表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/108

第33話 私が私じゃなくなる恐怖

真っ白な天井がぼんやりと視界に映る。


(……夢……だったの……?)


喉がひりつくように痛い。

胸の奥が、ずっと冷たい指で掴まれているみたいに苦しい。


──誰……あの人……。


震える手で顔を覆う。

涙が止まらない。理由なんて分からない。

ただ、恐ろしくて、苦しくて、怖くて……でも。


(……知らない……知らない人……)


必死にそう思う。

あんな瞳も、あんな声も……知らない。

でも。


(……でも……どうして……)


胸の奥が痛む。

何か大事なものを思い出さないようにと、自分で自分を押さえつけているみたい。


「……っ……いや……」


震える声が喉から漏れた。


(やだ……いやだ……あんなの……知らない……)


記憶を探れば探るほど、頭が割れそうになる。

寒気がして、全身が硬直する。


(でも……知ってる……気がする……)


冷たい汗が背中を流れる。

心臓が速くなる。


(……知ってる……でも……誰……?)


自分の中に、二つの声がある。


「知らない」と「知ってる」。


その二つがぶつかり合って、呼吸が荒くなる。

喉の奥で嗚咽がこみ上げる。


(……やだ……怖い……)


涙が滲む。

息ができない。

頭がおかしくなりそうだ。


(助けて……誰か……紫苑さん……っ)


でも、誰も来ない。


白い天井だけが、ぼやけて揺れている。


(……私……どうなっちゃうの……)


嗚咽を噛み殺しながら、私はただ震えていた。


──そして。


気づけば、ベッドを降りていた。

点滴の針を乱暴に引き抜き、ドサッと落ちる感覚もその痛みすら感じない……。

ただ、逃げ出したい……この得体の知れない恐怖から……。


(……一人でいたくない……)


怪我の痛みなんて、どうでもよかった。

頭がふらつくけれど、それすら現実味がなくて。


病室の扉を開けると、冷たい廊下の空気が肌に触れた。

足元がふらつく。


それでも、歩く⸺。


(誰か……誰でもいい……)


八咫烏本部の無機質な廊下、壁をつたいながら歩く。

静まり返った夜の気配が、余計に怖かった。

まるで、世界から切り離されたような感覚になる。


(お願い……誰か……助けて……)


泣きそうになりながら、私はただ歩き続けた。

誰かに会いたくて、誰かに触れたくて。


──そしてふと、あの赤い瞳を思い出す。


(……やだ……やだよ……)


あの赤い瞳を思い出すたび、

まるで自分が自分じゃなくなるみたいな感覚がして……怖い。


胸の奥で、夢の中の声が微かに囁いていた。


《……戻ってこい……私の元へ……愛しい……私だけの……》


「……いや……っ」


掠れた声が、誰もいない廊下に虚しく響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ