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第58話 戦いは一人じゃない

手術室の扉を押し開けた瞬間、鼻を突く鉄の匂いに息が詰まった。

明かりの下、手術台の上には血に染まった白布――いや、その向こうに見えたのは、蒼白な顔の凛子さんだった。


「凛子さん……!」

私は駆け寄り、彼女を支えようとした。


「……あまね……ちゃん……どうして?」

凛子さんの声は弱々しいが、しっかりと私を見つめていた。


「話は後です!とりあえず、ここを出ましょう……私が背負いますから」

凛子さんの腕を掴み、少し強引だがなんとか凛子さんを背負い立ち上がる。


「降ろして天音ちゃん……私にはやらなきゃいけない事があるの……」

彼女はゆっくりと首を振った。

背中越しに凛子さんが私を突き放す。


驚きと不安が胸を締め付ける。彼女の重症を見れば、すぐにでも安全な場所に移すべきなのはわかっていた。


「……凛子さんが何を思って、考えて、一人でここに来たのかは私には分かりません……でも凛子さんが何かしようとしてるなら私が協力します。何があっても一緒に戦います」


それでも凛子さんは首を横に振り、決意の色を濃くした。


「これは、私の問題……」


「そんなこと言わないでください! 私たちは仲間です。一人で抱え込まないで」


声を荒げた私に、凛子さんは静かに言葉を返す。


「私の事、何も知らないのに?」

凛子さんの言葉には、明確な拒絶があった。

今までの私なら、きっとここで引いていたと思う……でも今は違う⸺。

「……はい、私は凛子さんの事何も知りません……凛子さんの事だけじゃない、沢山の事を知りません、でも!知りたいと思ってます!

凛子さん言ってたじゃないですか、一人で戦うんじゃないって」


胸の奥から、込み上げて来ものを必死に言葉にして凛子さんへ向ける。

(届け!⸺凛子さんに届け!)


「だから今度は私が言います。戦いは、一緒に、だから、私も皆も、仲間がいるんです」


しばらく沈黙が続いた後、凛子さんは目を閉じ、ゆっくりと呼吸を整えた。


「……ふふっ天音ちゃんに、叱られる日がくるなんてね……ありがとう……少しだけ昔話聞いてくれる?」


彼女の声はかすかに震えていたが、確かな覚悟を感じた。


私は彼女の言葉に耳を傾ける準備をしながら、覚悟を新たにした。


「はい、教えてください。どんなことでも」


凛子さんの過去を知ることが、これからの私たちの戦いにどう影響するのかはわからない。

でも今は、ただ彼女の声を待っていた。


「まだ、私が八咫烏に入る前……私は看護師だったの⸺」


そこまで言って、凛子さんは深く息を吸い込み、ゆっくりと話し始めた。


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