第38話 皆がくれた、優しい笑顔
温かい匂いが漂う食堂で、一鉄さんと別れた私は、重い気持ちのまま食器を片付けていた。
(……私……何なんだろう……)
初任務での自分の無力さも、夢の事も、紫苑さんの事も、一鉄さんの後悔も……。
多くの事が一気にのしかかったように色んな思いが胸の奥で渦巻いて、どんどん沈んでいく気がした。
切り替えたくても、思考は考える事をやめない。
その時⸺。
「……こんな所に居たのね。」
凛とした女性の声に顔を上げると、食堂の入り口には絢華さん、凛子さん、桔梗さん、千歳さんが立っていた。
「……皆さん……?」
「探したのよ。食事終わったらすぐ戻ると思ってたから。」
絢華さんが冷たいようでいて優しい目を向ける。
「心配したんだよ? 天音ちゃん。」
凛子さんが穏やかに微笑む。
千歳さんもそっと私に近づき、小さく首を傾げた。
「……少し、外に出ない? 夕暮れの空……綺麗だから。」
「そうね。こんな所で塞いでいても良いことなんてないわ」
絢華さんが静かに言った。
「……でも……」
八咫烏に入ってから、一度も地上へ出た事はないて……。
訓練や任務で、そんな機会が無かった……。
私が言いかけると、桔梗さんがふっと笑って肩をすくめる。
「絢華の言う通り、こんな地下に居たらあんた……ずっと塞ぎ込んだままでしょ?……何があったのかは知らないけど気分転換も大事よ。」
「認識されなくても、私達は人間……人間はね外の空気を吸わないと、腐るわよ。」
絢華さんが短く頷くと、桔梗さんがひょいっと私の腕を掴む。
「ほら、行くわよ。」
桔梗さんの手は冷たいけれど、その奥に確かな優しさがあった。
「はい!」
そう言うと、皆は満足そうに微笑み、私を囲むようにして食堂を後にした。
──外に出ると、涼しい風が頬を撫でた。
夕暮れの空は茜色に染まり、遠くで鳥の声が聞こえる。
「……綺麗……。」
思わず呟くと、凛子さんが微笑んだ。
「でしょ? 天音ちゃんも、こういう景色を見て気分転換しなきゃ。」
「無理はしないでよね……」
絢華さんが静かに言葉を落とす。その横顔は、いつもより少し柔らかかった。
千歳さんが空を見上げ、小さく呟く。
「この夕暮れ……前にも皆で見た気がする。なんだか懐かしい……。」
「は? 何言ってんの千歳。」
桔梗さんが呆れたように笑った。でもその笑顔はどこか優しかった。
(……皆……ありがとう……こんな日々が続けばいいのに……)
優しい風が吹き抜けていく⸺。
その時、ほんの少しだけ胸の奥が軽くなった気がした。




