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第42話 ただ、行かなくちゃ……

――行かなきゃ。


誰かのためにとか、役に立ちたいとか、そんなことを考える余裕もなかった。

ただ、胸の奥を焼くような焦りが、私の脚を突き動かしていた。


「……っ、はぁ、はぁ……」


まだ傷は完全に癒えていない。

でも、それでも、あの場所に――。

一鉄さんの、皆さんのところに行かなきゃならない。

それが、私の心がそう叫んでいるように思えた。


だけど──。


「っ!」


ざあっ……空気の流れが変わった瞬間、視界の先に黒い影が降り立った。


「天使……っ」


白銀の羽を広げ、複数の天使が空から舞い降りてくる。

それぞれが人型に近い姿ではあるけれど、人の温度は感じなかった。

目の奥に、どこまでも冷たい光。


――“排除する”。

その意志だけが、刃となって私に向かってくる。


「邪魔……しないで……!」


私は、腰に差した刀を抜いた。

今の私が持ちうる唯一の武器。

刀を握る手に、私は力を込めながら、意識を集中させた。


(速度、上昇……視覚、補正)


「八咫烏⸺【視覚拡張】」

刃の一部が淡く青白く光り、同時に私の視界が拡張する。


「うあ……ッ」


両目に鋭い痛みが走る⸺。

それでも振り払うように、私は天使たちに突っ込んだ。


一体目。

舞いかかってきた瞬間、私は身を沈めて、腹部を袈裟斬りにする。

肉を断つ感覚はない。代わりに、まるで霊体を裂くような感触が手に残った。


二体目。

滑るような動きで横から迫るそれに対し、私は地面を蹴って飛び上がる。

視覚補正により、相手の動きの僅かな遅れを読めた。


「……っ!」


空中で一回転しながら、刃を水平に振る。

天使の片翼が断たれ、黒い羽が舞った。


(でも、まだ……まだ来る!)


周囲を囲むように、五体、六体と数が増えていく。


『大罪人――』


その中の一体が、低い声で言った。


「……?」


『人の世に堕ち、記憶を捨て、贖罪を忘れし、大罪人よ。

 この地に神の咎を連れ来たる者。貴様は、粛清されねばならぬ』


「……何を……」


訳が分からなかった。

でも、その言葉が、心のどこかを刺した。


(何?……なんでこんなに……こんなに心がざわつくの……)


「うるさい……!」


刃に力を込める。

「八咫烏【斬撃付与】⸺!」


爆ぜるような音と共に、剣の刀身がうっすらと紅く光る。

一気に踏み込み、三体まとめて斬り伏せた。


「はぁ……っ、く……!」


膝が崩れる。右腕が、痺れて動かない。

でも、止まれない。止まってる場合じゃない。


「行かなきゃ……みんなが……!」


私は、血の気の引いた指を刀に添え直し、再び立ち上がった。

……あと少し。

この先に、皆が……一鉄さんが待ってる。


たとえ私に、何もできなかったとしても。

行かなきゃならない理由が、そこにある気がしていた。


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