さんを抱きしめる……。
もしかしたら、凛子さんは分かっているのかもしれない……すぐそこに待つ別れを……。
でも、今は二人の再会を喜ぼうと私は駆け寄り、残された気配に手を添える。全身に力が抜け、静寂の中に安堵が広がる——死者であった陸は、ついに解放された⸺。




