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第37話 君には生きていてほしいな

やっと、病室から起きて出歩ける程に怪我が回復した頃……。


温かい匂いが漂う食堂で、私は一人、湯気の立つお粥を見つめていた。


(……少し……味が分かるようになってきた……)


怪我も痛むけれど、もう歩けるし、こうして食事もできる。


それだけで、少しだけ気持ちが軽くなる。


「……こんなもんで腹膨れるのか?」


突然かけられた低い声に顔を上げると、そこには一鉄さんが立っていた。


「い、一鉄さん……」


「よぉ………怪我はもう大丈夫なのか?」


「……はい……まだ少し身体は痛いですが大丈夫です。」


返事をすると、一鉄さんは無言で私の向かいに腰を下ろした。


テーブルに肘をつき、じっと私を見ている。


(……なんだろう……)


黙っていると、やがて一鉄さんは小さく息を吐いた。


「……お前のそういうとこ……」


「え?」


「……娘の……娘の姿に似てんだよ……必死に戦う姿が、どことなく似てたんだよ……」


思わず箸を止める……。


「……娘さん……?」


「ああ……お前みたいに、素直で頑張り屋でそのくせ、泣き虫で……でも……それでも弱音は吐かなかった……痛くても、辛くても最期まで戦い続けたんだ……」


その声は、ひどく静かで。

声とは裏腹に、言葉の端々から後悔が伝わってくる。


「……でも……結局……高校入学を前に逝っちまった……楽しみにしてた制服に1回も腕を通す事なくな……。」


目の奥に、深い影が落ちている。


「……何もしてやれなかった。」


私は、喉がきゅっと詰まる。


でも、必死で声を出した。


「……そんなこと……ないです……。」


「……?」


「一鉄さんが居てくれたから……私……ここに居られるんです……。」


「……は?」


「初任務の時……一鉄さんが大型堕天使を足止めしてくれたから……

私と凛子さんは……救助者を無事、シェルターに送り届ける事ができました……。

もし、一鉄さんが居なかったら……あの人達……助からなかった……だから、ありがとうございます」


胸が熱くなる⸺。


「叱ってくれて、励ましてくれて……

一鉄さんが居たから……最後まで……戦えました……最後まで、刀を握っていられたんだです」


一鉄さんは、じっと私を見ていた。


やがて、俯き、くぐもった声で呟く。


「……そうか。」


その横顔が、少しだけ歪んで見えた。


「……しんみりさせて悪かったな。」


立ち上がり、背を向けた一鉄さんが、歩き出すその背中越しに言葉を落とす。


「……天音……死ぬなよ。」


小さな声だった。


でも、その言葉が胸の奥に強く刺さって、私は涙を堪えながら、小さく頷いた。


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