表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/108

第47話 約束の光

堕天使の相手をしていてくれた紫苑さん達の到着は、思ったよりも早かった。

だけど、それまでの数分が、私には何時間にも感じられていた。


「……一鉄さん」


担架に乗せられ、意識のない一鉄さんが運ばれていく。その横に付き添う私の手は、汗でぐっしょり濡れていた。震えていた。息がうまくできなかった。


「大丈夫だ、一鉄は……良くやった天音」

桔梗さんや絢華さん達が私に寄り添ってくれた。


でも、あの瞬間――結を送った後、一鉄さんが倒れた瞬間、私は咄嗟に身体を動かせなかった。足がすくんだ。まるで地面に縫い付けられたかのように。

目の前で人が倒れたというのに、私は何もできなかった。


今も胸の奥で、その悔しさが燻っている。



病室の淡い灯りが、一鉄さんの顔を照らしている。点滴とモニターが規則的な音を立てる中、私はただ黙って椅子に座っていた。


一鉄さんの手は、どこか冷たかった。

もう、誰も失いたくない。そう思っていたはずなのに――どうして、私はまた動けなかったんだろう。


(……私、何も……できなかった)


ぐるぐると、同じ言葉が頭の中を巡る。

視界が滲みそうになったその時――。


「……あまね……?」


「!」


 かすかな声。私はすぐさま顔を上げた。


「一鉄さん……!」


 一鉄さんの目が、ゆっくりと開いた。焦点が合うまで少し時間がかかったけれど、確かに私を見て、微かに笑った。


「……無事……だったか……」


 その言葉に、胸の奥がきゅっと痛んだ。


「……倒れたのは、一鉄さんの方です……私のことなんて……あのとき、私の足は動かなかった。助けなきゃって思ったのに、体が言うことを聞いてくれなかった。まるで、私がまた……誰かを失う未来を見てしまったみたいに、怖くて、足が……」


 唇が震える。俯いた私の目元に、彼の大きな手がそっと触れた。


「……自分を……卑下するな」


「……え?」


「結を……救ってくれたのは、紛れもないお前だ……お前が居たから、俺は前を……未来を向けた……今でも思うぜ、結に生きていてほしいって……でも、約束したからな結と……」


一鉄さんの声はかすれていたけれど、しっかりと私の胸に届いた。


「……お前が、どんな力を使ったとしても……恩人を悪く言うな。それがたとえ、本人であっても……だ」


恩人――。


私は、ただそれだけで報われるような気がして、胸がいっぱいになった。


「……あの、一鉄さん……」


少し間を置いてから、私は唇を噛みしめた。

これまで、誰にも言えなかった。怖かった。

だけど今は――


「私……自分の力のこと、分からないんです」


 彼の眉がわずかに動く。


「暴走した時も……初任務で、仲間を守ったときも……そして今回、結さんを送ったときも……私は、負けたくない……守りたい……助けたいって思いで力を使いました」


 言葉が、ぽつぽつと落ちるように続いていく。


「でも、何となく分かるんです……あの力は八咫烏としての私の能力じゃないって……私、どんな力を持っているのかも、それが何なのかも……怖くて、誰にも…… もし、私の力が……誰かを傷つけるものだったらって、思うと、怖くて。私の手からあの光が出たとき……もし、一鉄さんに何かあったらって、そう考えてしまって……」


 指先が、膝の上でぎゅっと握りしめられた。


「一人で抱え込むな」


 一鉄さんの言葉は、短くて、温かかった。


「お前は、一人じゃない……頼っていいんだ」


 ――ああ、私は。


 誰かに、こう言ってほしかったのかもしれない。



 その夜、私は初めて少しだけ――


 自分の力と向き合ってみようと思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ